第十話 よくあることとはいえもったいないと思う
和平の右手は牌山へと伸びた。
(俺は鳴かない!)
ツモった牌は「西」三つ目の暗刻。つまりイーシャンテン。
そして「(4)」を河に置く。
(「2」が対子ってもいい。「2」待ちの四暗刻単騎なら尚更いい)
下家の通子が和平の牌で鳴けないため苦しい表情でツモ切りをする。ズレないまま一香は一発目のツモ牌を手にする。ツモ牌と手牌を一度ずつ見た後で表情が暗くなる。
「……違う」
河には「3」が置かれる
(「3」が通ったらなおさら「25」は危険じゃないか!)
直がまた和平が鳴ける「(2)」を出すが和平は鳴かずツモる。そして四つ目の暗刻となる「六」を手に入れ「(3)」を河に置き「2」待ちの四暗刻単騎テンパイ。
しかし無常にも和平の読みは当たっていたのである。通子は鳴けず、リーチ後二度目の一香のツモ番。今度はツモってすぐに結果が出た。
「……ツモ!」
「すごーい!」
一香の声と杏子の歓声が同時だった。
2ツモ→ 3344567888999 ツモ2
「リーチツモ清一……」
(確かに「2」は当たりだったけどあれ……、これは……)
「裏ドラ三つなら三倍満で私が一気に三人抜きですね」
「あ、ああ……、そうだな」
気合いの入った一香の問いに直は気の抜けた返し。
通子何か確信を得た表情を和平に見せる。和平は同じ認識を持っていると頷いて見せた。
一香を除く三人とも裏ドラが載って着順がどうなるか理解している。
しかし、それどころではない事態が起こっていることに一香は気づいていない。 裏ドラをめくって見てその違いはますます顕わになる。
裏ドラ「3」 リーチツモ清一ドラ2 十ハン 4000・8000
「あ……、裏二枚だった……」
一香が落ち込んだ表情で「2」を卓上に置いた。
最終順位
1着 和平・28700
2着 直・25300
3着 一香・24000
4着 通子・22000
「いやー三位止まりだったけど最後かっこよかったよー! 一香!!」
杏子が興奮しながら一香の肩を揺らす。
「そ、そうかな……、ありがと……」
揺らされているせいなのか三着なのに褒められているせいか一香が戸惑いながら答える。
「しかしまだ慣れていないのに面前清一をツモるなんて清水先輩すごいですね」
四着に落ちた通子が悔しさを見せることなく一香を称えるというか確かめるように声をかける。
「そ、そうね……「25」待ちで「5」なら高目でイーペーコーがついてたけど……、安目の「2」だったから裏ドラに期待しちゃった」
揺れた一香の顔に赤味が付く。照れているのだろう。
和平と直は互いに目を合わせて少し微笑む。
(やっぱり「25」しか待ちは無いと思っているようだね、森)
(ええ、「2345」の四面張で最高目は「34」
です、先生。まあ面前清一は待ちが分かりにくいですから)
本来ならば一香が一発目で切った「3」で和了れていたのだ、そしてその役と最終順位は……、しかし「待ちが全て理解できない」のは麻雀を始めたばかりの和平もよくやったミスだ。そのミスに気付き反省し、二度とやるまいと研鑽をすることで麻雀がますます好きになる。
一香には三人のうち誰かか後で真相を教えるとして、和平は杏子に感想を聞いてみることにした。
「……とまあ……、こんな感じだったんだけど……、あん子はどう思った?」
「え、もちろんやってみたいと思ったに決まっているでしょう!」
即答で杏子は目を大きく輝かせながら頷いた。
「よーし、一関は職員室行って私の机から入部届け持って来い、森はそれまで三石に話してろ。そして清水、あんたは私からお説教!」
「え、えっ? 私また何かしました……!?」
一香がおろおろしながら卓上の牌と直を交互に見る。
(先生、清水さんにさっきの待ちのこと教えるつもりだ……)
和平が苦笑いしながら通子を見ると彼女も肩をすくめて笑っている。
(やっぱり気がついていたか)
和平が目線を合わせると通子は頷いて
「それじゃあ職員室行ってきまーす!」
勢いよく部室を出て行った。
(あん子が見ている前で清水さんが「34」でツモ和了ったら出来すぎな展開だったんだけど……)
と、通子を見送った後で和平は杏子とともにもう一つの卓へと移動した。
座りながらも学校中から「姫様」と呼ばれている杏子が麻雀部に入るなど夢ではないかと思う。麻雀も「姫様」のように綺麗なものだろうか……。
「じゃあこれからよろしくね、森君。あ、部長さんの方がいい?」
杏子の問いかけが和平を現実へと戻す。
「いや役職じゃなくて名前でいいよ、あん子」
「そうか、じゃあ森君だね。よろしく」
いつか「和平君」と呼ばれたら嬉しいな、と和平は妄想を再開したが
「うわーっ、またやっちゃったー!!」
一香の悲鳴が和平の意識を麻雀部部室へと戻すのであった。
直の一香へのお説教の内容は同時に更新された「麻雀講座的なモノ」に書いてあります。




