第二十五話 みんな必要な仲間だからね(三)
「どうしたどうした!? もうすぐ俺たちの『大三元』が発動するぜ!」
「くっ、ううっ!」
「ピンチな麻雀プリティ!このまま負けてしまうのか!」
舞台袖では純が直の最終チェックをしていた。
大丈夫と確認すると、機材のとあるボタンを押す。
画面の和平がとある牌をツモり大げさに驚きの表情を見せて止まる。
「くっ、こいつは……麻雀プリティ!!」
たじろぐ姿を見せる舞台の和平。
「ええっ?」
先ほどまで威勢のよい攻撃をしていた正二が不安そうに和平の後ろへと戻る。
「ううっ、嘘でしょ……? グスッ」
通子が大げさに涙ぐんでみせたところで、
「そうよ、私が持っている『リーチー剣』の発動があなたたちより早かったようね!」
「先生、今です!」
直に合図を送ると純は先ほどと同じ再生開始ボタンを押す。
「あいよっ!」
画面の和平が捨てたのは「九」。
「ロン! 清一四暗刻単騎!!」
画面の一香と舞台の一香が同時に叫んだ時、舞台の右側から飛び出したのは
九万・立花直
下九ロン→ 一一一三三三四四四六六六九 九ロン
直は止まらずに勢いそのままに飛び蹴りを和平に食らわす。
「ぐっはあぁぁっ!!」
和平はそのまま舞台袖まで飛んでいく。
「……!」
「……」
唖然とする通子と正二。
一香も表情には出さないものの内心では驚いている。
それもそうであろう。本来ならば捨て台詞を置いて逃げるはずの和平が、飛び蹴りの勢いがあり過ぎたために、すでに舞台から消えてしまったからだ。
このまま無言ではいけないと、とっさに杏子が
「き、決まったー! 麻雀プリティの最終奥義ー、清一四暗刻単騎!!」
純がとっさにメモ紙に何かを書いて杏子に渡す。
それを見た杏子。
「ボスに96000のダメージでボスの即死だーっ!」
純が渡したのは親のダブル役満の点数だった。
(一度ゲームで和了ったことあるから点数覚えていました)
自分の記憶が意外なところに役に立った、と胸を撫で下ろす純。
「お前らも吹っ飛んじゃえー!」
直が残された悪の部下二人の首根っこを掴む。
「うわーん!」
「覚えてろー!」
そのまま後ろ歩きで退場する通子と正二。
(あん子も立花先生もアドリブ強いなー)
その様子を眺める一香。すぐに杏子の声を聞いて我に返る。
「こうして、麻雀プリティの活躍によって村は守られたのであった!ありがとう麻雀プリティ!!」
一香は観客に手を振ると「リーチー剣」を構えて
「麻雀プリティに会えるのは、麻雀部、だ・け・だ・ぞ」
と、決め台詞を言う。
語尾に「これまで一香が生きていて、知らないうちに貯まっていた全てのハートマーク」を添えて。
その可愛い姿をたっぷりと観客に魅せた頃合いで、純が舞台の電源を落とす。
和平たちの一つの闘いが終わった瞬間だった。
「わへい君、大丈夫!?」
舞台袖に着いた途端、一香は和平に駆け寄る。
「先輩、大丈夫ですか?」
「起きろ、起きるんだ、部長!」
伸びている和平に必死に声をかける三人の生徒を見て直は気まずそうに頭をかいた。
しかし、それは一瞬の事で、直は何かを思いつくと和平の耳元へ顔を近付けて何事かを呟く。
「えっ!ええっ!!」
その呟きを聞いて和平は驚いて目を覚ます。
「なっ、生……!?」
「うるさいっ!」
何事かを呟く和平の頭を直が一発殴る。
「先生、また先輩が気絶しちゃいます!」
「大丈夫だよ、あのキックに比べたらかわいいもんだ」
事実和平は頭を痛そうに撫でるだけだった。
「あれ……、終わったの?」
「どうやら部長は終わったのが理解できてないみたい」
舞台裏の通路から杏子と純も駆けつける。
「森君生きてる!?」
「森先輩、死なないで!」
「なーんか、大げさだなぁ……」
二人の慌てぶりに呆れる直。
頭を撫でながら辺りを見回し、部員全員がいることに和平は気がつく。そして
「な……、なんかみんな慌てているけど無事に終わったようだし、みんなお疲れ様!」
みんな自分の心配をしているのも知らずに部長としての挨拶をする。
それを見てみんなしばし呆れたような顔を見せたがやがて笑顔に変わっていく。
「まあひとまず目出たしってことか。片付け終わったらこの前行ったケーキ屋行くぞー、あたしのオゴリだ!」
「はーい!」
こうして新入生への麻雀部紹介は終わった。
果たして新入生の心に響いたのであろうか!?
東二局へつづく!
・エピローグ・ケーキ屋への道中
「ところでわへい君、立花先生に耳元で何を言われたの?」
「な……、なー……、『生ビールを口から注いでやろうか?』って脅しをかけられたんだよ……」
「だから『生!?』って驚いていたのね」
「ま、まあね……、未成年相手に酷い話だよねー」
(本当は『起きたら清水の生足で膝枕させてやるよ』なんて言えるわけないじゃないか……)
本文にもあるとおり、これにて第一章もとい東一局は終了です。
次からは東二局です。
次局もどうぞよろしくお願いいたします。




