第七話 負けず嫌いは頼もしいです
「それじゃあ一年生二人はバラバラに座ってもらおうか」
麻雀部は現在顧問の直を入れて十人。同時に二卓立てられるようになっている。
よって今日初陣を飾る二人は別々の卓に座る。
今回麻雀をする八人の内訳は以下の通り(席は親決め前の仮席)。
A卓
東・和平
南・杏子
西・三菜
北・凛
B卓
東・彩
南・一香
西・通子
北・純
直と正二はそれぞれ一年生の後ろ見に回る。三菜には直がついた。
「それじゃあ始めっ!」
直の合図に和平は親決めのサイコロを振る。
東一局ドラ・8親・和平
(配牌はいいな……、この後何が来るかだ)
三赤五六七(4567)2348西北
「西」や「北」を切った場合、他の三人がそれに続いたら四風連打となり、途中流局となる。
起親でいい配牌なのに、それを流されては和平には辛いスタートだ。
それ故和平は「三」切りから始める。
リャンシャンテンスタートだったがテンパイしたのは七順目だった。
赤五六七八(34567)2348 ツモ8
八を切れば「(258)」待ち、「タンヤオピンフ表ドラ2赤ドラ1」。ロンで満貫ツモってハネ満。
リーチをかけなくても充分だか、和平はあえて
「リーチ!」
と、「八」を横に曲げる。
これでロンでもハネ満確定だが、真の目的はそれではない。
(さて、三菜はどうする?)
今日が麻雀初めての三菜にとって、これは初めてのリーチ(をかけられた)。
それにどう対応していくか見たかったのだ。
(実戦である以上手心は加えられない。いや、リーチはある意味手心だな)
恐らくリーチをかけなければ三菜にとって「(258)」が不要なら簡単に出るだろう。
もっとも三菜以外にも出てくる可能性が充分な待ちと順目なのだが。
「うーん……」
杏子は悩みながら和平の現物である「西」を切る。
そして三菜の切る牌は和平のリーチ宣言牌である「八」。
(とりあえず一発目はクリア……。この時点では降りているのかはなんとも言えないか)
和平の一発目ツモは最初に切った「三」だった。
次の杏子は「西」。対子落としだ。
(降りたのか、タンヤオになるようにしたのかも)
そして和平リーチ後、三菜の二回目のツモ。
彼女はツモ牌を見るとそれを手の内に入れて捨てる牌を右手に持つ。
そこで三菜が悩みだした。
「うっ……!」
和平は直を見るが、後ろ見をする者のマナーとして、全くの無表情。
(さすがは顧問。教師だけど、三菜の手牌は教えてくれないってか)
心の中で少し直に毒つきながら和平は視線を三菜に戻す。
どうやら切る牌は右手に持っている牌に決めているらしい。
(それが俺の待っている「(258)」だからためらっているのか?)
和平の予想は半ば当たっていた。なぜなら三菜は「赤(5)」を横に曲げて
「リーチ!」
と、叫んだのだ。
「……ロン!」
「赤(5)」を切ったリーチに一瞬止まった和平だったが、冷静に牌を倒す。
対赤(5)ロン→赤五六七(34567)23488 ロン赤(5) 裏ドラ(1)
「メンタンピン表ドラ2赤ドラ2。18000点!」
「うーっ……」
悔しそうな表情を浮かべながら点棒を支払う三菜。
「三菜ちゃんはどうして『赤(5)』を切るときに悩んだの? ロンされそうだから?」
凛が尋ねると三菜は首を横に振り
「いえ……、リーチかけなくても和了れる役だったので、リーチをかけようかどうか悩んだんです」
そう言って三菜は自分の手牌を晒す。
一二六七八(678)678北北 三待ちのテンパイ
「『三』はわへい部長が既に二枚切った牌です。リーチをかけなければ誰かが出すかもしれないと思っていたのですが……、それでは部長に負けたようで嫌だったのです」
「私は負けず嫌いですから」と、三菜は最後に付け足した。
(確かに負けず嫌いなのはいいけど……)
結果として和平にロンをされたものの、和平の現物である「三」待ちのテンパイになったのだから、「赤(5)」切りは悪くは無い。ただリーチをかける意味はあったのだろうか?
「たぶんね、『赤(5)』が通ったとしても三菜は和了れなかったと思うよ」
そう言いながら杏子が手牌を見せた。
三三九九九(12499)134
「三」の残り二枚は杏子が持っていたのだ。
「リーチをかけていなかったら、たぶん私次は『三』を切っていたと思うな。三菜がリーチをかけたらツモ次第だけど『三』を切るのは無いかかなり後だと思う」
「そうなる前に和君が和了っている可能性が高いわね」
凛もニッコリと微笑みながら手牌を倒す。
一一七七(123)34中中南南
「私、和君の待ち牌『(2)』の一枚しか無かったから」
「河に『(258)』は三石の『(8)』一枚だけだ。色部は『8』が入っての『赤(5)』切りだからね。つまり森の和了り牌は十二枚中、半分の六枚が山の中にいることになる」
三菜の後ろにいる直が解説をする。
和平の六枚に対して三菜は二枚。しかもリーチをかけたとあれば凛の言う「『三』が杏子から出る前に和平が和了る」はかなり現実性が高い。
「しかし色部は惜しかったな、あと一順色部のテンパイが早かったら刺さっていたのは森だからな」
リーチ後に切った「三」を見て、和平は安堵の息を吐きそうになるが抑える。吐いたら弱気になりそうだから。
「……でも、ロンされたとは言え私は逃げませんでした。『同じ負けるなら逃げて負けるよりは最大限努力して負けろ』です。タッチの差で負けたとはいえ、逃げなかったほうが今後の展開はよくなるはずです」
「同じ負けるなら~」は、恐らく三菜が陸上部時代に教わった言葉であろう。
(いいね、俺もそう言う信念だ。そういうのを最初から持っているのはいいことだ)
ただ危険牌を切って進むだけが「逃げない道」では無い。安全な牌を切って降りねばいけない局面もあるし、一旦自分のテンパイを崩して別の待ちへと変える場合もある。
「一度後退しても最終的に勝つことを目指せばいい」そう三菜が自分で思うようになるのは「運動しないから」で始めた麻雀を好きになってからでもいい。
和平はそう思いながら
「それじゃあ一本場ね」
と、サイコロを振った。
麻雀は結果が全てなので、三菜がリーチ宣言牌である「赤(5)」
で刺さった以上はこの後の「リーチ宣言すべきだったか否か」は
必要無いかもしれませんが、
彼女は「麻雀をやる部」である麻雀部新入部員。
彼女自身「教えてもらう側」としての自覚があり、
他のメンバーは「教える側」としての自覚と責務があるので、
この話をしました。




