第十二話 出来すぎなので悲しく思う
欲望のままに一香と通子を巻き込んで卓に座る和平。
(三人に一回ずつ差し込んで、あとは自力でトップを取り合ってもらうか)
結局和平は三人のうち誰とデートに行くか決めきれなかった。
(だってみんな可愛いからなぁ……)
和平は三人の顔を見ながら自分の手牌を並べる。親ではあるが和了りに向かう気は全く無い。誰かがテンパっていることが分かった時に誰にも怪しまれずに差し込むように用意する。
三人もしくは二人の河にある牌は残さず、それ以外の牌(生牌)を残す。ドラの(9)も自分の所にくれば当然手牌に残す。
そして十三順目――
「リーチ」
下家の一香が「5」を切ってリーチをかけた。
和平は自分のツモが来るまで杏子と通子がロンされないことを祈る。
「うーん……」
杏子はツモった牌を手に河に置こうとして手牌につけて悩む。それを何度か繰り返してやっと「南」を切る。
通子はツモ牌を見て安堵の息を吐き「南」切り。
二人とも一香のリーチに刺さらなかったが、この時間は和平にとって長く感じられた。首筋に当たる春の暖かい日差しで火傷する、とも思った。
やっと自分のツモ番だが何を切るかが肝心である。 明らかに一香の待ちであろう牌を切っては一香や杏子は何とか誤魔化せるかもしれないが、通子には通用しない。
さて、と和平は一香の河を見る。リーチ宣言牌は「5」これが「赤5」なら「14・69」両面待ち二種類のどちらかな可能性が高いと言われている。
しかし普通の「5」ならばその可能性は「赤5」よりも減る。
しかも早めに「2」があるので、その外側である「1」の可能性は低い。つまりどっちにも転ぶ可能性がある牌。
(さらに言えば安目になりそうな牌……)
和平は「うん」と頷いて「1」を河に置いた。
「ロン」
(よしっ、清水さんに……)
「ロン!」
(おや……?)
「ロッ、ロン」
(あれ……? ロンが……、三回……、聞こえたよ?)
予想外の展開に和平はしばし思考を止める。
「トリプルロンは流局では無く成立しますよ、先輩」
通子の声で現実に戻される和平。卓を見ると三人が牌を倒している。つまり和了っている。リーチをかけた一香が裏ドラめくる。裏ドラは(6)。
一香の手牌
ロン上1→ 12233(4)(赤5)(6)六七八九九 ロン1
「リーチ一発平和イーペーコー赤ドラ1裏ドラ1、12000点」
通子の手牌
ロン下1→ 234赤56789二三四西西 ロン1
「平和一通赤ドラ1、8000点」
杏子の手牌
ロン対1→ 1(3)(3)(9)(9)一一五五東東白白 ロン1
「えっと……七対子ドラドラ……6……」
「6400点」
「ありがとう、一香」
一香のフォローに、にっこりと微笑を返す杏子
和平が支払う点数は合計26400点。原点は25000点なので東一局にしてトビ終了となった。
最終順位
1着 一香・37000
2着 通子・33000
3着 杏子・31400
4着 和平・-1400(トビ)
「えーっ、始まって五分で終了して一香がトップー!?」
言いだしっぺの杏子がなんとも消化不良だと訴える。
「ま、まあ……しょうがないじゃないか、まさかトリプルロンになるどころか清水さんにも安全だと思っていたんだから……」
和平がたじろぎながらも点棒を戻す。半分は事実を話しているが、半分は嘘である。
「そうよ、あん子。勝負なんだからしょうがないじゃない」
和平に騙されている形の一香が杏子を宥める。
「確かに先輩の言うことにも一理あります。すぐに終わっちゃいましたが、先輩が清水さんにケーキをおごるってことでしょうがないですね。あん子さん、私たちも自費でケーキを食べにいきましょうか」
自主的にサシウマに参加したわけではない通子も一香の肩を持つ。
(おや……結局のところ三人とケーキを食べに行くのか?)
と、和平が喜びの声をあげようとしたところ……。
「話は聞かせてもらったぞ、麻雀部員七人全員でそのケーキ屋に行くぞ」
と、直が部室に入ってきた。
「七人……? 先生と九断君を入れるとしてももう一人……」
杏子が首を傾げると
「その九断が一人口説いて入部させる。二人とは後で合流し、学年末テストお疲れ会と新入部員歓迎会を兼ねて三石が食べたいケーキを食いに行く。お代は全部部長の森が出す」
直が衝撃の回答をタバコを火につけながら一気に話した。
「えっ、なぜ俺が全員分支払うんですか!?」
和平が立ち上がり抗議すると。直はタバコをふかしながら
「うるさい、麻雀部部長たるものが東一局でトリプルロントビ終了という情けない姿を晒した罰だ!」
もっともな事を言われて和平は無言で座るしかなかった。
「わ……わへい君……、私は自分の分は……」
一香が慰めの言葉をかけるも
「いいよ、清水さん。これはルールだから」
と、和平は悲しく微笑んでみせる。
(もともと誰かとデートしたくてワザと差し込んだから、その事自体が咎められないだけでもいい)
そう諦めがつく一方で
(それにしても七人分かぁ……、正二め、なぜこのタイミングで入部させるんだ)
と、先ほどの正二への期待とは正反対の恨み事を呟く和平であった。
「うわーい、ケーキがタダで食べられるー!」
「よかったですね、あん子さん。私も先輩のおごりで嬉しいです」




