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 終わりだと言っておいて、続けていることを、大変申し訳なく思っています。

 再度登場、葛平七生です。

 この話をすることを、読者の皆様が望んでいるとはとても思えない。

 人観の言葉を借りるなら、無駄なこと。

 知らなければ良かっただけの話。

 だからもし、忙しければここでやめていただいて結構です。

 むしろ、そちらをお勧めします。


 ――七月六日の土曜日、午後四時十七分。

 この国では絶滅の危機に瀕していると聞く商店街の、端の端。いっそ商店街の中にはないと言った方がいいような場所。

 そこに、俺はいた。

 女郎花古書店、と看板の掛かる店の中に。

 ついさっきの話だ。

「そういえば、これも返しておこう」

 俺へのドッキリを終えた人観が、白い紙切れを差し出してきた。

 ポケットにないことも忘れていた、一枚の名刺を。

「ん? 反応が悪いな。あいつから情報を買って、ここまでやってきたんじゃないのか?」

 あいつ? 情報? 買って?

「本当に知らないみたいだな。でも名刺を持っているということは、君が商売相手ということは間違いないだろう」

 商売相手? ますます分からない。

「まあ、それは本人に直接訊いてみるといい。あいつはダメ人間だが、嘘だけは言わないから」

 真実も言わない可能性もあるが、と人観は楽しくなさそうに笑う。

「それにしても、あいつの商売相手を処分せずに済んでよかった。もしかしたらこの貸しで、借金を踏み倒せるかもしれない」

 意地悪く、楽しそうに、笑う。

「おめでとうございます。ヨウコさん」

 無機質、無表情で影虎さんが祝福した。

 そして地上に戻り、そのまま家にも帰らずに俺はここに来た。

「お。葛平くん。二日ぶりだね。無事で何より」

 相変わらずの、心のない彼の言葉。

「……その格好は何だ?」

「失礼だね、葛平くん。僕は何かのキャラじゃないんだから、いつも同じ格好でいるわけじゃないんだよ」

 人観くんはいつも同じような服だけどね、と付け足した。

「違う。何故ウチの高校のジャージを着ているのか、と訊いたんだ」

 女郎花は、独楽原高校指定ジャージを着て、本棚の並ぶ店内の奥の小さな座敷のような所に、あぐらで座っていた。

「理由は簡単。僕があそこの卒業生だからさ。つまり葛平くんの先輩さ。で、どうだい? 少しは若く見えるかい?」

 ……だから、そういうのが若くない。

「で、求めた真実には辿り着けたかい?」

「……一体、あんたは何者だ?」

「ただの、古書店店主さ。副業で真実を売り買いしているけどね」

「真実を、売り買い?」

「うん。そう。だからあのとき、雛村くんの居場所を売ってあげた」

「……買った覚えはないぞ」

「まあ。初回はサービスだからね。次からはちゃんと対価をもらうよ」

 よっこらしょ、と声を出して正座に座り直す女郎花。

 ――その掛け声が、とことん若くない。

「とはいえ、無料ってわけでもない」

「やっぱり金取るのかよ」

「いやいや。そうじゃない。ただ、葛平くんが今回知った真実を、僕に教えてくれるだけでいい」

「真実? そんな大層なもん、知らねぇぞ」

「別に難しく考えなくていいよ。葛平くんが見たこと、感じたこと、思ったことを話してくれるだけで、いい」

 ……………。

 ……胡散臭いが、話すしか、ないようだ。

「……どこから話せばいい?」

「僕と別れたところから、お願いするよ」

「そうか。それじゃあ――」



「――で、以上だ」

 うんうん、と頷いている女郎花。

 決して話し上手ではない俺の話を、しっかりと必要なところでは相槌を打って、静かに彼は聞いていた。

 女郎花は、とてつもない聞き上手だった。

 途中、自分が話し上手になったような錯覚さえ感じた。

「つまり」

 俺が話し終えて、女郎花が口を開く。

「さえない葛平くんが突然モテモテになった、という話だね」

 ……………。

「その結論は、不適当極まりないな」

「ちなみにだけど、僕の姪っ子は自分のことを僕と呼ぶよ」

「その補足も、不必要極まりない」

 ――だけど、そんな人間が実在することには驚きだ。

「まあ、まだ五歳だからね。あ。これも、ちなみにだけど、これは伏線ではないよ。僕の姪っ子がこの小説に出ることは、絶対にないから」

「……その、絶対、は前振りか?」

「いやいや。これは、本当の本当。職業柄、僕は嘘をつかないことにしてるんだ」

 よっこらしょ、とあぐらに戻す女郎花。

「でも、葛平くんの妹さんは伏線だと、僕は思うよ。次の話にきっと登場するよ。だから、妹さんがまた怒らないように今日は早めに帰った方がいいよ」

 ………余計なお世話だ。

 でも、正論だ。

「ああ。それじゃあ、失礼させてもらうよ。女郎花」

「うん。さようなら、葛平くん」

 俺は女郎花に背を向け、歩き出す――いや、歩き出そうとした。

「あぁ。そうだ」

 女郎花が呼び止める。

 相変わらず、加速を許さない男だ。

 俺は立ち止まり、振り返る。

「またのご来店をお待ちしております」

 にっこり、と営業スマイルの女郎花。

 ……胡散臭ぇ。超胡散臭ぇ。

「……機会が、あったらな」

 そして、俺はようやく帰路についた。

 明日は、七月七日の日曜日。

 もうすぐで、高校最後の夏休み。


 その夏休みを迎える前に俺は、過去最悪の誕生日を迎えることになるのだが、それはまた別の話。

 あなたが、知らなければ良いだけの話、かもしれない。



 以上、人間フルスペックでした。

 連日連載という長い時間お付き合い頂き、本当にありがとうございました。

 今拙作は電撃大賞落選作ですので大変お見苦しいモノとなっていると思いますが、それでも楽しんで頂けたなら嬉しい限りです。

 また、次のための勉強として本格インドカリーから星の王子様までの感想・批評を募集しておりますので、何かお気付きの点がございましたら是非ともお願い致します。

 ではでは、ここまで読んで下さった貴方に最大級の感謝を!


 追伸:感想・批評を下さった方へ……

 より多くの方の言葉をお聞きしたいので、しばらくの間、改稿せず応募したままの文章を載せたいと思っています。

 全然アドバイス聞いてないじゃないか、とお思いの方。どうか叱らないで下さい。あ、いや、叱られるのも嫌いでは(以下略

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