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逢魔時の邂逅  作者: もちまる
第一章 突然の旅立ち
9/10

母親を殺したもの


 約1週間前、エヴァちゃんが行方不明になった。その日、父親は仕事に出掛けていたそうなのだが、母親がちょっと目を離した隙に家からエヴァちゃんがいなくなっていたらしい。


 最初、家の中で隠れんぼをしているのだと思った母親は、エヴァちゃんが隠れんぼをする時によく隠れる場所を探したり家のあらゆる場所を探したが、エヴァちゃんを見つけられない。


『エヴァ、ママの負けだよ、出ておいで』


 何度そうやって声をかけても、一向にエヴァちゃんは姿を現さない。

 まさか……と慌てて玄関に向かうとドアは閉まっていたが、鍵が開いていた。


「酷く取り乱していたからね、何事かと思って話を聞いて私も一緒に探したんだよ。エヴァちゃんのことは赤ちゃんの頃から知ってるからね、人見知りをしないから可愛くて可愛くて…お母さんは心配してたんだけどね。危ない人にも平気でついていっちゃうんじゃないかって」


 3歳の子どもの足だ。近所を探せばすぐに見つかると思っていたようだが、そうはならなかった。途中から連絡を受けた父親や警察も加わってエヴァちゃんを探したようだが、その日のうちに見つけることはできなかった。

 それから毎日血眼になって探しまわったそうだが、行方不明になってから4日後にエヴァちゃんがひょっこり自宅に戻ってきたそうだ。


「両親に連れられてエヴァちゃんも挨拶にきてくれてね。『さがしてくれてありがとう、しんぱいかけてごめんなさい』なんて言ってね。何が起きたのかはわからなかったけど、そんなのどうでもよかったよ。心底幸せそうに笑ってる3人の様子を見れたからね。……それがどうしてあんなことになったんだろう」


 事件はその後に起きた。

 近所に挨拶をしてから警察に無事見つかった報告をしに行こうとしていたところ、『つかれた』と言ってエヴァちゃんが駄々を捏ね始めたらしい。そこでエヴァちゃんと母親を自宅に一度連れ戻ってから、父親が警察に1人で報告に行ったという。


 そして報告を終えた父親が自宅に帰ってきた。それからしばらくして、父親の怒鳴り声と何かがぶつかり割れる音、何かが倒れたような鈍い音が響いた。

 エヴァちゃんの様子を見に玄関の外まで一緒に来ていた警察が中に入ったところ、家の中は酷い有様だったそうだ。

 

「ここからはね、父親の話と警察の話が全く違うんだ。ただ間違いないことが2つあるんだよ。1つはエヴァちゃんがまたいなくなったこと。もう1つはね、母親が殺されたってことだよ」


 警察の話によると、父親の声がするところへ駆けつけたところ、部屋には血飛沫が飛び散り、胸にナイフが刺さった母親を血だらけの父親が抱き抱えていたという。遺体の状態から、殺された直後だったようだ。そしてエヴァちゃんはというと、どこにもいなかったという。


「何があったかわからないんだけどね、警察は父親が母親を殺したって言うんだ。エヴァちゃんが消えて錯乱した父親が母親を殺したって。冗談じゃないよ、私はこの目で帰ってきたエヴァちゃんをはっきり見たんだからね。それなのに、どういうわけか私の話は聞いちゃくれないんだよ」

「そんな、どう考えてもおかしいじゃないですか!エヴァちゃんのお父さんはなんて言ってるんですか?」

「それがねぇ、父親の方の話もどうもおかしいんだよ」


 父親の話によると、寝ているかもしれないエヴァちゃんを起こさないように警官を外で待たせてそっと家に入ると、家はしーんと静まり返っていた。

 そのままそろそろと親子でいつも寝ている寝室に向かいそっと部屋を覗いたところ、衝撃の光景を目の当たりにしたという。


「エヴァちゃんがね、血だらけで母親の上にまたがっていたんだって」


 目の前の光景が信じられず呆然と部屋の前で立ち尽くしていた父親が我にかえり部屋に駆け込み、ややあって警官が部屋に駆けつける状況になったそうだ。


「この辺りのことはよくわからないんだよ。そこまでは詳しく警察も教えてくれなかったからね。ただね、父親の方は必死に自分の無実を訴えながら変なことを言っていたようだよ」

「変なことですか?」

「ああ。よくわからないんだけどね、『あれはエヴァじゃない』とか『エヴァの姿の化け物が殺した』とかなんとか」


 まさか……。


「警察はお父さんの話を信じなかったんですか?」

「当たり前だよ、そんな馬鹿げた話、誰も信じやしないさ。あれは確かにエヴァちゃんだったし、エヴァちゃんが大好きなお母さんを殺すわけがないだろう?まだ3歳なんだよ?」


 カマラさんは顔を顰めて首を横に振った。


「だからもう私もわけがわからなくて。帰ってきたはずのエヴァちゃんはいなくなっちまって、母親は殺されて、その母親を殺したのは父親だって警察は言うけど、父親はエヴァちゃんの姿をした化け物だって言うし。わけがわからないうちに父親の処刑が決まってね」

「……」


 エヴァちゃんの父親は、私と同じ被害に遭ったのかもしれない。エヴァちゃんの父親の言うことが本当なら、エヴァちゃんに成り代わった者がエヴァちゃんのお母さんを殺したんだ。

 その現場に遭遇したお父さんが明日、冤罪で処刑されようとしているなんて…。


「父親の話も信じられないけどね、違和感は色々あるんだよ。エヴァちゃんの父親はね、腕のいい用心棒なんだ。剣の腕はそんじょそこらの騎士より強いし、腕っぷしだってある。やろうと思えばナイフなんか使わなくても簡単に人を殺せるくらいの腕っぷしがね。あの華奢な奥さん相手にナイフなんか使うかねぇ…」


 

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