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どう打つの?森  作者: 工場長
東一局・麻雀部創めました
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第十五話 イメージって大切だな、と思う

「ふがっ、うがっ」

 何者かにいきなり後ろから口を塞がれた和平。そのまま頭を後ろに引っ張られる。

 その強引さに一瞬命の危険が頭をよぎるが、耳元での囁きを受けて不安は消える。

「千六百円……」

「せんがぁっ?」

「千六百円出せ」


 不意に背後から口を塞いで金銭を要求するなどはた目に見たら強盗・カツアゲの類と勘違いされるだろうが、要求する声の主は教師の直なのだ。

 和平も直だと分かっていてもなぜ金を――それも金額を指定して――欲しがるのか分からない。

「金額だけ言っても分からないか。お前と清水、二人分のケーキ代千六百円だよ」

 そう言うと彼女は和平から離れる。

「いててっ」

 無理に引っ張られた首筋を気にしながら和平は直が求める金額を出す。

「ふむ……確かに。後の分は私が出すから心配するな」

「えっ!?」

 和平に七人分払えと言った直が今度は五人分は自分持ちと言ったことに和平は驚く。

 素直に喜びたいことだが、何か裏があるのかもしれない。


 和平の複雑な表情を見て直はため息を吐いた。

「お前なぁ、いくら互いの同意があるからと言ってもだ。高校生が麻雀で負けたので全員分支払います、って周りが見たらどう思う?」

「あ……」

 直の懸念は正しい。いくら部活動で起ったこととはいえ事情を知らない人から見たら金が絡む罰ゲームはいいものではない。

 さらにその現場には教師である直もいる。生徒に支払わせるなど教師の本分を問われたら持っての他だ。

 そして自分達はギャンブル等悪いイメージを持つ人もいる、「麻雀」をしている「麻雀部」の部員。


「お前がやりたいのは、漫画によくある金や命のやり取りをする麻雀じゃないだろう?」

 そう言いながら和平より回収した金を財布にしまう直。しまいながらも周囲に視線を送り他人から見られないようにしている。

「いくらお前らがやりたくないとはいえ、周りがやっている、ってイメージ持たれたら部員も集まらないしな」

「た、確かに……」

 言動には乱暴なところはあれど、実はものすごく気を遣う人ではないか、と和平は直に対する認識を変えた。


「と言うわけで金の心配はするな、他の子たちには聞かれたら上手いこと言っておくから」

 そう言いながら直は再び周囲へに視線を送り誰もいないことを確かめると和平に顔を近付けて小声で

「だからお前らももう少し周りに気をつけろ。清水とずーっと二人っきりでいて他の部員に見られたら誤解されるだろう?」

「ええっ! 先生聞いていたんですか!?」

 和平が尋ねると直は頷いて

「『1』を私のために打ったでしょ? から、部長として、まで聞いた」

「ほぼ全部じゃないですか!」

「だから、もっと周りに気をつけろ、って言ってるんだよ。二人とも何人かトイレを出入りしているのに全く話やめないんだもの……、まあ他の部員がいなかったのは幸だったな」

 二人きりの世界だと思っていたのは和平の幻想だった。

(う、うわーっ)

 和平の顔が赤くなる。

 直はそれを見ながらいたずらっぽく微笑み

「お前は清水が何か言うたびに表情がコロコロ変わる。面白いから最後までずっと見てやったよ」

 と、和平の肩を叩いた。

「さて、部長と顧問が二人揃ってずっと席を離れる訳にはいかないな、戻るぞ」

 慌てた表情を引き締めてから和平は席に戻る。


「あれ、先輩ー。どこに行ってたんですか?」

「いや、ちょっとトイレと電話を」

 実は金の心配をしていた、とは通子に言えるわけが無い。和平は適当にごまかす。

「電話の相手と二人きりの世界を作っていたから、連れ戻して来た。そうだよなぁ? 森」

 直が和平を意地悪な笑みで見ながら席に着く。

 突っ込みたいところだが、一香といたことや、話す内容まで知られる可能性がある。

 直もそれを承知しているのか、一香や杏子の方には目を向けていない。


「ひどいや部長。俺が気合い入れて純ちゃんを麻雀部に入れたのに興味無しですか。そうですか」

「正二くん、私は……」

「そうですよ先輩。私よりも可愛い純ちゃんに興味無いなんて酷いですよ」

「そうだー、私なんて隙あらばスリーサイズ聞きたいくらい可愛いぞー」

 正二と通子は純の制止を聞かずに和平を非難する。

 どさくさに紛れて杏子が変なことを言ってるがそれどころではない。

「違うよ、そういう訳じゃないんだってば!」

「じゃあどういうつもりなんです?先輩」

(やばい、ちょっと怒った通子が可愛い……。いや、今はそんな場合じゃねぇ!)

 和平が必死に否定するが通子に詰め寄られて答えに窮する。


 そんな和平に救いの手が

「わへい君の電話の相手は彼のお母さんよ、私トイレに行くときちょうど後ろを通りがかって耳に入っちゃったから」

「清水さん……」

「新しくできた麻雀部の部長になって不安もあったけど、なんとかできそうだって、聞こえたわ。先生、そうですよね?」

 一香が直に同意を促すと

「そ、そうだったのか……、あたしが来たときは麻雀とは関係の無い最近のテレビの話をしていたからなぁ……」

 と、言葉を濁した。

 全て一香の話に合わせたら、「家族との会話中無理矢理和平を連れ戻した」直は酷い先生になってしまう。

「いやぁ、久しぶりに家族と話したらつい長引いてしまって申し訳ない」

「そうですか、家族とですか、それならば仕方ないですね」

 通子がちょっと不満な顔を浮かべながら引き下がる。


 純とは改めて話の場を設けるということで、この場は無事なんとか切り抜けた和平。

 しかしすぐにその機会が用意されるとは思っていなかった。

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