学校に閉じ込められた話
私は小学一年生になったばかり。
上級生のお兄さんお姉さんたちは体も大きくて、優しくて、賢くて、
私もいつかあぁなりたい。
放課後、委員会があったから、みんなで集まることになった。
委員会の人たちはみんないい人。
学年それぞれ1人ずつ委員会に入ってるんだけど、
私と同じ一年生の子は今日休みなんだって。
だから、今日は私が1番年下。
正直、委員会は難しくて話がよくわからない。
いつもお兄さんお姉さんたちが色々話していて、気づいたら終わってる。
(わたし、役に立つようになれるのかなぁ?)
そんないつもの集まりがそろそろ終わろうとした頃、足元にヤモリを見つけた。
拾うと、ヤモリは逃げなくて、手の中でゆっくりくつろぎだした。
仲良しになれたと私は嬉しくて、委員会のことなんてそっちのけでヤモリちゃんを眺めていた。
ふと静けさを感じて顔を上げたら、
教室は夕暮れ時だった。
(あれ?さっきまで明るかったのに、、わたし、寝ちゃったりした?)
キョロキョロと周りを見渡すと、お兄さんお姉さんたちもキョロキョロ。
「あれ?こんなに暗かったっけ?いつのまに?」
「もう帰らないといけない時間だよね」
私は時計が読めないから、帰る時間はわからないけど、こんなに暗いのは初めて。
早く帰らないと、真っ暗になってしまう。
そしたら怖い。お母さんが心配しちゃう。
みんなが立ち上がって帰る準備を始めたから、私もヤモリちゃんをポケットに入れて、ランドセルを背負った。
教室のドアを見ると、外で知らないお兄さんお姉さんがドアを叩いてるのが見えた。
急いでお兄さんが駆け寄るけれど、声が聞こえないし、こちらの声も届いていないみたいだった。
そして何より、ドアが開かないようで、力が強いはずのお兄さんが頑張ってるのに
びくともしていなかった。
私は一緒になってドアをぐいぐいしたけど、開かない。
「みてこれ」
お姉さんの声。
そっちを見ると、黒板に文字が書かれていた。
“ここから出たければ、がんばってね”
なにを・・・?
みんなが教室のあちこちを、何か出来ることがないか探り始めた。
私はどうしたらいいのかわかんなくて、ドアをぐいぐいやり続けた。
外では相変わらずお兄さんたちが騒いでいるように見える。
「あっ」
ふっとドアが軽くなり、開いた。
「あいたよ!」
私は叫んだ。
みんなが寄ってきて、廊下の人たちと合流できた。
よかったよかったとみんなで話していたんだけど、
「あれ、夜?」
窓を見ると、外は真っ暗で星が見えていた。
夕方から夜ってこんなに早いのかなぁと思いながら教室を振り返ると、
私より後に出てこようとしているお姉さんが、スローモーションな動きをしていた。
「わっ!!」と驚いて声が出て、みんなが同じように教室を振り返る。
スローモーションのお姉さんがドアから出てきた瞬間、普通になった。
ひとりのお兄さんが教室に一歩踏み込んでみると、お兄さんがスローになる。
みんなが驚きながらも、
この教室と廊下で時間の流れが違うんじゃ無いかと話しをしだした。
「おうち帰りたい・・・」
私は怖くて思わず声にすると、お兄さんお姉さんたちが
「大丈夫だよ、一緒に帰ろうね」と手を繋いでくれて、
怖く無いように私の周りを囲ってくれた。
あったかくて、嬉しかった。
そのままみんなで廊下を歩き、玄関に向かう。
「うしろ!!」
誰かが叫んだのが聞こえた。
みんな一斉に振り返ると、遠い廊下の端に、白い人影。
光っているその人は、ゆっくりこちらに移動してきていて、
とりあえずよく分からないけれどやばいと思った。
みんなが一斉に走り出す。
隣のお姉さんが私の手をひいてくれて、
足がもつれながらも、みんなについていくことができた。
階段に出ると、なぜかシャッターがしまっている。
お兄さんの1人が「僕が押すからはやく通って」
とシャッターのボタンを押してくれた。
「ありがとう!」
とみんなが口々に言い、脇を通り抜ける。
(お兄さんは逃げれるの?いいの?一緒に来れるの?)
そんなことが頭によぎったが、走ることで精一杯で、振り向くことができなかった。
降りた階段の先には机の山が。これじゃ通れないと、隣の階段に回ることにして、また走り出す。
でも途中にまたボタンがあったり、誰かが押さえていないといけなかったりと、
気づいたら一緒にいる人たちがどんどん減っていった。
もう少しで玄関のところなのに、もう3人しか残っていなかった。
お兄さんが
「ここは俺がやる。守って逃げてあげて」
「わかった」
手をひいてくれたお姉さんが返事をする。
もう2人だ。
また走り出すと、玄関が見えた。
しかし、またボタン。
お姉さんが私を見る
「助けを呼んできてね」
そういうと、お姉さんはボタンを押した。
私は心細くて、真っ暗な廊下に足をすすめた。
怖くて振り向けなかった。
一緒に来て欲しい。
助けて欲しい。
あんなにみんな守ってくれたのに、もう誰もいない。
涙で目の前が歪みながらも進んだ。
ここを曲がれば、玄関。
私はそっと頭だけを覗かせた。
すると、扉の手前に、白い人。
怖い!隠れなきゃ!
慌てて私は近くのトイレの中に隠れた。
怖くて、怖くて、ポケットからヤモリを出して
手のひらで包みながら、一緒に耐えた。
・・・・と思った。
いつのまにか、寝てしまっていた。
あたりはすっかり明るくて、私はトイレの扉を開いた。
明るい玄関には誰もいなくて、
私はほっとしながら、玄関扉を押すと、
眩しい光と共に、優しい顔をしたおばあさんが、こちらに手を伸ばしてきた。
私は助かったんだと、その手を握り、一緒に歩き出した。
おばあさん「遅かったねぇ、もうみんな、すっかり大人になってしまったよ」
そういうおばあさんの顔を見ると、手を繋いでくれていたお姉さんに似ている気がする。
歩いた先に、何人かおじいさんお婆さんが待っていた。
「もしかして、お兄さん、お姉さんたちなの?」
「そうだよ、君が1番最後だった。やっとでてこれた。よかった、ずっと心配していたんだ」
「なんでみんな、大人になって・・・」
ここで、黒板の文字を思い出した。
“ここから出たければ、頑張ってね“
よくは分からないけれど、
ここは、勇気を出して、誰かを守るために頑張った人から順番に外に出れたのかもしれない。
私は・・・誰も守れなかった。
守ってもらってばかりだった。
誰かのために勇気を出せなかったんだ。
だから、私が最後。
年下ということに甘えてしまった自分が恥ずかしくなった。悔しかった。
なんで、助けを呼ぶために、玄関まで走れなかったんだろう。
ダメかも知れなくても、みんなはがんばってくれたのに。私は。私は。。
握ってくれた手と、反対の手をぎゅっと握りしめた。
そこで気づいた。
ヤモリちゃんがいない。
最後まで一緒にいたのに、手の中で、守って・・・・・




