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どう打つの?森  作者: 工場長
東一局・麻雀部創めました
18/95

第十七話 回されたけどよかったと思う

「は、話せないってわけじゃないけど……私、人見知りするんです」

 電車に乗ってから初めて口を開いた純から出た言葉。

 もっともここまでの間、一駅目の「葵塚大学あおいつかだいがく駅」を通過している。

「まあ、俺も似たような物だから、大丈夫だよ」

 さて、どう会話を引き出すか。和平なりにプランを立てようとしたところで

「二人とも、もう目的地ですよ」

 通子がすでにホームに降りていた。

 「葵塚ファミリーランド」は遊園地であるが特に売りにしている絶叫マシンは無い。

 名物マシンよりも「ずっとそこにいても飽きない空間」をコンセプトにしている。

「だからゲームセンターや漫画喫茶とか温泉施設もあるんです」

「遊園地というよりちよっとした街だな」

 パンフレットを片手に辺りを見る和平と通子。

(うん? このままじゃいつもの部活だな……)

 と、右隣にいる純を見る。今日の主役はこの子だ。


「純ちゃん何か乗ってみたい物ある?」

 和平が尋ねると純は

「はっ、はい。遊園地に行くと必ず乗る物があるんです」

 と、地図から「コーヒーカップ」を見つけて指を差す。

「コーヒーカップならここから近いし行って見ようか」

 と、純に微笑んだ後で

「なあ、通子」

 と、もう一人の後輩にもしっかりフォロー。

(いくら純ちゃんと話すためとはいえ通子は置いてけぼりじゃ気の毒だからな)

「そうですね、行きましょうか。先輩」

 可愛い笑顔の通子に自分のフォローは間違っていなかったと頷く。


 入り口から近かったものの、コーヒーカップに乗るには十分ほど並ばなければならない。

 さて何を話そうか、と純を見る和平の頭に、麻雀部員には必ず聞いていた質問が浮かんだ。

「純ちゃんネットで麻雀やってたって聞いたけど。どうして麻雀を始めようと思ったの?」

「あ……」

 和平の問いに純はちらりと通子を見た後で答える。

「ずっと通子ちゃんから麻雀の話聞いていたんです。……でもそのときは麻雀部なんて無かったし、どこでやるかも分からなかったので……、ただ聞くだけでした」

 通子も麻雀をやる場所がなかったので、純を麻雀に誘うつもりはなく、ただ世間話のように麻雀であった楽しい話をしていたらしい。

 話始めてから三ヶ月。冬休みに通子が家族で麻雀をした話を聞いて

「私もちょっとやろうかな」

 と、純が呟いた。

「そこでネット麻雀を私が紹介したんですよ」

 ネットならば場所や卓が無くても、人が揃わなくても麻雀ができる。

「考えて見れば純ちゃん人見知り激しいから、知らない人といきなり麻雀は抵抗があると思ったので、ネット麻雀を。ついでに私もそのサイト登録して一緒にやれば楽しいかなって、ね」

 通子が純を見て頷くと、純も微笑返す。

 なんとなく和平には一香を追いかけて麻雀部に入った杏子のような関係だな、と思えた。


「ただ、私としては純ちゃんが麻雀をいろいろ覚えてから……だけではなく、私がまずいろんな人と仲良くなって純ちゃんが入りやすい雰囲気作ってから誘おうかなって、思ったんですけど。まさか正二君に誘われて入るなんて思っても見ませんでしたよ」

 通子が驚きと疑問を交えた顔を見せると、純は慌てて手を振りながら

「え、えーっと、それは……、正二君が『ノート貸してくれたお礼になんでもする』と言ったのです。そこで通子ちゃんのいる麻雀部がどういうものかちょっと見たかったので、『部室ちょっと見せてくれる?』と言っただけなんです」

 それをどう勘違いしたか正二の口調が一気に勧誘モードに入ったらしい。

 元々麻雀に触れていたし、仲のよい通子もいて顔見知りの正二の誘いだからということで、純はその場で麻雀部に入ることを決めた。


「純ちゃんが麻雀部にいるのは、通子と正二の努力の賜物ってわけだな」

 そう言いながら和平は関係者なのに唯一この場にいない正二のことを思った。

(あいつのことだ、今日のデートのこと聞いたらすごく悔しがるだろうな……)

「いや、先輩。私は話をしていただけで努力ってわけでは……」

「でも通子ちゃんがいなければ麻雀やっていないのは確かですよ、森先輩」

 謙遜する通子に純が感謝の言葉を述べる。

「いやだ、純ちゃんまで!」

「純ちゃんの言うとおりだ。通子がまー……」

「あ! 私たちが乗る番ですよ、先輩、純ちゃん!」

 顔を赤くしながら和平の言葉を遮る通子。ウソではなく本当に和平たちの前に並ぶ者はいなかった。


 コーヒーカップが好きな純を中心にしてその左に通子、右に和平が座る。

 昔聞いたことのある童謡がスピーカーから流れるとコーヒーカップが動き出す。

「コ……、コーヒーカップは、この真ん中のハンドルみたいなのを回すと早くなるんですよ」

「純ちゃんは、あ……、早いのが好きなんだよね……」

 最初は笑顔だった通子が、「あ……」の後で不安に覆われる。

「それじゃあ回しますね、森先輩」

「お、おう……」

 可愛い笑顔で和平を見る純。和平は視界の隅にいる通子を気にしながらも頷くしかない。


 純がハンドルを回し、コーヒーカップの速度が上がる。顔に当たる風が激しく視界もそれ以上に激しい動きを見せる。

「楽しいね、通子ちゃん。森先輩」

「そ、そうだね、楽しいね……」

「純ちゃん、もうそのくらいにしようか、先輩は初めてなんだから……」

 通子の制止など聞いていないかのように、さらにハンドルを回す純。

「じ、純ちゃん。そろそろ俺……、目が回ってきたんだけ……」

 「ど」と言い終える前に

「あははははは、あははははは、あはははははは」

 と、純が大声を上げて笑い出した。

「た、楽しいねぇ純ちゃん」

 通子が呆れながらも純に合わせる。

「あっははははは、あっはははははっ、あっはははははっ、本当にはやーい!」

 目を回しながらも和平に見える純の笑顔は、それまでにごく僅かながら見せていた和平への緊張や警戒が全く無かった。


「ち、ちょっと休ませてくれないか……」

 ベンチに崩れ落ちるように座る和平の前で

「先輩、ごめんなさい。先に話していなくて」

「本当にすいません、森先輩。私男の人と遊園地行くの初めてだったので、ついはしゃぎ過ぎました」

 謝る二人の後輩。

 頭を押さえ目を瞑り、吐き気を徹底的に脳内から排除しようとしながらも、和平は先ほどの純の笑みを思い出す。

「あのくらいはしゃいで笑ったってことは、もう俺にすっかり慣れたってことでいいのかな」

「はっ、はい!」

 目を瞑っているため視界は闇であるが、純は絶対可愛く微笑んでいるだろうと、和平は思った。

「先輩と純ちゃん、二人に壁が無くなったところで、休憩がてらにそこにゲームセンターがあるから行ってみましょう」

 ぎゅっ、と両手を握られてベンチから離れる和平。目を開けた時には既に手は自由だった。

 握った両手は通子のものだったか、純のものだったか、はたまた二人のものだったのかは分からない。 

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