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どう打つの?森  作者: 工場長
東二局・このままいけば卒業できそうです
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第六話 最初が肝心なのです

 葵塚学園には学生食堂が二つある。

 一つはいわゆる「定食屋」であり、もう一つは「洋食屋」である。

 和平が主に行くのは「定食屋」の方だ。

(さて、今日は何を食べようか)

 ご飯大盛りの丼と、ぶつ切り大根が主役の豚汁をプレートに載せ、メインとなるおかずを探す。転入して三月、手慣れたものだ。


「わへい部長」

「部長さん」

 麻雀部の一年生二人、三奈と彩が声をかけてきた。

 二人とも鳥の唐揚げをプレートに載せている。

 彼女たちはクラスと部が同じなだけあって、会うときは二人一緒が多い。

「おはよう、二人はもう何にするか決まったようだね」

「三奈ちゃんが鳥肉が体にいいって言うんで」

 彩が三奈をちらりと見ると、彼女はツンとしている顔を少し崩しながら

「運動は嫌いになっても鳥は嫌いになれないんです」

 三奈が言うには運動に適した身体を作るには、鳥肉が肉の中では一番とのこと。

「そっか、じゃあ俺も三奈の言う通りにしようっと」

 と、和平は鳥の唐揚げを取る。

 二人に会ったばかりの頃は、「さん」付けだった和平。半月経った今はすっかり呼び捨てだ。


 和平が空いている席を見つけて二人を案内する。

 軽い足取りの彩に対し、慎重に歩く三奈。きっと怪我した足を気にしての事だろう。

 入部して半月経つが足の怪我はもちろん、陸上やっていた過去も三奈本人から何も聞いていなし、聞くつもりもない。

(まあ、本人が言う気になるまで知らないふりが一番だ)

 だから先の三奈の「運動は〜」の発言に対しても聞き流している。


 聞くべきことは他にあった。

「麻雀部入って半月だけど、いろいろ麻雀について分かってきた?」

「はい、部長さんや、他の先輩方の後ろで麻雀見ていて、早くやりたいって思っています」

「そうですね、私もルールとか覚えてきたんで、そろそろ実戦してみたいな、と」

 二人とも完全に麻雀を知らないところから入っているので、これまで麻雀はさせていない。

 麻雀を知らなかったのは一香と杏子も同じだが、半月以内に麻雀をしている。

 この違いは三菜と彩を「麻雀を知らない新入部員に対する教育のモデルケース」として扱っているからだ。

 麻雀部を続けていくには毎年新入生を確保し続けなければならない。当然その中には「全く麻雀知らないけど入りました」って生徒もいるだろう。これは在学生に対しても同様だ。

 その部員をどう育てていくかがこの二人の教育にかかっていると言っても過言ではない。

(そういう意味合いなら、二人という人数はムラなく大切に育てられる。今年は二人なのは、ある意味うちの部にとって幸運だったかもな)

 二人を眺めながら和平は小鉢に箸をつける。


「あれ、先輩と『みなあや』のお二人じゃないですか」

「こんにちは、森先輩と三菜ちゃん彩ちゃん」

 ハンバーグをメインに載せた通子と、マーボー丼をメインにした純が隣のテーブルに座る。

 「みなあや」は杏子が呼びやすいと一年生二人につけたあだ名だ。それを通子も利用している。

 純は一年生二人に遠慮して、それぞれに「ちゃん」をつけて呼ぶ。

「おう、『とこじゅん』。『みなあや』の二人をそろそろ麻雀させようかなって思って」

「なんですか、その『とこじゅん』って?」

 通子が首を傾げると和平も首を傾げた。

「いや、なんか……一年生が『みなあや』なら二年生は『とこじゅん』かな? って」

「えーっ、それあん子先輩の耳に入ったら早速採用されちゃうじゃないですか!」

「通子よ、世の中は因果応報だぞ。二人をまとめて呼ぶ者は自分もまとめて呼ばれるようになるんだよ」

 通子の抗議に和平は冷静に受け流す。

「呼びやすければ私は『まとめ呼び』でもいいと思いますけどね」

 純は特に「とこじゅん」には問題を感じていないようだ。

「えーっ、純ちゃんがいいならダメと言っている私が悪者みたいじゃない」

 和平を加えた通子と純の掛け合いを、唐揚げを食べながら見ている一年生二人。


「まあ二年二人の呼び方は置いといて、一年生二人のことなんだけど」

 和平は話を元に戻した。

「ああ、二人に麻雀させてみようか、って話ですね。先輩」

 通子も麻雀部の先輩としての顔に戻る。

「別に麻雀をするのに免許はいらないので、そろそろ二人に麻雀させてもいいのではないでしょうか」

(なるほど、純ちゃんの言うとおり麻雀に免許はいらないな。でもある程度ルールとか覚えているか、点数計算できているか確認をする必要がある……)

 と純の意見を聞いて何かをひらめいた和平だったが、すぐに否定に入る。

(でも……、それで麻雀させる・させない決めちゃ『麻雀やるためにこんな辛い思いしなけりゃいけないのか』って思われるかもしれないからな……。プロならこの点厳しくていいかもしれないけど、『楽しく麻雀する部活』だからな……)

 その点は今後の課題としてみんなと相談だな、と和平はとりあえずここで考えるのはやめることにした。

「そうだな、それじゃあ今日の放課後、二人は麻雀やるってことでよろしく」

「はい、分かりました。お願いしますわへい部長」

「はーい、部長さんよろしくお願いしまーす」

 頭を下げる一年生二人を見ながら、和平は他の部員や直にこの決定を伝えなければ、と味噌汁椀に手を伸ばした。

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