第十一話 三人いるのに止める奴はいなかったのかと後から思う
和平は学年末テストを三十位以内でクリア。杏子と一香はそれぞれ二十位・十位以内に入り。通子・正二の二年生コンビも追試を受けることなく終えた。
「先輩方ー、麻雀解禁ですよー!」
通子が牌を手積みで並べてやる気を和平達にアピールしている。
「テスト終わったんですから麻雀やりましょーよー、四人いるんですから麻雀やりましょーよー」
和平はちらりと部室を見回した。一香と杏子は二人でスマートフォンを動かして何かを探している。杏子がテスト前に「新規オープン!」と書かれたチラシを見せて
「終わったら隣町のこのお店へケーキ食べに行こう!」
と言っていたので、そこで何を食べるか得になるクーポン券は無いのかと探しているのかもしれない。
正二は授業のノートを見せてもらった女子生徒にお礼として食堂で何か奢っているらしい。
ついでにその娘を麻雀部に入れてしまえば最高なのだが……、と和平は通子の待つ卓に向かう。
「うわーっ、先輩が来たーっ、一香さんも杏子さんも来て下さいよー」
通子が卓の端を叩きながら二人を呼ぶと、杏子が目を輝かせながらスマートフォンの画面を見せた。
「ラスの人がトップにこのモンブランを奢るならやる!」
杏子は麻雀を始めたばかりにも関わらず、トップとラスに対してのサシウマを要求してきたのだ。
「えっ……、あん子。それでいいのか?」
和平が驚きの声を上げる。この三人相手トップに立とうなどとに無謀だ。
一香は隣の杏子を止めもせず、ちょっと困り顔で見る。
一番長く杏子と付き合っている彼女の中では、杏子がこの状態になったら何を言っても引っ込まない、と諦めているのかもしれない。
和平が思うに既に勝負が見えている、この誘いは受けるわけにはいかない。
と、何とか断り文句を考える和平の脳内に虫歯に巣食う黒いバイ菌のような格好をした和平が現れて囁く。恐らく彼の中にいる悪魔であろう。
『お前なら麻雀始めたばかりのあん子をラスにさせることなんて簡単だろう。その時お前がトップならば、あん子と二人でケーキ食いに行けるじゃねぇか。つまりデートだよ、デ・ェ・ト』
「デー!?」
脳内悪魔和平の囁きに思わず反応してしまう和平。
「デ???」
突然上がった声を訝しむ女子三人。その空気に気づいた和平は
「デークシッ! ……、あーっ」
と大げさにくしゃみの振りをしてティッシュで鼻をかむ。
「先輩、花粉症ですか?」
和平のウソくしゃみに騙された通子が心配そうに見る。
「あ、ああ……、今年からそのようだ……」
通子の心配に和平は出まかせな応えをする。
「花粉症ならヨーグルトとか甜茶がいいって聞いたことあるけど」
一香も騙され、どこからか仕入れた豆知識を披露する。
「そうなんだ、ヨーグルトも甜茶もこのお店にあるからケーキと一緒に食べよう」
騙されたのかは不明だが強引に杏子がサシウマへと話を戻す。
(杏子をラスにしてケーキデートか……)
乗り気になった和平の脳内に白い格好をした和平が現れた。黒が悪魔和平ならば彼はきっと天使の和平であろう。白い布で全身を纏うその姿は天使というより古代ローマ人だが。
『和平よ、麻雀をよく知らない女の子をラスに落としてデートに連れて行こうなどと邪な考えはよさぬか』
すると悪魔和平は反論した。
『何だと! そんな奇麗事言ってこの元女子高ライフを楽しめると思っているのか!?』
天使和平は悪魔和平を睨みつけると叫んだ。
『漢ならデートしたい娘に差し込みをしてトップに上げ、自らはラスに落ちるものだろうが!!』
「男」ではなく「漢」と叫んだ天使和平に悪魔和平は感動してしまった。
『お、俺が悪かった……。そうだよな、女の子とデートができるなら順位なんて関係ないよな』
『そうだぞ、悪魔和平よ。女の子をトップに立たせたほうが後々彼女にしやすいではないか』
互いに意見が一致して抱きしめ合う天使和平と悪魔和平。天使と悪魔二人からなる脳内和平の意見を集約して声を発する和平。
「よし、そのサシウマ乗ってやろうじゃないか。他の二人はどうだ?」
上手くやれば杏子とデートができると浮かれている和平の脳内に今度は別の和平が現れた。顔以外は緑色の煙で巻かれており、どんな格好なのか分からない。
『和平よ、お前は杏子をトップに立たせれば杏子とデートができると思っているようだが、女の子は他に二人もいるぞ、選り取り緑じゃ。ひゃっひゃっひゃっ……』
不気味な笑い声を残して脳内にいる緑和平は消えた。残されたのは新たなる発見。
(え……、つまり言いだしっぺの杏子だけじゃなく一香や通子もサシウマに参加させれば二人でケーキ食べに行けるってこと?)
要は「自分がラスになる」それだけが条件なのだ。
和平は一香と通子を交互に見て、少し自分なりにカッコをつけて言ってみた。
「最悪ラスにならなければいいんだ、みんなでそのサシウマやろうぜ!」




