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鋼メンタル高校生

掲載日:2026/02/08

 俺の名前は高野慎也(コウノシンヤ)、道をゆけば太陽すらも霞ませる十六歳の高校二年生さ。今日は朝からオキニの靴の靴紐が切れて、代わりのを探すのに手間取っちまった。


 おっと、あそこにいるのは……俺の前を歩く女子高生三人組。一番右のロングヘアの彼女こそ、この俺の幼馴染にして交際相手、そして未来の花嫁、小早川桜(コバヤカワサクラ)だ! さっそく話しかけてやるとするか!


 とっ、その前に……よし! 髪型は完璧だ。朝から二時間かけてセットした甲斐がある! 俺の美しい金髪は手間と努力の結晶だからな!


「よぉサクラ。今日もかわいいな。まっ俺の美しさほどじゃねーけどっ」


 完璧に決まったぜっ! タイミング、角度、太陽の向き! これでサクラの奴も惚れ直したに違いないっ!


「はぁ? うざっ、きもっ、てか話しかけないでって言ったよね?」


 そう言ったサクラは、すぐに視線を俺から外すと足早に去っていく。


「えっ今の誰? まさかカレシ?」


「違う、ストーカー」


「だよねーっ!」


…………HAHAHAっ、照れ屋さんめっ⭐︎


「おいサクラっそんなに照れるなよ?……っともうこんな時間かよ」


 サクラも行っちまったし早く学校に行かねーと。さてはサクラの奴、俺を遅刻させない為にわざとあんな態度取りやがったな? にしても、中学まではずっといっしょだったのに、なにも女子校にいくこたねぇだろ……まっこれも会えない時間が愛を深くするってやつかな!


****************


 精一杯急いだが、どうも遅刻しちまったらしい。まぁ髪型崩れるから走ることもできないし、しょうがないよな。ただサクラの好意を無駄にしちまったのは悔やまれる!


 その上なんか? 遅刻が多すぎるうえ、何度言っても髪を黒くしないから内申最悪らしくて? 進級できるかかなり怪しくなったとかで親呼び出しまで決まっちまった。まあ、まだ頑張ればギリセーフらしいし、どうにかなるだろ。


「にしても……今時バケツ持って廊下に立ってろだなんて……」


「おっ、いたいた! はははっマジで立たされてやんの! ダッセー!」


 うっわ……一番最悪な奴に見つかった。


「よお、タクミ、ソウスケ。今時、バケツ持たせて立たせるとかありえねーよな」


 ガタイの良い坊主の方はタクミ。俺よりバカだが柔道部のキャプテンなんかやってるから内申は悪くないらしい。黒髪でチビがソウスケ。地味だが俺らの中じゃ一番成績は良い。


「それにしても、寂しくなるよね……北高の三馬鹿が来年からは二馬鹿になっちゃうなんて……」


 俺のことを、そこまで思ってくれてたのか……


「ソウスケ……って、待てっ! 俺はまだ留年するなんて決まっちゃいねーよ! つーかお前らこそ大丈夫なのかよっ。特にタクミっ! お前俺よりバカだろ?!」


 そうだ! 成績ならコイツらだって対して変わんねーはずなんだから!


「いや? そんな話一回もきいてねーぞ?」


 なんでちょっと自慢気なんだよっ!……ならソウスケは?!


「僕はほらっ、三馬鹿って言ってもつるんでるだけで今も実質二馬鹿だし……?」


 こんのっ! 裏切り者どもめぇっ!


「はははっそんなに睨むなよっ! っと」


 あっ……さっきからずっと立たされっぱなしで腕も足も限界なのに今叩かれると……っ! やばいっ! 転けっ……!


 そう思った時にはもう遅く、俺は頭から派手にずっ転けて全身ずぶ濡れ。先公にも小っ酷く叱られ、汚した箇所の掃除もさせられた。


「……あー、マジですまんっ!」


 柄にもなくでかい図体縮こませてタクミが謝ってきた。コイツにも罪悪感なんて感情があったんだな。


「気にすんなよっ! 保健室で着替えはもらえたんだし、それにっ……水も滴る良い男……だろっ?」


 そう言って俺はまだ乾き切っていない自慢の金髪をかき上げて見せた。


「がっはっはっははっ! あぁっ! そうだなっ!」


「あははっ! 良い男って……ふふっ!」


 まぁ、ずぶ濡れにはなったものの、ダチを笑顔にできたんだ、良しとするかっ!


******************


「おかえり、シンヤ」


 俺が玄関を開けるとそこにはお袋がいつにも増して畏まって待っていた。


「今日、正式に離婚届を出してきました。原因があの人の浮気なので、少しは慰謝料も出るはずですが、まあそんなお金は残ってないでしょうね」


 お袋はこの半年でえらく、やつれた。親父は数年前から酒に溺れるようになって、今回の浮気騒動がトドメになった。


「あー……うん! あの陰気なハゲの顔もう見なくていいなんて、ちょーラッキー! あっ金のことなら心配しなくていいよ! 俺高校辞めて働くから! どうせ留年しそうだったしさっ! それに俺、ホストの才能あるって前から思ってたんだよねー! そういうことだからっ!」


 階段を駆け上がる時、お袋が俺の言葉にポロリと大粒の涙を流すのが見えた。


「全くこの子は……っ! どうしてこんなに馬鹿なのかしらっ! ホストは十八歳未満はなれないわよ……っ! あの人だってお前の馬鹿さに呆れて酒に溺れるようになったのに……っ!」


 お袋……俺に当たり散らすなんて、やっぱり精神的にかなりまいってるな。これからは俺が支えてやんねーとっ!


 それにしても、ホストか……なったらやっぱサクラとは別れなきゃなんねーのかな? 仕事で他の女を口説きながら、愛してるなんて言っても信じちゃくれねーだろーな……


 考えても思考は纏まらず、俺は部屋に戻ってテレビでも見ることにした。


「えー、続いてのニュースです。人気アイドルグループ、AKM47エーケーエムフォーティーセブンの『ぐぅりん』こと宮林寺来夏(グウリンジライカ)さん(32歳)が違法薬物所持の疑いで逮捕されました。宮林寺容疑者は、昨夜未明、都内のアパートにて、交際相手とみられるアルゼンチン国籍の男性と共に家宅捜索を受けました。警察は違法薬物と見られる複数の植物片などを押収しており、麻薬取締法違反など、複数の容疑で捜査しています。また、ネット上には宮林寺容疑者と交際相手のものと見られる複数の画像が流出しており、中にはこちらのように……宮林寺容疑者が男性とキスをしながら、左手に持っているのは薬物でしょうか? タバコのようなものを吸っている画像も確認されています」


 俺の目は、テレビに釘付けになっていた。いつの間にかマグカップが手からすり抜け、カーペットをコーヒーが染め上げていったがそんなことはもうどうでもいい。


 ぐぅりんが逮捕? そんな訳がない。何かの間違いだ。同姓同名の別人に決まっている。


 …………頭ではそう思っていても、今テレビに映っている浅黒い肌の入れ墨を入れた男性と生々しいキスをするその女性は、どこからどう見ても俺の知っているぐぅりんだった。


 目鼻立ちが、ホクロの位置が、骨格が、人中の長さが、そのすべてがこの女性の事をぐぅりんだと言っている。


「嘘だっ!! ぐぅりんが逮捕? そんな訳がないっ! ぐぅりんはこんな娘じゃないっ! そもそもこのニュースっ! メチャクチャじゃないかっ! ぐぅりんが32歳だってっ?! ぐぅりんはまだ24歳だっ!」


 そうだ! 清楚系のぐぅりんに限ってこんな事があるはずがないっ! 公式生放送で男と一回も付き合った事ないって言ってたんだっ! アルゼンチン国籍の恋人なんている訳がないんだっ!


 俺は、親父の部屋のパソコンを使ってぐぅりんについて隅から隅まで調べ上げた。こんなニュース間違いで、デタラメだって証明するために。


 しかし、調べれば調べるほど、ニュースに映っていたあの女性がぐぅりん本人であると、認めざる負えなくなっていった。


「そんな……こんなのって……あんまりじゃないかっ……! 確かになぜか二人分のペアグラスが映ってる写真は多かったさ。背景が明らかに日本じゃない未舗装の道路で、誰かに撮ってもらってる写真だって見たことはあった。生放送に一瞬映ってた謎の男は弟だって言ってたのに……どう見たってこの男じゃないかっ……!!」


 点と点が繋がって、いま確かに、掻き消すことのできない線となった。つまり、今まで俺が見ていたぐぅりんは作り物の幻想で、アイドルは所詮、偶像でしかなかったということだ……


 俺は泣いた。泣いて泣いてまた泣いて、次の日が土曜だったこともあって一日中泣き過ごした。


 そして、全てがどうでも良くなった。この世界は所詮、見た目だけ取り繕ったハリボテだってことに気づいちまった。


 だから……とりあえず、自分が出来ることから、一個ずつ始めてみることにした。


*****************


「おっ、タクミ! ソウスケ! おはよっ」


「おぉ、シンヤ。今日は随分と早えーじゃねーかっ……ってお前、随分思い切ったな……」


「へへっ、だろっ? 染め直すよりこっちの方が早えーだろ? お前より短いんじゃねーか?」


 そう、俺は、とりあえず高校を続けてみる事にした、どうせハリボテの世界なら、コイツらといた方が楽しそうだからだ。


「へへへっ、それにしてもシンヤが、そこまでするとは思わなかったなー。そんなに僕たちと一緒に卒業したかったの?」


「ばーか、そんなんじゃねーよっ!」


 そんなこんなで俺はどうにか三年にも進級し、やりたい事もねーからとりあえず大学でも目指してみる事にした。金の心配なら無くなったみたいだ。俺が真面目に学校に行くようになったのを知って、親父たちもなんか? これまでのことを水に流してやり直そうって話になったらしい。


 恋人のサクラとは相変わらず上手くいってねーけど、でも最近は挨拶くらいなら返してくれるよーになった。ホストになるのもやめたし、とりあえずまともなとこに就職して、サクラを幸せにする。それが今の俺の目標だ。


「最悪の一日だと思っていたら、さらに最悪が更新され続ける」というテーマで書いたものです。一話完結。読み切りです。

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