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どう打つの?森  作者: 工場長
東一局・麻雀部創めました
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第九話 カッコよく高目を追求してみる

 早速麻雀卓に着いた麻雀部の四人。和平は後ろに杏子が見学すると思い気合いを入れた。しかし、杏子が立ったのは一香の後ろだった。

(えっ!? 麻雀見たいと言ったのに清水さんの後ろ?)

 麻雀を始めたばかりの一香ではお世辞でも参考になるとは言えない、と和平は思った。

「なんだなんだ、三石は清水の応援か」

 直が杏子をからかう。

「違います立花先生。一香の後ろで麻雀を見たいんです」

 杏子が余った椅子を引き寄せて座りながら直に反論する。

「麻雀が上手くなりたいのならあたしの後ろにつくのが一番だけどな、そうだろ? 部長さん」

 直が意地悪そうに笑いながら和平を見る。

(くっ……、悔しいが今のところは先生が一番強いのは確かだ……)

 直の強さを認めながらもここで大人しくしては直が越えられない壁となってしまうような気がして

「いや、俺の麻雀も結構見ごたえがあると思いますよ」

 と、杏子を意識した強気の発言をしてしまった。

(あれ? 先生には負けないつもりのことを言おうとしたのに……、何かちょっと違う? あん子に見てもらいたいからかな……?)

「せんぱーい、あん子さんを自分の後ろに誘っているのですかー?」

 和平の心中を読んだ通子が囁く。

「えっ、自分の後ろって?」

「え、え? 私を誘ってるってどういうこと?」

 中途半端に囁きが聞こえた一香と杏子が和平と通子を交互に見る。

「い……いや、あん子が麻雀の楽しみを感じたいのなら清水さんの後ろがいいかなって……、通子が俺と同じことを考えていたんだ……」

 慌てて誤魔化す和平。さっきの強気の発言とは全くの逆だ。

「ま……、麻雀を覚えたての清水さんがずっと麻雀やっていた俺たちにどう立ち向かうか、それを見るのも麻雀の一つの楽しさだと思うんだ」

 自分の心を立て直しながら話す和平。強さを求めるのならば一香ではダメだが、楽しさを覚えるなら同じ初心者の、そして友人である一香の麻雀を見るのが効果的だと和平は本気で思った。

「なんだかよく分からないけど、森君いいこと言った!」

 杏子が親指を立てて和平に笑顔を見せる。和平はそんな杏子を見て他の生徒に対して優越感を覚えた。

「先輩、それじゃあ私たちはまるで悪いボスみたいですね」

 通子が笑みを浮かべる。その可愛い笑顔に和平の顔も綻ぶ。

「初心者に遠慮なくかかる麻雀も悪くは無いよ」

 直が缶コーヒーをすすりながら呟く。この人は本当に楽しそうだ、と心の中で和平は苦笑した。

「それじゃあ始めるわよ、あん子、私の麻雀ちゃんと見てて」

 表情を引き締めた一香(この表情を見るたびに和平は胸がドキッとしてしまう)がサイコロを振り出した。


 春も近づいているのか部室には暖かな日の光が入ってくる。そのためかもしれないし唯一の男としてカッコいいところを魅せたいためか、和平は終始高目を追求するようになっていた。

 東四局オーラスまでの点数はやはり当初の予想通り経験の差で、一香が一人8000点と沈んでいる。

「今日もあたしの勝ちかね」

 33300点でトップの直が二杯目の缶コーヒーを飲み干す。

「いやいや、先生はラス親じゃないですか。ここで私が華麗にツモればまくれますよ」

 26000点とかろうじて浮きの通子が負けじと手牌を揃える。

「まあ俺は何を和了ってもトップに立てるけどね」

 と、32700点で直を追う和平は手牌を見てニヤける。なぜならばそこには「發」が三枚あるからだ。

(もうさっさと鳴いて和了ってしまおうか)

 高目もいいけどこの局面では相手を僅差で捲って見せるのもカッコいいだろう。和平の麻雀には柔軟なところがある。

 しかし上家の直が和平を鳴かせまいと牌を絞る。流局し、和平がノーテンならば直が逃げ切るからだ。

 だが七順目に至った段階で和平は一暗刻と三対子。ポンなら直以外でも鳴けるし。このまま七対子でもいい。

 八順目の和平のツモは「三」暗刻が二つになった。

(どんどん牌が重なっていくな……、流れとしてこのまま面前で……)

 配牌時は「發」 しか重なる牌がなかったのに手牌と同じ牌が多く来ている。この場合和平は鳴かずとも最後まで自分でツモれる流れだと信じている。――即ち最終系は四暗刻――

 ところが自分の目指すべき道が決まったところですんなりといかないのが麻雀の醍醐味の一つ。和平は八順目に切る牌を対面の一香の河を見るや、自分の手を見すぎて他人を疎かにしていた事に気がついた。そのため最初に手にしたものとは違う牌を持ち、河に置く。

(危ない危ない。まだ切っても大丈夫かもしれないがこの局面ではそういう問題じゃないからな。使おうと思えば使える牌だし)


 そして一香のツモ番。

 ツモ牌を手牌につけてしばし悩む。手には切るつもりの牌があるがそれでも悩んでいる。

(あれ切って何待ちか確認しているんだろうな)

 一香の河を見ればある程度は想像できる。そこには索子が一つも無かった。

「うん、これしか無い。リーチ」

 と一香は 西 を横に曲げた。

和平も直も通子も考えている事は同じだった。

(索子の面前清一!)

 一香の後ろで見ている杏子も何かすごい手ができていると思っているだろう。

 リーチ清一自体は七ハンのハネ満だが一つドラか役がついて倍満ならばロンされた場合、誰でも四着に落ちてしまう。幸い表ドラは索子ではないが、裏や赤ドラがある。それにこの順目では「一発」がつく。危険牌と感じたものは全て手に取っておくしかない。


 一香から見て下家に当たる直が最初に一香への対応をしなくてはならない。一香の河を見て後で和平の河を見る一香のそれよりも時間をかけて見る。そして「(2)」を河へと置いた。

(なるほど、一発消しに鳴いてくれってことですか、先生)

 直の予想は当たっていた。和平の手牌には確かに「(3)(4)」があり、チーができる。親である直はロンもダメだがツモられるのもダメだ。せめて「一発」という役は消したいのであろう。

 しかし鳴いてテンパイを取るために和平が切らねばならぬ牌は「2」。先ほど和平が最初に捨てようとしていた牌だ。

(「發」があるから鳴いてこれを切ればテンパイだが……、絶対に捨てちゃいけない牌だ。捨てるならその前に切っているし……、だがこれが通れば俺の勝ちの流れ……、鳴いてこれか他の牌を捨てるか? おそらく先生は手を崩して 「(2)」 を切ったからノーテンだろうな……、俺よりも先生のほうが苦しいから俺は無理をしなくてもよいか……)

 鳴くか鳴かぬか降りるか攻めるか。和平の右手が動いた。

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