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どう打つの?森  作者: 工場長
東二局・このままいけば卒業できそうです
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第二十六話 諸行無常にしたくはないな

 純の脳内に葵塚ファミリーランドの入場ゲートが浮かび上がっている。

(森先輩たちが戻って来て、三菜ちゃんの件が落ち着いてから行こうかな)

 昨日凛のウソに納得して帰った四郎だが、また押し掛けてくるとも限らない。

(帰りは明後日の夕方か……)

 ふと、純は西の方角を見た。目の前に部室のホワイトボードがあるが、もちろんそれを見るためではない。

「純ちゃん、今日は部室ではやらないって」

 廊下で凛と電話をしていた通子が中の純に声をかける。

「えっ、それじゃあ外?」

「うん、前にみんなで行ったケーキ屋さんあるでしょ? 先生が電話で予約してくれたから明日もそこで、って」

「それじゃあ三奈ちゃん彩ちゃんも呼ばないと」

 純は急いで机の上に並べていた私物をしまう。

「あ、それは凛先輩がすでに声をかけたみたい。あと知らないのは正二君だけど、私がメールしておくから」

「任せた通子ちゃん」

 どこを通れば陸上部との接触を避けられるか? 純の頭はその検索に必死だった。



「お疲れー、突然の変更悪かったね」

 フードパークの駐車場にて凛が笑顔で純と通子を迎える。

「いえいえ、事情は分かりますから」

 純は笑顔で応えながら先に来ていた三菜の方を見る。なんだか申し訳なさそうな顔をしているのは、自分がこの騒ぎの原因であることを自覚しているのだろう。

「三菜ちゃん。一人で考え込んじゃダメだよ。私たちは同じ麻雀部の仲間なんだから、ね」

 三菜の方へ寄って声をかけると、彼女は頷く。その表情はすこし明るくなったのか、隣の彩が安心したようにお礼を言う。

「純先輩、ありがとうございます。三菜ちゃん落ち込んでいて私も励ましていたんですが……」

「そうよ、純ちゃんの言うとおり、あんなバカな空気読めないやつのために一人落ち込むなんて損よ」

 通子が思い切り三菜の肩を叩くと彼女は痛いのか口を引きつらせながら微笑んだ。


 励まされてばかりでは悪いと三菜は話題を返る。

「と……ところで凛先輩。今日も『コージートミター』ですか?」

「えっ? 今日はケーキ屋『ケーキファイター』だけど?」

「あっ、そうですか。このお店はその『コージートミター』しか行った事なかったので……」

「以前私たち二人は部長さんに奢ってもらったんですよ」

 彩が付け足すと通子は

「えっ!? 奢ってもらったって先輩とデートしたの?」

 と、目を丸くする。

「通子ちゃん、私たちも二人で葵塚ファミリーランド行ったでしょ?」

 純が通子に落ち着くように求めると今度は彩が

「えっ、そっちの方がデートじゃないですかー」

 と、口を大きく開けた。

「なんだかこの話だけ聞くと和君はモテモテねぇ……」

 凛が感心しながら頷くと、「そろそろ入ろうか」と部員たちを促す。

 正二がまだ来ていない。と言おうとした純だったが、視界の端に慌てながら走ってくる正二の姿が見えた。



 滋賀県・安土あづち城址――

「うわーっ、広い!」

 山の頂に立ち、そこからの景色を見た杏子が感激の声を上げる。

 眼科に広がるは緑の稲を敷き詰めた水田。その向こうには湖としてはこの国一番の広さを持つ琵琶湖。

「すごい眺めね。ここに城を築いた織田信長おだ のぶながも、ここから毎年稲が実るのを楽しみにしていたのかしら」

 一香の脳裏には緑の水田が、黄金のように輝く秋の景色が描かれている。

「実は信長の時代にはここに水田は無かったんだ」

「じゃあ何があったの? わへい君」

 一香の問いに和平は水田の遥か向こうを指差して

「琵琶湖だよ。当時は山の下まで湖で、京の都に行くときは信長はここから船に乗ったと言われているんだ」

 和平の頭の中では港を出る信長の船と、物資を運び入れるための小さな小舟たちが映し出されている。

 合理主義と言われている信長だから、自分が出かけるときにも小舟が出入りしてても一向に構わなかったであろう、と和平は考える。

「戦争の無い時代になってから国は琵琶湖の一部を埋めて水田にしたんだ」

「どうしてそんなことを?」

「この計画が出来たのは戦争に負けた後で、みんな食糧難に苦しんでいたんだ。当時の人としてはそんな思いを二度と味わいたくは無かったんだろうね」

「食糧難か……今となっては湖を埋めるなんて景観的にはもったいない気もするけど」

 水田を眺めながら一香が呟く。

「もちろん当時もそういう理由で反対する人はいたよ。でもそれを分かった上で食糧難解決を優先させようとする人もいた」


 そこまで言い終えると和平は一香の方を向いて

「埋めようとする人も反対する人もどちらも理由があったんだ」

「う、うん……」

 一香はなぜ和平が自分を見たのか分からずに戸惑う。

 杏子は遥かな湖上に浮かぶ遊覧船を見ているので、二人の会話を聞いていないようだ。

 遠くから聞こえる低くて太い音はこの船から出ているのであろう。

「清水さんの進路希望について理由をつけて反対する人はいるかもしれない。でも俺はどんなに理由を言われても俺は清水さんに賛成だから」

 昨夜、三菜の件で麻雀部に押し掛けた四郎の話を聞き、一香にも同様のことが起きないとも限らないと和平は考えたのだ。

「あ、ありがとう。わへい君……」

 少し顔を赤らめながら答える一香。それを見て和平も変に言いすぎたかと戸惑う。


 そんな気まずい雰囲気は一分と保たなかった。

「ヤッホー!!」

 杏子が立ち上がるといきなり湖に向かって叫び出したのだ。

「あ、あん子っ! 何やっているの!?」

 一香がさっきよりも顔を赤くさせる。

「いや、山の頂上でやることの定番でしょ?」

当然のことをしたまでと答える杏子。

「た、確かにここは山だけど……」

 和平の反論は杏子の挨拶に応えるように鳴らされた遊覧船からの警笛によって途切れる。

「ほら、全力で叫んだら聞こえたよ!」

「ほんとだ、すごいねあん子」

 思わぬ返事にはしゃぐ一香と杏子。和平は対称的に後ろを向く。

 かつて天下布武てんかふぶの城として豪華を極めた安土城は跡形もない。

 三菜の件と一香の件。その他のことでも対応次第では和平が作った麻雀部もこうなってしまうのではないか、と気を引き締めるのであった。

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