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どう打つの?森  作者: 工場長
東二局・このままいけば卒業できそうです
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第十一話 お父さんではない

「これが湧き水への地図だ。往復で二十分くらいだが大丈夫だろ。ポイントへ着いたらあたしの携帯に連絡しな」

 地図と言っても明らかに直の手作りで、合宿所の裏口から湧き水までの一本道しか書かれていない。

「まあ余計な曲がり道はするなってことだ。迷子になるからな」

「はい、分かりました。さっさと汲んで帰って来ますから期待しないで下さい」

 お化けなんているわけ無い、憮然と地図を受け取る和平にたいして

「あ、私もそんなに怖がらないので期待しないで下さい」

 杏子は大人しくなっている。

「せんぱーい、生きて還ってくださいねー」

 不吉なことを言う通子に苦笑を浮かべつつ、部屋を出る。

 裏口まで見えるとこまで歩くと、後ろからかなり駆け足で

「わへい君……あん子……」

 と、一香が追ってきた。

「し、清水さん……?」

「一香……」

 一香は走って乱れた息を整えると、真剣な目を和平たちに見せて

「気をつけて還ってきて、お願いだから」

「いやいやいや、清水さん大丈夫だから、ちょっと裏まで歩くだけだから」

「そ、そうだよ、一香ぁ。へ、変なこと起こるわけが……無いじゃない!」

 勘違いをしている一香に和平は普通にツッコむが、杏子は完全に動揺している。

 そんな杏子をお供に和平は闇夜の筑波山中へ、頼れるものは二つの懐中電灯だ。



「あん子、部屋では怖がりじゃないと思っていたけど真逆だな」

 腕を掴んで離さない杏子を和平はからかう。

「だって、話を聞くだけと実際に行くのとでは大違いでしょ。こんな事になるのなら、演技しとけばよかった」

 すっかり怯えている杏子。

(ま、こんな風にくっついて歩くのは俺は嬉しいけどな)

 地図では一本道だが、歩きだしてすぐに分かれ道が現れる。

「えっ、こんなの地図には無いじゃない……」

 予想もしない展開に杏子は掴む力を強める。

 予想をしていた和平は地図を見る。

「お地蔵さんのある道を行く……」

 確かに右へ行く道にはお地蔵さんが三列に並んでいる。

 先ほどの直の話によると「犠牲になった道場破り」の墓代わりらしいが、二十は軽く越える。

「お、お地蔵さん……お地蔵さんだぁ……」

 声がいつもよりも高い杏子。

「あん子、落ち着けって」

 和平はお地蔵さんの前に供えられている空き缶を指差した。

「活けられている花が枯れていないだろ? つまりほぼ毎日誰かが来ている。ここは死後の世界じゃなく俺たちが住んでいる世界だ」

「でも……、缶に変な穴が空いてるよ……」

 言われてみれば確かに缶には何かの衝撃で空いた小さな穴が二、三個ほどある。

「……カラスか他の野鳥が突いたんだろ」

 和平は気にせず歩みを再開する。


「……なんか森君って、麻雀以外にも頼れるねぇ」

「……『麻雀以外』って……」

 和平は苦笑したが、杏子の信頼を得られたのはいいことだ、とも思う。


 地図で言う目的地の広場に着いたようだが、電灯で辺りを見ても湧き水らしきものは見当たらず、真ん中には古い井戸が一つ。

「あの井戸の水を汲むのかな」

 何事もなくここまで来れたので、杏子の声はさっきよりも落ち着いている。

「先生に電話するか」

 和平は直より受け取った、合宿所専用スマートフォンで直に電話をする。

 ただ水を汲むだけではなく、その様子をテレビ電話形式で合宿所にいるメンバーに見せなければいけない。


「先生、目的地に着きましたけど……、水はあの井戸からですか?」

『随分と早いなぁ』

 電話の向こうは直の呆れ声と

『わへい君……』

『先輩無事だったんですね!』

 現場にいる二人よりも怖がっていそうな一香と通子の喜びの声。

「二人とも大丈夫だから」

 和平が二人を宥めていると再び直が画面に

『湧き水はその井戸の裏にある。むやみに汲まれないようにうちの学園でカバーしているから少々の風で音は聞こえなくなるがな』

 直の言う通り裏へ回ると「湧き水・葵塚学園」と書かれた木の箱が。

 風が強くなったせいか傍にいるのに水の音は聞こえない。

 箱を取ると確かにそこから水が湧き出ていた。公園にある水飲み場の水道くらいに小さな規模であるが。


「さっさと汲んで帰ろう、森君」

 杏子が備えられている柄杓からペットボトルに水を移す。

『ところでその井戸、なんか出そうだろ?』

「えっ、出るの!?」

 杏子が柄杓を水の中へ落とす。

「先生、すぐに湧き水見つかったからって嫌がらせは……」

『出そう、と言っただけで実際には出ないぞ。もっとも出そうだからめちゃくちゃ怖いホラー映画の撮影に使われたがな。お化けが井戸から出てテレビ画面も飛び出して見ている奴に……』

「いやーっ!」

 杏子が悲鳴を上げてペットボトルまで落とす。

「大丈夫だってあん子。映画の話だから。」

 和平が慰めると杏子は首を横に振り

「それもあるけど、なんか変な声が風に乗って聞こえた!」

 和平も耳を澄ますが風とそれに揺れる木の葉の音だけ。

『ただ木が風に揺れているだけだろ』

「違うんです、先生!なんか呪っているような」

(なんかこういうのオペラか何かにあったよな……)


 嵐の森を馬で駆ける親子。「声が聞こえる」と、怯える息子に父親は気のせいだと相手にしない

 しかし、家に帰ったときには息子の魂は何者かに抜かれていた……。


 和平が脳内から知識を引き出そうとしていたその時、井戸の向こう側の茂みが激しく音をたてて揺れた。

「うわあぁぁっ! も・りーくん、も・りぃーくんー! まおぉーが、やってーきたーよー!!」

 動揺のあまり変な節を付けて叫ぶ杏子。

(魔王じゃないけど、何かヤバいのは確かだな……)

 ここで杏子に「魔王じゃない」と否定するのは得策ではないと考えた和平は、彼女を受け容れることにした。

「あん子。確かに来たのは魔王だ。だからあん子が知ってる聖なる呪文を唱えて魔王を倒せ!」

「わ、分かった。やってみる!」

 杏子は物音がした井戸の向こうを見て

「アーメンハレルヤピーナツバ……」

「それは神に感謝する言葉!」

 果たして和平と杏子は無事に生還できるのか!?

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