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どう打つの?森  作者: 工場長
東二局・このままいけば卒業できそうです
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第十五話 体にいいことしてみたい

 昨日は寿命の縮む思いがしたので今朝は身体にいいことがしたい。

 正二のいびきで和平は目覚めるとそんな決意とともにテラスに向かう。

 テラスに着くとサンダルを履いて庭に降りる。昨日は闇の世界だった森が、鮮やかな緑色を湛える。

 視線を上に向ければ、その森の主である筑波山。

 朝早くから自然の気配に囲まれることで健康なことをしている気になる。


「おはようわへい君」

 振り返ると、一香がいる。長い黒髪は寝るためにゴム紐で纏めたのだろう、左右に一つずつ小さなちょん髷ができている。

「ああ、清水さん。おはよう」

「なんだ、わへい君がいると知ってたならもう一人分持ってくるんだった」

 一香の右手には、コップに入ったオレンジ色のジュースが。

「えっ、そのジュースのこと?」

「そう、もう食堂開いていたからミックスジュースもらってきたの」

 この自然の中で飲むジュースはきっと昨日の疲れも身体から洗い流してくれるのではないか、和平は唾を飲み込んだ。

 それに気づかない一香は遠慮なくジュースを一気に飲むと

「ぷはぁっ、美味しい」

 と、爽やかな笑顔を見せた。

 例えこれが苦くて青臭い草色のジュースでも彼女なら「不味い!」と言いながらもこの笑顔になるだろう。

(飲めなくても……、この笑顔で充分癒されるわ)

 見ている和平も自然と笑顔。


「それにしても昨日は災難だったね。私、本当に心配したんだから」

 昨夜、和平と杏子を助けに行こうとした際、真っ先に名乗ったのは一香だった。

 その話を聞いたとき和平はひそかに心躍らせたが、冷静に考えれば和平だけではなく杏子もいたからだと思う。そうでなければ「麻雀プリティ」に変身(?)しない。

「先生は相手が『サバイバルゲーム部』だって知っていたからワクワクしながらあのマシン用意してたけど、途中で聞くまでハラハラしていたんだから」

 杏子の無事を祈る思いがサバイバルゲーム部にぶつけられたのだろう。自業自得とはいえ少し彼らに同情したくなる。

「心配してくれてありがとう。あん子の方は大丈夫?」

 和平はともに昨夜の危機を乗り越えた杏子を気遣う。一香と杏子は相部屋だ。

「よっぽど疲れたのか部屋に着いた途端、ベットに倒れこんで寝ちゃった。たぶん今もぐっすりね」

 そう言いながら一香は空のコップを見ると、

「わへい君の分も取ってくるよ」

 と、廊下に上がろうとするが


「その必要はありませんよ」

 と、三菜がミックスジュースを三人分持ってきた。寝起きのせいかいつもは両端へ釣りあがっている目が、真一文字になっている。

「おはよう、三菜」

「三菜ちゃん、おはよう。ってジュース三人分……?」

「私と、一香先輩と、わへい部長合わせて三人分です」

 そう言いながら、三菜は和平と一香にジュースを手渡す。

「誰よりも早く、一番にここに来たかったのですが、残念ながらわへい部長と一香先輩に先を越されてしまいました」

 「私は負けず嫌いなので悔しいです」と、三菜はジュースを飲む。


「彩ちゃんはまだ寝ているの?」

 一香が三菜と相部屋の彩のことを尋ねると

「彩ちゃんは昨日の詠唱魔術部……でしたっけ? その会長さんと朝ごはん食べに行きました。今のクラスも、出た中学も同じだそうです」

(同じ中学ってことは……、部活も同じ合唱部か……)

「詠子ちゃんだっけ? 彼女も合唱部出身なのかしら」

 一香も和平と同じことを思っていたようだ。

「うーん……、嫌な思いをした部活の人とは会いたいのでしょうか……?」

 コップを両手に持ちながら三菜が悩む。

 それを見た和平は彩ではなく、三菜に対して何か聞こうと思ったが、それはミックスジュースとともに腹の中へとしまう。

「とりあえず、お腹も減ったし食堂に行こうかな。彩もまだいるかもしれないし、清水さんと三菜は?」

「そうね……私も行こうかな」

「私はこの空間を暫く独占します」



 三菜をテラスに残して和平と一香が食堂に着くと、彩と詠子はおらず、代わりに通子と純がパンにバターを塗っている。

「あれ、先輩と清水先輩だ。おはようございます」

「おはようございます。森先輩・清水先輩」

「おはよう通子・純ちゃん」

「つこちゃん純ちゃんおはよう」

 ふと一香が通子にもあだ名をつけていることに和平が気づく。通子も何も言わないのは認めているのだろう。

「『つうに子で通子とおこ』だから、『つこちゃん』……?」

「うん、そう。昨日思いついた」

「ああ、そうか……」

 そう言いながら同じテーブルに着く和平と一香。


「あれ、一緒に来た上に同じ席ってことは朝からデートですか?」

 通子が目を光らせる。驚きのあまり皿の上にパンを落とした。

「通子ちゃん、部内の恋愛は互いに責任さえ持っていればいいのではないでしょうか」

 純は冷静にパンをかじる。

「ええっ、どうしてそうなるの!?」

 驚いて立ち上がる一香。

「そ、そうだよ。たまたま朝テラスで会っただけだよ」

 ちょっと複雑な気持ちになりながら反論する和平。

「そうですか、そうならいいんですけど」

 本当にほっとした表情になってフォークを手にする通子。

 目玉焼きの半熟な黄身にそれを突き刺し、トロリと出てきた黄身に醤油をたらしてフォークでかき混ぜる。

(あれ、からかっているのか? マジで言ったのか?)

 通子に思い切って「なに、嫉妬してんの?」と聞けば通子から発言の真意を聞き出せるかもしれないが、高確率で真意を得るどころかいろいろなモノを失ってしまう気がする。

(単に部活内恋愛を気にしてのことだな)

 恋はしてみたいが、相手が麻雀部員の場合、下手を打って部内に問題を作れば麻雀部の存続および和平自身の卒業が危うくなる。

 そこまで考えて和平は背筋に寒さを感じた。

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