七話「夏だ! 海だ! トリエルだ!」
海。
それは生命にとっての母であり、
この地球がここまで進化した最大の功労者と言っても、
なんら差し支えない存在です。
海がなければ地球には
生命は誕生していなかったでしょう。
それは間違いないことであり、そうなれば今この時、
あなたがこのお話を見ていることもなかったわけです。
そう考えると、なんだかちょっとロマンがチックでございますね。
さて、海といえば夏、夏といえば7月ですが、
7月には元々祝日がなかったのはご存じでしょうか?
けど、今は7月にはある祝日がありますね?
はい、海の日です。
海の日とは、昔昔あるところに美しい女性がおりました。
彼女にはある恋人がいたのですが、
そんな彼と出会えるのは夜の海だけ……
しかし、それもある日のついに終わってしまいます。
実は二人の家は敵同士、密会がバレてある日彼は来れなかったのです。
それでも彼女は待ちました。
来る日も、来る日も……
そうして彼が来たのは第3月曜日。
しかし、やっと彼が来た時、彼女は亡くなっていました。
絶望した彼は服毒しました後を追うと、
天は二人を哀れんで星へと変えました。
この神話が元になったとされておりません。
適当にでっち上げた話なので絶対に違います。
さて、今回はそんな海に関するお話です。
どうぞお楽しみください。
――――
ミーンミンミンミーン……
という蝉の大合唱が嫌でも聞こえてくる季節、7月。
ジメジメした梅雨が終わったと、そう思った途端、
今度は太陽が文字通りの殺人光線と化して照りつけます。
一昔前までは熱中症などという言葉はなく、
夏は扇風機だけで過ごせたそうですが、
今ではとても信じられません。
さて、あなたの家も今夏真っ盛り……ですが、
あなたの家は世間一般よりは夏は快適やもしれませんね。
ビュオォォォォォォ……
こうして風を送っているのは、風の大天使であるガブリエルママです。
「これもトリエルのためです」そう言って彼女は風を起こしてくれます。
あなたはと言うと、そんな風の権能にあやかりつつ、
ピピの冷たい膝枕で夢心地……
とは中々行かず……
ミミミミミミミミーン!!!
とセミに化けたアンポンタンがあなたに張り付いて大合唱!!
「やかましいわ!! このアンポンタンがー!!」
あなたはハエ叩きでアンポンタンを叩きますが……
バチーン!! と当たったのはガブリエルママ。
これにはガブリエルママもカチーン!
「この痴れ者が!!」とあなたを罵り、
風でゴォォォ! と吹き飛ばすと、
そこをアッチがバットでカキーン! とホームラン!!
壁に大激突!!
最後はポンポのお尻ペンペンと、
お決まりのタンタのぶーーーー!! とお尻スリスリで今日も連敗記録更新です。
「……いつか、必ず……復讐じゃ……」
そう言ってガク……とはならず、あなたはここで閃きます!
ピキーーーン!!
「これだ!! ふはははは!!」
あなたのバカ笑いにトリエルはポカーン。
「どーしたのー?」
あなたはトリエルに指を指してこう言います。
「トリエル、海へ行かないか?」
これにはトリエルもバンザイで大喜びです。
「行くー!!」
こうして、海水浴が即決定しました。
そうです。あなたの作戦とは
「海風と海水でアンポンタンを
強制成仏させよう大作戦」だったのです!
「見ておれアンポンタン……目にもの見せてくれるわ……!」
そう心の中で宣言すると、クククとあなたは笑うのでした。
――――
ここは雲の上の小さな楽園「天界」
神様の謁見の間は厳かな雰囲気に包まれており、
しんと静まり返っております。
いつもは中央の椅子に神様は座っておいでなのですが、
今日はいませんね……
(ペラ…ペラ…)
と思ったら、椅子の裏で隠れてムフフな本読んでますね……
「ああ……目の保養になるんじゃあ……」
「それは良かった。ではお仕事を」
…………
ここで神様、動きが止まり、
油の切れたロボットのようになります。
見上げると、そこにはウリエル様が。
既に大剣を構え、赤い長髪は炎で燃え上がり、
その目は完全に虫けらを見る目です。
「は、話せばね……? 話せばわかるとね? 思うのね?」
「話すことなど……ない!!」
…………ブオォォォン!!!
ドギャギャーーーーーン!!!
凄まじい轟音が空に響き渡り、
しばらく謁見の間は消滅したままだったそうです。
「次は八つ裂きにするぞ」
もうどっちが神様だか分かりませんね。
――――
ザザーーン……ザザーーン……
2時間後、バスと電車を乗り継いでたどり着いた先は最寄りの海水浴場。
時刻は朝9時。
さすがに海の日だけあって、朝の段階でも人でごった返し、
太陽が容赦なく照りつけます。
海の家は既に開店。
かき氷や焼きそばといった定番ののぼりが目に留まります。
「暑いな……」
外気はおそらくもう30度はあるでしょう。
砂などはとても素足で歩けるようなものではありません。
けれど、あなたは夏の暑さにも負けないほどの、
楽しみがありました。
ピピの水着? いいえ、残念ながらピピは水着を着ません。
水着ピピの挿絵は心の目で見てください。
ほら、見えてくるでしょう?
真っ白い肌に空色の青く美しい長い髪。
麦わら帽子を被り、薄水色の花柄ビキニを着て、
はにかんだ笑顔を見せるピピの挿絵が。
本当に見えたなら、それは超能力かヤバいやつなので、
すぐに病院へ行ってくださいね。
さて、あなたが楽しみにしているのは……
「やい!! アンポンタン!! 勝負じゃい!!」
これです。
いくら彼らはトリエルの権能で強化されているとはいえ、
所詮は低級霊、太陽や塩には基本弱い。
あなたにはその確信がありました。
アンポンタン達は心なしか、少しデバフが効いている。
あなたにはそう見えました。
勝てる。その確信が強くなります。
あなたは水鉄砲を取り出すとアンポンタンへ向けます。
中はもちろん海水。
「ふ……さらばアンポンタン!!
これで仕舞いじゃあーーーー!!!」
アンポンタンはササーッと逃げますが、それは想定内。
あなたはすかさず追います!
「逃さん!!」
しかし、それはアンポンタンの作戦でした。
アンポンタンが逃げた先にはピピ……そして……
バサァ……!!
「え……」
あなたの目に映ったのはアンポンタンによって、
スカートめくりをされるピピ。
それは作り出された刹那の至福。
あなたの脳は視野に全回路を集中させ、
クロック数を何倍にも跳ね上げ、視力を強化。
全神経をもってそこを見つめます。
ふわりと浮かぶ軽やかな布、その中、広がるのは、
未だ誰も足を踏み入れたことがない禁断の聖域。
柔らかな曲線と神秘の谷間。
そう……それはまるで、
秘境を抜け、未発見の財宝にたどり着いたような……
あるいは、
灼熱砂漠の中で命のオアシスを見つけたような……
そんな息を呑むほど美しく、儚くも幸福の世界。
「…………」
自然と開く口、ポロリと落ちる水鉄砲、
とある一部に釘付けになる視線、赤面する顔。
そして……
スコーーーーン!!!!
という爽快な音。
あなたがピピのワンピースの中に夢中になってる隙に、
アッチがハンマーで強打!!
バターン! と頭からあなたは灼熱の砂の上に情熱のキッス!!
ブチューーーーン!!
「げふぇ!!??」
砂が口に入り、なんとも言えない不快さがあなたを襲います。
顔を上げようとしますが、
アンポンタンがペチペチと叩き、思うようにいきません。
「You loose!!」とアッチが親指を下げて煽り、
ポンポとタンタがあなたをわっせわっせと砂に埋めます。
そして……
…………
「スイカ割りしよーぜ!」
「やめいー!!」
「さんせー!!」
「やめろーーー!!」
あなたはピピに助けを求めるように目配せしますが、
ピピはぷいっと顔を背けます。
「見た罰です!!」
青く長い髪が太陽に照らされて、まるで夏の青空のように輝き、
その白い肌は雲のよう。
彼女の顔は真っ赤に染まってその手はスカートに当てられています。
あなたは改めてピピの超が付く清純美少女っぷりに見惚れますが、
今は砂の中。
それを楽しむ余裕はなく……
「じゃんちゃちゃじゃちゃんちゃ、
じゃんちゃちゃじゃちゃんちゃ、
じゃんちゃちゃじゃちゃんちゃちゃーん!
じゃんちゃちゃんちゃちゃん!(おー!)
じゃんちゃちゃんちゃちゃん!(おー!)
じゃんちゃちゃん、じゃんちゃちゃん、
じゃっちゃっちゃん!(おー!)
(かっ飛ばせー! アッチー!)」
アッチがヘルメットとバットで
甲子園の球児のようなスタイルになると、
ポンポとタンタがノリノリで応援。
周りを見るとおばけ達がコーラ売ってますね。
「人を見世物にすんなー!!!!」
あなたのツッコミは虚しく響き、
アッチはニヤニヤ顔で近づくと……
一本足打法のポーズを取りフルスイングーーーー!!!
スカーーーン!!
ホーーーーーーーーーームラーーーーーーーン!!!!
ドテーーーーーーーン!!
あなたは派手に吹っ飛ばされ、
連敗記録がまた増えるのでした……
「次こそは、次こそは……除霊してくれる……」
…………
「気が付きましたか?」
気付けばそこはパラソルの中、視界前方では、
トリエルとガブリエルママが元気に砂のお城を作ってます。
トリエルは黄色いフリルの水着で、
頭にはハローを隠すための野球帽を被っています。
ガブリエルママは半袖のブラウス姿。
ちなみに挿絵はありません。
あなたはピピに膝枕されて、
砂は綺麗に拭き取られています。
ピピの膝はひんやりとしていて、
ピピの風鈴のような可憐な声があなたの胸を熱くします。
「いてて…」
「また連敗記録が増えましたね」ピピはそうくすりと笑います。
「笑うなよ……」
あなたがそうぼやくと、
ピピはあなたの背中を押し優しく上半身を起こします。
「例え彼らになん連敗しても、ヒミからすれば、
あなたはいつだって優勝です……」
パラソルの中……太陽もさえも見えない二人だけの世界。
ゆっくりと近づく桜色の唇。
あなたの鼻腔に届く微かな森の香り、
次の瞬間、甘く広がるのは恋の水。
それは彼女の言う通り、
果てなき戦いを勝ち抜いた優勝のご褒美のように、
あなたの喉を、その魂を、甘美に潤すものでした。
やがて二人の間に出来る銀の糸は、確かに赤く色付き、
二人の魂を確かに結ぶものとなりました。
あなたはそのままピピに膝枕され、
パラソルの中で甘い一時を静かに過ごします。
しかし、そんなご褒美タイムは突如として中断されます。
そう……破壊神の手によって…
「お城出来たーーー!!」
トリエルはバンザイして大喜び、
隣では親バカ天使が拍手喝采!
「すごいすごーい!! トリエルちゃんてんさーーーーい!!!」
「えへへっ! ガブリエルママ出来たよー!」
トリエルはガブリエルママにぎゅー!
これにはガブリエルママもぎゅー!
ここだけ切り取れば微笑ましい母娘でしょう。
ここだけ切り取れば……
「それじゃあ最後の仕上げしよー!!」
ここでトリエル、野球帽をぽーーーい!
天使の輪がHelloと挨拶し、
さあ……ショータイムだ!!
ゴゴゴゴゴゴ…………
トリエルの天使の権能を受けた砂の城は、
見る見るうちに巨大化!
ギュゥゥゥゥンと大きくなって等身大に!!
これには周囲の人ポカーーーーン!!
あなたはあちゃーーーーーー……
ガブリエルママは拍手パチパチ大喜びー!!
「すごいすごーーーーい!!
さっすが、ママのトリエルちゃん!! 大てんさーーーーい!!!」
ここでガブリエルママも黒メガネを外して、空にぽーい!
メガネがハローに変形! ピカー!
ドドドドドドドド……
ガブリエルママの権能も追加で空から光が溢れ、
どこからともなく
「ハァァァァ……アアアアアアアアーーーー」
という歌声が聞こえてきます!
さすが大天使の権能ですね……
そして海がザザーーーーン!! と真っ二つーーーーー!!!
これには観光客さんぎょええええええ!!!
あなたもぎょええええええ!!!
お魚さんも魚ええええええええ!!!
さらにお城がどんどん白く輝き、
気付くと本物のお城に繁栄しちゃったよーーーー!!
天使がひらひらと待ってきて住み始めちゃいました!!
もう辺りは大騒然!!
カメラパシャパシャ!!
「動画動画!!! 生放送しろーーー!!」
「バズる!! 絶対バズる!!」
「で、でも……これだけなら……」
あなたは微かな希望を抱きますが、そんなはずもなく……
「3……2……1……」とお城が危険なカウントダウンを開始すると……
「Fire!!!」
ドゴゴゴゴーーーン!! とお城が空を飛び宇宙へしゅっぱーーーーーつ!!
「なんでやねーーん!!」
あなたは思わずツッコミ!!
お城から天使が手を振るとそれを見送りに来たのか……
デーデン……デーデン……とどこからともなく
危険な音楽が鳴り響き……見覚えのある背びれが……!!
デデデデ デデデデ デデデデ デデデデデ……
デッデー! デッデー!
「サメだーーーーーー!!!」
「にげろーーーーー!!!」
観光客は逃げ出して、周囲は阿鼻叫喚の地獄絵図!!
けど、ここで終わらないのが破壊神トリエル!!
トリエルとガブリエルママの天使の権能が共鳴して、
サメが空を飛び出した!!
「きゃーーーーー!!!」
「サメ映画かい!!!!」
あなたのツッコミはもはや誰も聞かず、
ガブリエルママの権能の悪ノリで海がスーパートルネーーーーーード!!!!
空は暗くなり、海は竜巻を起こし、サメは空を飛ぶ!!
「終わりじゃああ!!! この世の終わりじゃあああ!!!」
「チェーンソーだ! チェーンソーを持ってこい!」
「ママーーーーー!!」
ここでサメが口から波動砲ーーーーーーー!!!!
ポミーーーーーー!!!!
ギュォォォォオォォン!!!
周囲の家があっという間に消し飛んだー!!
「やめんかーーーー!!!」
ポミーーーー!!!!
ポミーーーーー!!!!
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!
「あはは!! 海って愉快で楽しいね!!」
「すごいすごーい! トリエルちゃん大天才!!」
「このクソバカ母娘がーーーーーー!!」
ポミーーーーー!!!!
ちゅどどーーーん!!!
ぴゅーーーー…………キラーン。
――――
ガシャン!!
一方天界ではウリエル様が腹部を押さえながら、
水晶玉を叩き割り、後始末の修復をしたそうです。
「あのクソバカ親天使が……!!!!」
――――
時刻は夜23時、皆が寝静まる夜、
あなたとピピは止められた恋の時計を再び動かすように、
唇を重ね、
その魂の懐中時計のリューズを、ゆっくりと回すのでした。
「今日も大変だったな……」
「クス……はい。けど、ヒミは楽しかったです」
…………
次回!
「お盆の再会とベルゼブブの最後」
次回は真面目回です。




