第九話 和平の休日です(二)
メニューを開くとシュークリームのお店だけあって、フードメニューはシュークリームしか無い。
中身のクリームにバリエーションがあるが、中には「シュークリームで?」と首を傾げる物もある。
一緒に頼むであろうドリンクメニューの方がアルコール類も含めてかなり多い。
(『鮭のクリーム煮』ってもうお菓子じゃ無いじゃん。普通にカスタードと日本茶にしよう……)
店員を呼んで注文をする。
注文してから作るのはケーキ屋と変わらない。
「えーっと、初めて麻雀打ってどうだった?」
三菜が自分にたいして機嫌が悪そうなので何とか取り成したいところだが直接的な表現は避ける。
「うーん、負けちゃったけど楽しかったですよー」
彩はトビはしなかったものの8000点のラス。
「そ、そうか……楽しかったなら安心だ」
と、和平は三菜を見る。
「ひょっとしたらですけどわへい部長、まさか私がわへい部長に恨みを持っていると思ってません?」
「いや、それは無いよ、ただ……」
「ただ私は負けたのが悔しいだけです。そうでなければわへい部長のオゴりでここに来てません」
心なしか三菜の「オゴり」の部分が強かった気がするが、悪い方向に後を引いていないのは安心できる。
「三菜ちゃんも私もチョンボしなかっただけよかったと思ってまーす」
「そ、そうか……そう言ってくれて嬉しいよ、彩」
(初めてでチョンボした清水さんがいなくてよかったー)
麻雀に勝つためにものすごく勉強をした一香も三菜と同じくかなりの負けず嫌いだと和平は思う。
三菜の気持ちを聞いて安堵したところで頼んでいたシュークリームがやってくる。
無難に普通のを頼んだ和平に対して、三菜は「鮭のクリーム煮」彩は「三種類の茸クリーム」。
食事扱いなのか、二人にはフォークとスプーンだけではなくコンソメスープもセットで付いてくる。
それを見て和平は少し損をした気になったが、自分が頼んだ物も充分な味だったから良しとした。
(シュークリームのお店だから、普通のシュークリームが旨くないと話しにならない。二人が食べているものはまたの機会にするか)
店を出て一年生二人と別れてまた一人の和平。
後ろから白い乗用車がやってきて追い抜くかと思いきや、和平に横付けするように止まる。
車の窓が開き、中から見知った顔が
「せ、先生……と凛」
乗っていた二人の組み合わせに驚く和平。
「よう」
「和君おはよう」
直は車から小さい葉書のような物を取り出すと、和平に渡した。
「……何ですか、これは?」
「……居間でしょ?」
確かにそこには居間でちゃぶ台を囲み、夕飯を食べる仲良し家族が描かれている。
「……どうしたんです?これ」
「パチンコで当てた景品だ。そこに描かれている『お魚家族』がパチンコの台になったんだ。やってみたらかなり儲かってな、森にも記念にあげるよ」
「パチンコに行ったってことは凛も……!?」
法的には凛もパチンコに行ける年齢だ。
しかし凛は首を横に振り。
「私は合宿の買い物をしていた帰りよ。たまたま店の隣が先生がいたパチンコ屋さんだったのよ」
「家族が買い物を楽しんでいる間、旦那はパチンコって言う戦略だな」
「おかげで帰りの電車代浮いちゃった」
パチンコで儲かった直と、帰りは楽にタダで帰れる凛。
上機嫌な二人を乗せて白い車は和平から離れて行く。
「和君、明日からの合宿よろしくねー!」
凛のこの掛け声を置いて。
三度一人になった和平。
(だいぶ靴に慣れてきたな。そろそろ帰るか)
帰りは行きと違うコースにしようと、葵塚駅方面へ向かう。
駅前に着くと、駅ビルからまた見知った顔が
(今度は『とこじゅん』か)
和平は自らがつけた二年生二人の呼び名が気に入っている。
しかし人前なのでその呼び名は少し恥ずかしい。
「よう、通子・純ちゃん」
「あれ、先輩じゃないですか」
「こんにちは、森先輩」
和平を見て元気な声を上げる通子と大人しく挨拶をする純。
「二人でどこか行ってたのか?」
「ええ、この前先輩と行った『葵塚ファミリーランド』へ」
「また行ったの?」
「だって、私と通子ちゃんは年間会員券持っているんですよ」
そう言いながら純は和平に財布から取り出したカードを見せる。
「年間会員券って……、そこまで通うつもり?」
「買ったからには行かないと損するじゃないですか」
誇らしげに見せて自分の財布に戻す純。
「まあ純ちゃんが楽しんでくれるなら私は付き合いでも充分なんです」
「付き合い」と言いながら、通子の表情からは「自分も好きだ」と言う気持ちが読み取れた。
(うーん、純ちゃんと一緒に行って一年間ずっとコーヒーカップをものすごく早く回され続けるのはなぁ……)
和平は年間会員券は遠慮する事にした。
四度目の一人に戻った和平。
気が付いたら葵塚学園の前にいた。
(……みんないるかな?)
駅からあちこち歩いたので、最後に二年生二人と別れてから二十分は経っている。
ひょっとしたら麻雀部の部室にみんないるのではないか? その期待が和平を部室へと向かう。
しかし、期待は期待でしかなかった。
部室に入ろうとドアに手をかけた直前。悲しそうな声が中から聞こえてきたのだ。
「みんな……、休みだからって麻雀しないのかよ……。一人くらいちょっとだけでも来てくれていいじゃないかぁ……」
(……さては正二、朝からずっとこの部室にいたな)
ここで自分が入っては彼の悲しみを共有することになる。
無常にも和平はドアに触れることなく元来た道を引き返していった。




