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どう打つの?森  作者: 工場長
東一局・麻雀部創めました
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第二十三話 みんな必要な仲間だからね(一)

 ―四月二日午後四時 葵塚学園麻雀部部室―


「通子、正二。二人とも顔が見えているぞ。紙でちゃんと隠しなさい」

「だって、このままだと麻雀卓がよく見えないんだよ、部長」

「私は角度的にカメラから顔が見えないようにすればいいんじゃないですか? 先輩」

 和平の注文に、正二と通子が反論する。

「ダメよ。人数少ないんだから、同じ人が違う役回りしていることバレないようにしないと」

「清水先輩の頼みならしょうがないか」

「分かりました、清水先輩」

 一香がたしなめると、正二は「村人A」・通子は「村人B」と書かれた紙のお面で顔を隠す。

「森君、一香。二人はその格好で大丈夫?」

「心配ありがと、あん子。私は別にこの格好は邪魔にはならないからいいけど……、わへい君は?」

 と、一香は心配そうに和平の姿を眺める。

「なーに、本当の麻雀じゃないんだ。牌山が崩れても編集でなんとかなるって。純ちゃんはカメラOK?」

 和平が純の方を見ると、ビデオカメラを構えた純が指でOKのサインを見せる。

「よーし、それじゃあ行きますかー! シーン1、よーいスタート!」

 あん子の合図を聞いて一香が河にいらない牌を切った。



 ―四月十日午後四時 葵塚学園中央体育館舞台裏―


「そ、そろそろ私たちの出番ですね、先輩」

 黒く分厚いコートに身を包み、頭に黒い丸型の被り物をつける通子が小声で和平に話しかける。

 もっともこの格好をしているのは通子だけではなく、和平と正二も同じだ。

「野球部は真剣に野球の何たるかについて語っているな……」

 正二が舞台の上に立っている野球部を見て呟く。

「前年の失敗を繰り返さないために必死なんだろうね」

 通子が小さく微笑む。

 通子は笑えるだろうが和平にとっては人事ではない。

 

  四、現在我が学園に無い新しい部活動を立ち上げ、定着させること。


 この卒業条件を満たすにはこの行事の成功は必要不可欠だ。

 きっとあそこに立っている野球部員も同じ気持ちだろう。

(だからって萎縮するわけにもいかないし……)

 自分が萎縮しては、案を出した者として、部長として今日この日のためについてきた部員たちに失礼だ。

「まあ、俺たちは俺たちなりのやり方で楽しくやればいいよ、なあ清水さん」

 と、和平は奥にいる膝までのスリットが入った青いチャイナドレス姿の一香に目をやった。

「……そうね、麻雀を知らない人たちにも楽しさ教えられるのはこれが一番だ、と信じたんだもの……楽しくやらないとね」

 一香の笑顔とともに普段は見られない一香の生足に和平は思わず唾を飲む。


 本来なら『姫様』とみんなに慕われている杏子がこの役をやるのが最適だったであろう。

 この行事を見に来るのは新入生だけではなく、興味本位で在学生も見に来ていると聞いてからは尚更であった。

 しかし、それでは「あん子が心安らげる場所が無くなる」と、一香自らこの役を買って出た。

「『姫様』であるあん子に釣られて部に入ったら部としてもあん子としても意味が無い。『楽しい部だな』と思って入ったらそこにあん子がいた。それがいいの」

 一香の言うとおりにしてよかった、と思うのは決して彼女の生足が拝めたからだけではない。

(まあ、あん子には次に重要な役回りを与えている。それをやっているのは『姫様』かどうかは見ている側に分かってもいいし分からなくてもいい)



 そんなことを考えているうちに、野球部の時間が終わった。

「みんなーっ、野球部を本当に頼むぜーっ!!!」

 大声で涙ながらに叫びながら退場していく野球部。

 舞台袖でのすれ違い様、野球部員の一人が和平を見つけると

「新しくできた麻雀部の部長だな、健闘を祈るぞ!」

 と、肩を二度大きく叩いて去っていった。

 おそらく、彼も和平と同じ三年生であり部長なのだろう。

(卒業できるかできないかは、お互いこの一年間が正念場か……)

 彼ら野球部の「部としての定着」とは何だろうか? 和平は知らない。

 いきなり全国大会出場とは言わないが、地区大会でもそれなりの成績を残さないといけないのではないか?

 それを思えば「必要部員の確保」のみである自分はまだ楽なのかもしれない。


 同じ、もしくは苦しい立場にありながらも自分にエールを送った野球部部長の後姿を和平が眺めていると。

「部長、早く向こう側に回らないと」

 正二がそう言いながら舞台裏の通路へと姿を消した。

『野球部のみなさん、ありがとうございました。次は今年できたばかりの麻雀部の紹介です』

 確かに自分たちの出番が告げられている。与えられた準備時間は三分だ。

「先輩、ここを通るのは初めてでしょうから私と一緒に行きましょう」

 通子が和平の手を引っ張る。

「OK、行こうか通子。それじゃあ清水さん、あん子、純ちゃん。後は任せた」

「わへい君こそ一番最初なんだから、しっかりね」

 一香が笑みを見せて頷く。

「OK、私がしっかり話すから、動くタイミング忘れないでよ」

 台本とマイクを手に持った、杏子が大きく頷く。

「わ、私もちゃんとタイミングよく出すんで、画面も時々見てくださいね」

 ヘッドホンをつけた純が片方を外して小さく頷く。

 先に行った正二含めてここにいる全員がみんな必要な仲間だ。

「先輩、後二分!」

「それじゃあ葵塚麻雀部、行くか!」

 大きくガッツポーズを決めながら、和平は通子に引っ張られるように舞台裏の通路へと消えた。

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