プロローグ 卒業の条件が無茶すぎる
両親の仕事の都合で高校を変えることはよくあることだろう。
そこが全寮制の学校だって言うこともまああることだろう。
さらにそこが元女子高で男女比率が大きく偏っているのは……、まれだがあるかもしれない。
重ねて転校の時期が学年が変わる直前というのも……、希少な例としてあるのではないか。
その上この元女子高の……。
実際にそんな滅多に起こり得ない現実を受け入れなくてはならない男子高校生がここにいる。
彼の名は森和平。この春より三年生になる彼は校長より提示された、卒業の条件に呆然としていた。
「我が校は共学になったとはいえ、誰も彼も男性を、と言うわけではありません。能力に優れた男性を受け入れることにより、未来に向けて更なる男女平等の社会を目指して――」
(いや、理屈は分かったのだが、だからってこのどれかをやらないと退学処分になるってか!?)
そこに書かれていた条件とは
我が葵塚学園に入学する男子学生は卒業するまでに以下の条件のうち一つ以上を達成していなければ卒業を認めず退学処分とする。
一、各学期の中間・および期末テストにおいて、十位以上の順位を取ること。
二、部活動に所属し、全国大会およびそれに準ずる大会に出場を果たすこと。
三、生徒会長および生徒会副会長など生徒会幹部に就任し、その任期を全うすること。
(いやいや、どれも無理です、無理ですってば!!)
学力は上の下、テストの結果は決して悪いほうではないが十位以内など取ったことも無い。
体力に至っては中の中。全国大会とそれに準ずる(この辺りがあいまいだな、と和平は思っている)大会などに出られるわけが無い。そもそもそれほど好きなスポーツなど無い。
よって、そんな目立たないので、立候補して全生徒から選挙で選ばれる生徒会幹部になどなれるわけが無い。
何ゆえこの学園に入ることになってしまったのか……、自分の運命を呪いながら条件を見つめる和平だったが、次の項目に目を見開いた。
四、現在我が学園に無い新しい部活動を立ち上げ、定着させること。
(俺が唯一できそうなものとはいえばこれしかないが……、しかしこれは部活として認められるのだろうか……)
聞きたいことも聞きだせず彼は条件の書かれた生徒手帳を持ちながら校長と教頭を交互に見る。よくよく見ればこの部屋が暗く重苦しいのは冬曇の夕方にも関わらず部屋の照明がついていない。教頭の眼鏡からの反射光がやけに目立つ。わざと暗くすることで威厳を見せようというのだろうか?
「どうしましたか? 何か質問でもありますか?」
教頭が咎めるように尋ねる。このままじっと見ているわけにもいかず和平は腹をくくった。
(ええい、このまま何もしなくても卒業は危ういんだ。だったら自己都合、通らば勝負だ!)
「この学園には『麻雀部』という部は存在しませんよね」
「ありません」
勢いよく訪ねる和平に対して教頭は淡々と答える。眼鏡が光る。
「もしこれで僕が麻雀部を作って上手くいったら……、卒業できるんですか?」
「構いませんよ」
初めて校長が答えた。暗くて彼女の顔はよく見えないが、教頭の淡々とした物言いとは違いどこか楽しそうな声であった。