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どう打つの?森  作者: 工場長
東二局・このままいけば卒業できそうです
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第十六話 後でこっそり戻せばよい

 朝食の後、部屋で微睡んでいた和平は、トラックの音に目を覚ました。

「やっと来たかー!」

 廊下から直の声がする。

(トラックが来たってことは……、先生が待っていたのは人じゃなくて荷物だな)

 不意に扉がノックされ

「わへい君、起きてる?」

 と、一香の声が。和平はすぐさまベッドから降りて扉を開ける。

「清水さん、どうしたの?」

「やっと、届いたみたい」

「えっ、何が?」

「麻雀卓」


 一香の答えに和平は戸惑う。

(えっ?麻雀卓って最初からここに無かったの?)

「やっぱりそういう顔になるよね」

 一香も最初は驚いたようだ。

「でも考えてみれば麻雀部って今年できたばかりだもの、合宿所に卓が無いのも当然よね」

 自分の言葉に頷く一香の後ろから。

「うー、おはよー。一香・森君、二人ともご飯食べた?」

「私とわへい君はもう食べたわよ、あん子」

「そっかー、じゃあ私は一人で食べるとするよぉ……」

 杏子は寂しそうに口を尖らせると、食堂へと向かった。

「さて、清水さん。俺たちは麻雀卓を迎えに行きますか?」

 和平のお誘いに、一香は目を細めて

「そうだね、行けば最初に麻雀が打てるかもしれないし」

 ならば行こうか、と部屋を出て鍵をかける和平だったが

「ところで……、麻雀卓ってどこに置く予定なのかしら?」

 一香の質問に、鍵を落とす和平。

「……、ミーティングルーム以外で麻雀卓置けそうな広い部屋ある?」

「うーん、卓球台とかビリヤード台とか置いてある部屋はあるけど……、入りきれるのかしら?」

 目を細めることに変わりは無いが、眉間にしわの入る一香。

「とりあえず玄関まで行こうか」


 和平と一香が玄関についたとき、ちょうど引渡しは終わったらしく、トラックは大きな音と煙を吐いて動き出していた。

「おう森、ちょうどよかった。運ぶの手伝え」

 届けられた麻雀卓は一台。その一台を直が楽しそうに押している。

「大丈夫ですよ先生。私がやりますから」

 先に来ていた三菜(おそらく一番乗りのつもりなのだろう)が直とは反対側の角を持つ。

「こういうのは力のある男性がするものだから、大丈夫だぞ色部」

 直が笑いながら言うと、三菜は少しムッとした表情になり

「それじゃあ三人で運びましょう。わへい部長は手前の角を押してください」

 と、わへいに一番近い卓の角を軽く叩く。

「う、うん。分かった」

 三菜に従う和平。


「ところで先生。この麻雀卓、どこに運ぶつもりですか?」

 一香が先ほど和平と二人で悩んだ質問を直にぶつけてみると直は上を向いてしばらく考えていたが

「どこに置こう?」

 それを聞いた和平は、少し引きつった笑顔を浮かべて

「た、確かこの合宿所って『遊戯室』みたいなのあるんですよね」

 と、ついさっき一香から聞いた「卓球台のある場所」の話をする。

 それを聞いた直はよくぞ言った、とばかりに拍子を打って左手で和平を指差すと

「そう、そこに置こうと私も思っていたんだよ。何か邪魔して置けなさそうだったらそいつをどかせばいや」

「それじゃあそうしましょう」

 麻雀卓を置くためには邪魔なものとは言え、勝手に動かしてよいのだろうか、と和平は苦笑のまま首を傾げる。



「これって学校の『遊戯室』と言うより温泉旅館やホテルにあるゲームセンターじゃないですかね……」

 目的地にたどり着いた和平がその部屋の様子を見て呟く。

 卓球台やビリヤード台は一つずつ置かれている。

 それならばまだ部活のために必要なもの、と考えられるが格闘ゲームや音楽ゲームまで置かれている。

 しかも百円玉を投入するための穴がガムテープで塞がれている。つまりプレイ代は無料だ。

 そんな格闘ゲームの椅子に凛が笑顔で座っている。スティックを動かす左手・ボタンを押す右手の動きは慣れていて初心者ではないことが分かる。

「和君、おはよう。麻雀卓届いたんだね」

 こっちを向いて笑顔で挨拶をする間も、両手の動きを止めることは無い。音で自分と敵の位置を把握しているのだろうか。

「えっ、来たんですか? 麻雀卓」

 凛の反対側の台から、正二の声が聞こえた。その瞬間、凛の表情から笑みが消え両手が激しく動く。顔はこっちを向けたままだ。

「うわっ、やべえっ」

 正二が動かすキャラがボディの甘さを指摘されつつ殴られ、燃やされていく。その悲鳴は女性のもので、負けてしまったのか父親に謝罪の言葉を叫んで倒れた。

「凛先輩、強すぎですよ! これで三連勝しゃないですか」

 正二が立ち上がって、悲鳴をあげる。

「何を言っているの? 対戦中によそ見をするのが悪いんでしょ?」

(いや、凛だって俺たちの方向いていたじゃないか……)

 凛のあの細い目は、細い変わりにものすごく視野が広いのではないか? と、和平は

「そうだな、凛の言うとおりだぞ正二」

 凛を支持する。

「……、次は私と勝負して欲しいな」

 三菜が小さく呟くとそれを聞いた一香が

「とりあえず麻雀卓を置いてからにしようか」

 と、苦笑しながら三菜に囁いた。


「海月と九断も麻雀卓を置くの手伝ってくれるか?」

 直が声を上げると

「そうですね、置いて早速麻雀しましょう直先生! でも置くところ無いですよ?」

 凛の言うとおりで、この部屋には麻雀卓を置くだけのスペースが無い。

「誰もやっていなさそうなゲームをどかしたらどうだ?」

 直が答えると、凛は声を弾ませ

「そうですね、そうしましょうか。それじゃあ……、卓球部は今日いないし簡単に動くから、あれをどかしましょう」

 と、卓球部が聞いたら大問題になることを言う。

「そうだな、どかそう」

 直も止めることはしなかった。

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