第三話 部室で煙草吸われる
一香を誘うのに体力を使い果たした和平は一旦部室に戻ることにした。ドアの前に立つと、部室を出るときに消したはずの灯りがついていることに気がついた。
(正二、先に戻っていたのか?)
中からは女性の声がする。どうやら二人いるようだ。
「正二、もう二人も入れたのか!?」
嬉しさのあまり大きな音を立てながらドアを開けると
「やかましい」
と、咎められた。
「先生ダメですよー、先輩を驚かせちゃー」
「それがどうしたい、あたしは先輩よりも偉い教師だぞ」
(先生と……、もう一人は後輩?)
先生と呼ばれた女性は薄く青いワイシャツの上に白衣を身にまとい薄茶色の髪は後で短くまとめている。まとめなくても髪はそんなに長いと思えない。白衣を着ていることからきっと理系の教師で、実験とかするのに髪が邪魔なのだろう、と和平は思った。
顔といえば、綺麗に整ってはいるものの、ツンとした表情を見せている。一香にも会った当初はツンとされたが、一香が他人を近づかせない意味での表情に対し、こっちは何かしてやろうと考えていそうな表情だ。
もう一人の女子生徒はブレザーにつくリボンが黄色なので、一年生だと分かる。先生の綺麗に対してこちらは可愛いを全身に現したようだ。ショートの黒髪に大きく見開かれた黒い瞳をこちらに見せて微笑んでいる。
「えーと、入部希望の方たちですか……?」
「私はそうです!」
後輩の女子生徒が叫ぶ。
「私は……?」
和平は先生の方に疑問を浮かべた表情を見せると彼女はため息をついた。
「お前さ、考えても見ろよ、教師が部員になるなんてないだろ。あたしは校長に麻雀部の顧問に任命されたんだよ」
「えっ、顧問ですか!?」
「部に必要なのは部室・備品・部員の他に顧問でしょうが」
よくよく考えてみれば当たり前のことなのだが、顧問など付けられるわけが無いと思ったのだ。
備品と聞いて辺りを見回せば和平が外に出ていた一時間程の間に、八人分のロッカーとパイプ椅子。会議室でよく見られる長い机が二台ある。あと窓には黄を地の色にした花柄のカーテン。
「それで、この子はあたしが部室に入ろうとしたらその前に座って待っていたから入れたんだよ」
先生の視線が自分に向けられたのを合図に後輩が立ち上がる。
「はい、麻雀部に入部したい一年生! 一関通子です! 麻雀は昔から家族でやっていたので、ばっちりです! どうかよろしくお願いします」
言葉には勢いがあるが、丁寧にお辞儀をする通子に、和平はすぐさま
「そうか、経験者は即戦力になるから大歓迎だ! よろしくな、通子!」
と、彼女の入部を認める。
男が教えるより同性の子が教えてくれる、と思えば麻雀を知らない女子生徒でも印象がいい。そんな和平の期待を知ってか知らずか笑顔で応える通子。
「はい!」
(やばい、この子可愛いなー)
通子の満面の笑みに少し心が揺れ動く和平。
「そしてあたしは立花直。顧問任されるくらいだから、麻雀・パチンコ・スロ……」
「いや、スロットなどの実力はあまり問題では……」
和平が止めると直は睨みつけて
「なんだと、パチンコやスロットで鍛えられる勝負勘が麻雀の役には立たないと言うのかい?」
「学園でギャンブルの話をするのはよくないですし、勝負勘は麻雀でも養えますって!」
そもそもパチンコ・スロット屋は、学園側が「風紀上の問題のため」と、自治体に要請したために学園から車で二三十分の範囲には無い。簡単に行ける距離ではないし、話題自体が適切ではないと指摘を受ける可能性がある。
「しょうがねぇなぁ……」
と、彼女は白衣の胸ポケットから携帯灰皿と煙草・ライターを取り出し、煙草に火を付けた。
(この先生が顧問で大丈夫なのだろうか……、この先生に問題起こさせて麻雀部を廃部に追い込もうという罠か……)
「あたしクラス顧問に任ぜられるってことはそれなりに校長の信頼あるってことだから大丈夫だよ」
和平の心を読んだかのようなタイミングで直は煙を吐いた。
一方の通子はと言うと、麻雀卓についてせっせと牌を磨いている。
「通子は卓掃もできるのか?」
和平が尋ねると、通子は濡れたタオルを片手に
「はい、家族で麻雀をするときは、私が牌を拭くのが役目でしたから」
と、笑みを浮かべた。
「そっかー、蒸したお絞り作るための蒸し器も校長に申請しないとなー……、あとカップ焼きそばとそれを作るためのポット……」
「先生はこの部室を雀荘にする気ですか!?」
和平は実際に雀荘には行ったことはない(そもそも行ける年齢ではない)が、麻雀漫画などである程度の知識は得ている。
「そりゃ麻雀をやる部の部室だよ、それなりに再現しないと何かと不便じゃないか、だろ、通子?」
「そうですねー、待ち時間に雑誌や漫画を読めるように本棚も欲しいですね」
「言うねー、じゃああたしがとっておきの漫画持ってきてやるよ。『脱衣麻雀の王道』と言われた漫画を」
「そんなもの置いたら女の子が驚いて逃げるじゃないですか!」
後輩と顧問が加わったのがいいが、俺が彼女たちの抑え役になるのだろうな、との予感が和平の頭を悩ませた。