第十七話 何を考えているのか分からない
卓球台を折り畳んで端へと追いやり、できたスペースに麻雀卓を置く。
「卓球部は連休中こっちには来ないからな」
直がそう言いながら電源をつけて卓の動きを確認する。
「元に戻すときはどうするんですか先生。物置小屋に麻雀卓を入れたら埃で大変なことになりますよ」
和平が牌をゲタに積みながら尋ねると
「合宿から戻り次第、校長に掛け合って部屋の一つを麻雀部屋にしちゃえばいい」
その代わり、ずっと合宿はここかもな。と直は笑いながら麻雀牌を卓に入れる。
「校長先生ならそういうのは簡単にオッケーもらえるでしょうねぇ」
凛がミーティングルームからパイプ椅子二つ持って来た。
「こ、これで四人分です」
そして三菜がもう二つ。
「さーて、ここには部員が五人いるけど、麻雀卓は一つだけだ……、そこでこの五つの牌から一人一個選んで『白』を取ったやつは見学!」
「くっそー!!」
「白」を引いた正二は麻雀できない悔しさを先ほど凛にやられた女性キャラで晴らそうとしている。
残った四人の席順はこうだ。
東・一香
南・凛
西・和平
北・三菜
「それじゃあ親決めるね……」
一香がサイコロを振り、起親は凛に決まる。
凛の親は和平が満貫で流したが、その後は凛が続けて和了ってオーラスを迎える。
オーラス開始時の点数
一着 凛 36200
二着 和平 33000
三着 三菜 21800
四着 一香 9000
オーラス 親・一香 ドラ(3)
(3900を和了れば逆転トップ……)
和平の配牌はその必要とする点数が狙えるものだ
六七九(345)2678東西北
東は場風、西は自風。その二つの字牌のどれかを鳴いて「役牌ドラ2」にするか、字牌と端を切って「タンヤオドラ2」にもできる。
しかし、トップの凛も負けてはいない。
テンパイをしなければ流局して四着となってしまう一香が、いらない「索子」を切るがそのたびに
「チー」
「ポン」
と凛に鳴かれてしまう。
(俺は下家だから『チー』はないけど……)
そう思っても索子を切るには気合が入る。
それでもなんとか十順目でトップに立てる条件を満たす。
五六六六七(345)66788
「7」でロン→「タンヤオ・イーペーコー・表ドラ1 5200点」
(『7』は出るかな……。おそらく凛が持っているだろうけど……他から出ても充分トップだからなぁ……)
上家の凛が鳴いている牌を改めて和平は見る。
チー234 上ポン999
(索子の清一か混一だよね……)
順子ができているからトイトイ・チートイツではない。さらに「234」だからチャンタも純チャンも否定している。
そして次の「9」ポンでタンヤオと三暗刻も否定。
(ならば消去法で染め手か……、あるいは役牌……)
そう考えた和平がツモってきたのは「3」
(こういうの持ってきちゃダメなんだよ……)
河に見えている索子は和平が切った「1」が二枚と「2」が三枚。
さらに「678」は和平が持っている。和平からは見えない「345」を凛が持っている、もしくは待っている可能性が高い。
そのため和平は凛が一順前に切っている「五」を切る。
下家の三菜は和平が
「攻めるのもいいが、攻めるためにどうしても『これ』は切らなくてはいけない。という状況じゃ無い限り、切っても大丈夫な牌から切れ」
と、教えたので悩みながらも「一」を切る。
(索子でもなく字牌でもない……。成長したと見ていいか)
一香はテンパイしなければならない状況なので、危険牌を切らずに取っておく余裕は無い。だからいらなければ赤ドラも切っていくが、幸いにして索子が切られることはない。
そして凛のツモ順を経て和平の番。次のツモは「4」
(これもダメダメ!)
「4」も手牌に入れて代わりに「七」を切る。
「ポ、ポンッ!」
一香が鳴いて和平の「七」を手に入れる。その瞬間、ふと安心したような顔が見えた気がした。
(清水さん、テンパイしたな……)
一香がテンパイし続ける限り、この勝負は終わらない。この点差なら一回二回軽く和了ってもいい(もちろんツモか、和平以外から和了る)。
オーラス僅差での二着の者にとって、自分の和了りが期待できないのなら親にテンパイをさせて時間を稼ぐのはよくある手段だ。
結局誰も和了れず、流局を迎えた。
「一香ちゃん、一応ルール確認するけど流局時のテンパイ・ノーテンは親からだよね」
「え、ええ、はい……、私はテンパイです」
と、牌を倒す。
(……で、凛もテンパイ……)
ところが凛は牌を伏せて
「ノーテン」
と、言ったのだ。
(凛……ブラフをかけて俺の5200を消したか……)
もちろん和平はノーテンなので、牌を伏せる。
「凛先輩に騙されました」
三菜は灰を伏せて落ち込む。
「続行で一本場だ」
和平は1000点を一香に支払った。
オーラス一本場開始時の点数
一着 凛 35200
二着 和平 32000
三着 三菜 20800
四着 一香 12000
(これ俺がテンパイしていたら凛はどうするつもりだったんだろ……)
そう思いながら凛との点差を確認した和平にある考えが浮かび上がる。
(もしかして、凛は『本当は』テンパイしていたのではないか?)
和平は凛を見るが、普段から細い目をさらに細くさせて
「どうしたの? 和君」
と、穏やかに声をかけるだけだった。




