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どう打つの?森  作者: 工場長
東二局・このままいけば卒業できそうです
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第十四話 こんなことになるなんて悲しい

「お前らゲーム中に乱入してきたとはいえ、うちの部員を撃つなんて、度胸あるなぁ」

 先程まで和平たちに対して土下座をしていた迷彩服一同は、直に跪いている。相手チームも合流したため人数はさらに倍。

 直の隣にあるのは今回武器としてしようしたピッチャーマシン。野球ボールの変わりにテニスボールを使って彼らを徹底的に痛め付けた後の説教である。

 マシンの隣でテニスボールを片手に迷彩服を睨むは、「麻雀プリティ」。……もとい一香。

「ゲームするなら入り口とかにそれを知らせる貼り紙とかする必要あったんじゃないの!?」

 一香の口調は直より丁寧だが、迫力は彼女に匹敵する。

「そうですよ! 先輩と、あん子先輩に何かあったらテニスボールどころじゃ無いですからね!」

 通子も負けてはいない。

「は、はい……すいません……」

 丸腰になっての弱気か、三人の怒りに触れてのことか、彼らの元気はない。


 ふと、和平の耳に僅かながら歌が聞こえてきた。

(これがあん子とこいつらが聞いたと言う……)

 正体を知っているためか、落ち着いているためか、歌には不気味さを感じない。むしろ何か祈っているような気もする。

(そろそろあっちの人たちにも出てきてほしいな)

 和平は説教をしている人たちから少し離れると、歌が聞こえてきた辺りを見て叫ぶ。

「おい、いるんだろ? 『詠唱魔術研究会えいしょうまじゅつけんきゅうかい』。こっちは大丈夫だ、平和の祈りとかはもうやめてこっちに来ないか!?」

「詠唱魔術研究会……?」

 直たちの登場により出番の無くなった杏子が和平に尋ねる。

「俺たちと同じく今年できた新しい部活だ」

「じゃあ部員は男ばっかりなのかな?」

「まあおそらくは……」

(それにしては声が高過ぎるような……)

 ヘリウムガスを吸って魔法を唱えているのだろうか。


 やがて和平の視界が急に光に包まれたかと思うと、前から茂みをかき分ける音と

「そうですか、誤解の悪魔は立ち去りましたか」

 と、詠唱魔術研究会員の声。

(こっちも本格的だな……)

 先頭は男二人がかりで持った大きな鍋。持ち手の二人は映画でよく見られる魔法使いの服を着ている。

 その後ろにいるのは、男たちと着ている服は同じだが、サイズはぶかふか。さらに唯一とんがり帽子を被っている。

 なんとなく和平は装備の差からこのとんがり帽子が研究会内では上の立場だろうな、と思った。その者が帽子の鍔を上げて顔を見せる。

「夜の森で魔法を使ったキャンプフアイヤーをしていたのですが……、とんでもない騒ぎを招いてしまったようですね」

「森君、この人だよ。歌っていたの」

「ああ、俺も聞こえたのは彼女の声だ」

 そう、詠唱魔術研究会を仕切る魔法使いは女性だった。



「おい、森・三石。二人のためにあたしらが説教しているのにどこへ……って、そうか『詠唱魔術研究会』を連れてきたか」

「詠唱魔術研究会?」

 通子が杏子と同じ問いを直に向ける。

「合唱部と魔術研究会を合体させたやつだ。先に上げた二つともすでにうちの学園にあるからな、苦肉の策って事だよ」

 直の言う通りなら「新しい部を作る」事は簡単なのだろう。問題はそれを維持して学園に認められるかどうかだ。

「どうもこの度はうちの部がご迷惑をかけた様で……」

 魔術師はそう言いながらとんがり帽子を取る。

 丸く開かれた目に分厚い唇ながらも頬筋はしっかりとシャープ鼻筋はすらっとしている。髪型は茶色のツインテールだ。

「私、『詠唱魔術研究会』会長。長谷川詠子はせがわ えいこです。会長としてこの事態を招いたことお詫びいたします」

 詠子は脱いだとんがり帽子を片手で胸につけるように抱えると、片膝をついて直に挨拶をする。

「礼儀正しいねぇ。別にあたしはあなたたちが悪いとは思っていないよ。悪いのは周りに注意もせずに勝手にサバイバルゲーム始めて乱入者を敵と勘違いしたこいつらだから」

 そう言いながら直は迷彩服一同の目前で、テニスボールをバウンドさせる。

「ほ、本当に申し訳ございません……」

 再び鳴きそうな謝罪をする彼ら。充分説教をしたためか、直は優しい表情を彼らに見せ

「まあいいさ。あたしもお前らのこと念頭に入れてなかったんだから、こういう事があってもしょうがない。校長には悪い報告はしないでおくから」

「あ、ありがとうございます!」

「さーて、夜も遅いし、みんなで帰ろうか。合宿所へ」

「はーい!」

 合宿所を出たときは二人だったが、帰るときはその何十倍にもなっていた。



「わへい部長、あん子先輩。ご無事で何よりです」

「部長さん、あん子さんお帰りなさーい」

 合宿所に戻って最初に会ったのは、ほんのり顔を赤く染めた三菜と彩の二人。

「ああ、なんとか生きて還って来れたよ……」

「本当、もう肝試しはこりごりだわ」

 やっと戻れたことで、自身の疲れをさらに感じる和平と杏子。

 その疲れの中、和平はあることに気がつく。二人とも髪が濡れている。

「おや、『みなあや』のお二人は風呂上がりかい?」

「はい、そうですけど……?」

 三菜が首を傾げる。

「あれ……、風呂は温泉だろ? 着替えの浴衣とか……なかったの?」

 二人が着ているのは、学園支給のTシャツとショートパンツだ。

 彩が悲しそうに答える。

「ええ、私たちも温泉を楽しみにしていたのですが……。温泉には入れませんでした」

「な、なんだってー!!」

 驚く和平の肩を直が後ろから叩く。

「すまない……森。これも知らなかったあたしの責任だ。温泉は現在改修工事に入っている……」

「つ、つまりこの合宿中は……」

「温泉には入れない。部屋の内風呂で我慢してくれ」

「そ、そんなぁ……」

 古来より多くの男たちが夢見た女性の浴衣姿。

 合宿中にそれを見る、という和平の願いは叶うことはない。

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