陰キャオタクは、ロマンチックな恋がしたい
「お前、彼女いないの?可哀想だな」
最近、席替えをした。
俺の後ろの席に座る大隈は、非リアの俺をよく煽る。
「桜ちゃん行こうぜ」
「は?無理だろ」
桜ちゃんというのは俺たちの学校のマドンナだ。
圧倒的ビジュアルを持つ桜ちゃんだが、その割に彼氏はいない模様だ。
だが、オタクの俺に桜ちゃんなど到底釣り合う訳がない。
「いけると思うけどな。彼氏欲しいって言ってたし」
「いや、俺じゃ無理でしょ」
「そうか?いけると思うけどな」
本当にそうだろうか。
だって俺は隠キャオタクだ。
高校に入ってからはたまたま友達に恵まれ、今は隠キャではない生活を確かにしている。
が、やはり本質は変わらない。
初対面の人とは相変わらず話せないし、出先で友達を見つけると見つからないよう身を隠す。
そして俺はオタクだ。
美少女がわんさか出てくるソシャゲをいくつもこなし、課金を重ねている。
そんな画面内の美少女に金を注ぎ込んでおくのが、隠キャオタクの使命だと俺は思っていた。
でも、後ろの席の大隈は俺に彼女を作れと言ってくる。
確かに、彼女は欲しい。
でも、俺には無縁だと思っていた。
「別に顔悪くないんだし、いけるだろ」
そう俺を褒めてくれる大隈だが、圧倒的に大隈の方が顔がいいのは明瞭だ。
「だとしても、桜ちゃんはハードル高すぎるだろ」
「確かに、仮に成功したとしても、学校中から嫌われるかもな」
学校のマドンナを狙うというのはそういうことだ。
「じゃあ、俺が女探しといてやるよ」
「お、おう」
***
「これいくぞ」
夜、大隈からこのメッセージと共に知らない女の子のアカウントが送られてきた。
アカウント名には、セイラと書かれていた。
「いくって?」
「DMに決まってんだろ」
ダイレクトメッセージ。
今の時代はこれで恋愛をするのができる男と聞いたが、まさか俺がすることになるとは。
「何言えばいいん?」
「挨拶でもしてみ」
「DM失礼します!こんにちは!」
そうメッセージを送ると、意外とすぐに返信が返ってきた。
「こんにちは!」
「友達から紹介してもらいました。よければお話ししませんか?」
「いいですよ!」
こんな感じで、俺の彼女獲得作戦が始まった。
最初は、大隈の助けで会話を繋ぐが、途中からは自分の力で案外いけるものだった。
オタクである俺は、恋愛アニメなどまで手を出しているから、それが意外にも役だったみたいだ。
「なんて呼べばいい?」
敬語を使おうとしたが、できる男大隈によるとタメ口の方がいいらしい。
あまり納得がいってないが、しょうがなくタメ口の方を使った。
「セイラっていうので呼びやすいように呼んでください!」
「セイラちゃんでいい?」
逆になんて呼べばいいの?と自分でも思ってしまう。
呼び方を聞くのは愚問だな。次からは使わないようにしよう。
「いいよ〜私はカエデくんでいい?」
「大丈夫だよ」
ここで、俺から会話を展開をするべきだと思い、質問を考えていると、なんとセイラちゃんから質問が来る。
「カエデくんは何部?」
思っていたよりも、簡単なのか?
質問なんてしてくれると思っていなかった。
恋愛をしたことがない俺からしたら、もうすでにセイラちゃんのことを好きになってしまいそうだ。
「バスケ部だよ。セイラちゃんは?」
オタクの俺だが、部活は一丁前だ。
そもそも、隠キャは一旦置いといて、オタクであることは誰にもバレないように徹底している。
「弓道部だよ!」
「え、めっちゃかっこいいね」
「ありがとう!笑、バスケ部もかっこいいよ」
「バスケ苦手なんだよね」
バスケ部を褒めるだけでなく、自分の話までしてくれるセイラちゃん。
「自分もそんな運動神経よくないよ」
正直言ってしまうと、俺の運動神経は最悪だ。
小学生からやっていたバスケだけはそこそこできるくらい。
順調に会話が続いていたが、ここで会話が止まる。
あれ、なんかやらかしたかな。
そう思い、もう一度メッセージを見返してみるが、特に変な点もない。
寝ちゃったかな。
そう思い、俺も今日は寝ることにした。
だが、女の子との連絡で浮いている俺は中々寝付けなかった。
***
「どうだった?」
次の日、学校に行くと、すぐに大隈がそう聞いてくる。
「結構いい感じかも」
「まじ?どんな感じ?」
「なんかあっちから質問とかしてくれるし」
「よかったやん。あっちも彼氏に飢えてるのか?」
セイラちゃん。どんな顔なのか全く想像できない。
いや、正直いうと、俺の大好きなソシャゲに同じセイラという名前のキャラがいて、そんな感じのイメージで会話をしていた。
だが、当然現実にそんな子がいないのは重々承知だ。
「セイラちゃんってどんな顔なん?」
俺が大隈に聞いてみると、大隈はsnsを見ながら、
「可愛いって聞いたぞ〜可愛いけど、彼氏いないって」
「お前の知り合いじゃないの?」
俺は勝手に大隈の知り合いなのかと思っていた。
「知らねえよ。知り合いの知り合いだ」
すげえなこいつは。
「あ、でもプリクラ載ってるやん」
確かにセイラちゃんのプロフィールをよく見てみると、プリクラの写真が投稿されている。
「めっちゃ可愛いやん」
二人してそう声を上げる。
「早くデート誘えよ」
「わかった。今日誘うから待ってろ」
今の俺の気迫は誰にも負けない。
そのくらいに気合いが入っていた。
隠キャオタクの俺にもこんな美少女と付き合える日が、近づいてきている。
そう思うだけで、学校の授業は気持ちいほど快適に受けられた。
***
今夜も、俺はセイラちゃんとDMで会話を続けていた。
もう結構話してセイラちゃんのこともかなり分かってきた。
高校だったり、趣味だったり、MBTIだったり。
「あの、私と話してて楽しいっていうか、大丈夫ですか?笑笑なんかずっと会話してるけど楽しいのかなって笑笑」
軽快に会話を続けていた俺だったが、ここでセイラちゃんから意図がわからない言葉が飛んでくる。
これは、どう解釈するのが正しいのだろうか。
そのまま素直に受けるべきなのか。それとも楽しくないから会話を辞めたいということを遠回しに伝えてきているのだろうか。
「楽しいし、話しかけたの俺だから、気にしないで欲しい」
合ってるのかはわからないが、俺はそう返信した。
「逆に俺が大丈夫なの?って思ってる」
そう追加でさらに返信した。
「それならよかった」
絵文字と共にセイラちゃんはそう言ってくる。
「大丈夫だよ。最初は不安だったけど、話したら楽しかったから」
セイラちゃんはさらにそう言ってくる。
なんだ、この会話。
現実でこんな会話って起こるのかな。
DM特有、ネット恋愛特有のような気がする。
少し自分のメッセージを見返してみると、あまりにも現実とはギャップのある発言に吐き気がしてきた。
なんだか、賢者タイムのような変な気持ちになった俺は今日は寝ようとそっとスマホを閉じた。
***
「おはよう。カエデくん」
朝起きたらそんなメッセージがきていた。
朝起きたら、謎の賢者タイム(?)も終了。
ハッピーな気持ちで学校に向かった。
登校中はもちろんセイラちゃんとのDMだ。
「デート誘った?」
学校に着くと、大隈がそう聞いてくる。
「あ、やべ、忘れてた」
「早く、今送れ」
「待って、今いい会話してるから」
今は最近見た映画について話しているところだ。
「朝からおはようってきててさー」
「まじかよ。もういけそうやん」
ここまでかなり順調にきている。
こんな簡単でいいのだろうか。
セイラちゃんとの会話は授業中にも続いた。
先生の話をきているふりをして、セイラちゃんのことを考える。
5分おきに引き出しにセッティングされたスマホをのぞき、セイラちゃんの返信を確認する。
「よかったら直接会いませんか?」
突然だった。
授業中にあまり興奮させないでほしい。
俺から誘うつもりだったのだが、まさかセイラちゃんの方から誘ってくれるとは。
「俺も会いたい」
まずい。調子に乗りすぎた。
少しきもい。
「本当に?いいの?」
セイラちゃんからそう返ってくる。
「遊ぼう」
「嬉しい。いつにする?」
「今週の日曜なら空いてるよ」
「日曜にしよう」
こうして、俺とセイラちゃんのデートが決まった。
今宵はデートの内容で、盛り上がるのだろう。
***
日曜日、ついにセイラちゃんとのデートの日が訪れた。
今日の予定としては、お昼に集合し、お昼にパスタを食べた後に映画に行くと言った、典型的な高校生のデートだ。
一部では、初デートに映画はよくないという人もいるが、そんなことは知らない。
まあでも、一応先に食事を持ってきて、会話の時間を設けることにした。
朝7時にでも起きるつもりだったが、いつも通り寝坊。
だが、集合はお昼なので問題ない。
いつ買ったか分からないワックスを机から取り出し、髪をセットする。
親のセンスがいいので、私服もそんなに困ることはない。
よし、完璧だ。
小学生の入学式かと疑うほどドキドキとワクワクで満ち溢れた俺は、颯爽と家を飛び出した。
「どこにいる?」
集合場所に着くと、セイラちゃんからそう聞かれた。
お互い加工済みの顔写真なら見たことはあるのでなんとなく雰囲気はわかるかと思ったが、思ったよりも人がいて見つけられない。
ん?あれか?
俺はセイラちゃんらしき人を発見し近づく。
接近してお互い顔を見合わせると、セイラちゃんも俺がカエデであることを察したような反応を見せる。
会った直後の一言目、思っていた言葉が出ず、自分でも何を言っているのか覚えていない。
お互い緊張しているためか、あまり顔を見ないまま歩き始めた。
いや、見たくないと言った方が正しいのだろうか。
正直、俺は絶望していた。
写真と現実の顔の差にだ。
俺は、加工というものを知った気になっていたが、どうやら俺の間違いだったみたいだ。
思っていた顔とは到底かけ離れていた。
セイラちゃんが可愛くないなんて事が言いたいわけでは全くない。
想像以上の加工と現実のギャップの話だ。
俺は現実を受け止めたくなくて、セイラちゃんの顔が見れなかった。
言葉も出なかった。
これに関しては俺が未熟というのもあるが、セイラちゃんが質問してくれるのに、俺は答えるだけだった。
一人でそんなことを考えていると、いつの間にかパスタ屋さんについていた。
食事中、何も会話が発展せず、一人で色々なことを考えてしまっていた。
これは失態だ。
きっとセイラちゃんも俺のDMとの温度感の差に疑問を抱いているだろう。
一度俺は冷静になる。
まず、加工を見誤っていた俺の責任だということ。
そしてセイラちゃんは何も悪くないということ。
そして、隠キャオタクの俺に顔について触れる権利なんてないということだ。
そうだ、俺にいう権利なんてない。
彼女が今までいた事がない俺が何を言ってるんだ。
そう思うと、気持ちが楽になった。
そして、俺は顔を上げた。
セイラちゃんの顔を見る事ができた。
お互いに目が合う。
「今日はどうやって来たの?」
ついに俺から言葉を発した。
セイラちゃんの内面をもっと知りたいと思った。
DMのように会話がスムーズに進むようになった。
が、それもそう長くは続かなかった。
パスタが届いて少し経てば、いつしか会話が止まっていた。
必死に心の中で考える俺だが、何も思い浮かばない。
あんなにも恋愛アニメを見てきたのに、こういう肝心な時に何も出てこないのか?
俺は絶望した。
今度は自分自身にだ。
「好きな曲とかある?」
沈黙が場を制していた中、セイラちゃんが質問をくれた。
自分の情けなさに非情になりながら、セイラちゃんに感謝の気持ちでいっぱいだった。
だが、ここで更なる問題が発生した。
俺に好きな歌などないということだ。
いや、ないというのは少し語弊がある。
アニソンやアイドルゲームに出てくるような歌で好きなのは山ほどある。
でも、そんなのここでいうべきではないと俺の心が制御する。
俺は普段、歌など聞かないのだ。
歌なんていつ聴くんだ?もっと他にやることあるだろ。暇人かよ。そう思っていた。
「ごめん。俺歌聞かないんだよね。逆におすすめとか教えて欲しいかも」
知らないなりに悪くない言葉を返したと思う。
でも、この後セイラちゃんが何をいていたかはあまり覚えていない。
自分が今までいかにモテなかったかという理由が露骨に出ていた気がして、俺の心はボロボロだったからだ。
歌を聞かれれば、知らない。
趣味を聞かれてもオタクであることを隠す俺。
なんて悲しい生き物なんだろう。
悲観のあまり、事前にはお昼代を奢ろうと思っていた俺だったが、いつの間にか割り勘で会計を済ませて店を出ていた。
「映画いく?」
なんとか口を開いた俺。
「ちょっとお手洗いに行きたい」
そんなことにすら気付けないのか俺は。
また自分を責める。
お手洗いで一度セイラちゃんと別れた俺は個室に入り、深呼吸をする。
トイレだからいい空気ではないのは当然で、俺は深呼吸したことを後悔する。
でも、冷静になれた。
しかし、ここで俺の頭に浮かんできたのは、「頑張ろう」ではなく「諦めよう」ということだった。
もう、俺は限界だった。
自分の恋愛能力、いや、もはや、友達を作る気がないのかと問いたくなるくらい世間を知らないこと。
やっぱりどこかで加工と現実のギャップにも引きづられていた。
そういえば、DMでも似たようなことあったな。
DMでも現実とDMでの言葉使いの差に違和感を感じて賢者タイム(?)に入った事があった。
だから、俺は諦める。
幸い、後は映画を観るだけだ。
沈黙で2時間を過ごして、帰れば終わりなのだ。
トイレを出てセイラちゃんと合流し、映画館に向かった。
***
2時間半もの映画を見終わり、セイラちゃんと映画館を出た。
バッドエンドよりの恋愛映画だった。
映画の内容自体は素晴らしいものだった。
恋愛ものだったため、やっぱりもう一度セイラちゃんと向き合ってみようかと思うほどだった。
映画の感想を語りながら、俺とセイラちゃんは駅まで歩く。
お互い電車で途中まで同じ電車。
映画を観ることで共通の会話が生まれ、そのまま日常の会話も少しはじまる。
少し楽しかった。
でも、やはり俺から会話は始まらなかった。
途中で沈黙が訪れるのは予想通りだった。
もう空も暗く、お互いの表情は分かりづらい。
「写真撮ろ?」
そうして、記念にツーショットも撮った。
ちなみに、加工付きだった。
だが、もうこれ以上加工については何も言わない。
電車内で喋ることはなかった。
隣に座るセイラちゃんの顔を反対側の窓の反射で見ようとするが、反射越しに目が合った気がして、すぐに目を逸らす。
電車を先に降りるのは俺だ。
カッコつけてセイラちゃんを最後まで送り届けようと思っていたが、辞めることにした。
「じゃあね」
「うん。じゃあね」
電車内で最初で最後の言葉交わして俺はセイラちゃんと別れた。
電車を出た途端、今日の全ての疲労が一気にのしかかってくるような気がして、すぐ近くの待合室に駆け込んだ。
無意識にスマホを取り出し、イヤホンをつけ、音楽を聴いていた。
今日見た映画の曲だった。
俺は放心状態でその曲をしながら何回もリピートした。
途中でセイラちゃんから連絡が来ていたが、知らないふりをした。
俺の恋愛は今日で終わり。
そう思いながら、待合室を出た。
セイラちゃんのメッセージを確認すると、返信が取り消されてもう一度新たなメッセージが来ていた。
でも、まだ返信する気にはならなかった。
俺は自転車に乗り、曲を流したまま家に帰ることにした。
今日で、俺の恋愛は最初で最後にしようと思う。
きっと、俺に恋愛はそもそも向いていない。
俺が求めていた恋愛は違う。
もっと運命的なものだったのかもしれない。
いや、逆に普遍的なものだったのかもしれない。
恋愛を目的に異性とお互いを探り合う。
俺がしたいのはそんな恋愛じゃない。
たまたま出会った女性と特に目的もなく会話をし、何気ない会話をし、仲良くなり、気付けば気の置けないなかになり、いつの間にか恋人になっていた。
そんな運命的で宿命的で、普遍的な恋愛がしたかった。
でも、俺にそんな運命が訪れるとは到底思えない。
だから、今日で終わりなんだ。
隠キャオタクの俺は大人しくソシャゲに出てくる美少女にお金と時間を注ぎ込んでおけばいいのだ。
自転車を降り、家に入る前にセイラちゃんのメッセージに返信しようとすると、送信が取り消されていた。
俺から「今日はありがとう。楽し」まで打ちかけたが、送信する直前でスマホを閉じた。




