手掛かり
旅立ちから数日後。
私達は故郷を離れ、この島国フローレア国の都市を目指して森を進んでいた。人が集まる都市に行けば"成り代わり"の情報がなにかしら得られるかもしれない、と考えたからだ。途中途中で街に立ち寄って情報収集を行いながら、都市ルコリスを目指す。
"成り代わり"はあの生き物のこと。あの生き物の名称はわからず、なんと呼べばいいのかアイザックさんと考えた。
当初、姿を変化させる生き物だという特徴からも"化け物"が最適なのではないかという話になったのだが、私を長年育ててくれた大好きなお母さんの正体を表す言葉にもなるため"化け物"というには抵抗があった。
2人で話し合った結果、取り込んだ人物に成り代わる"成り代わり"と呼ぶことにした。
この数日、私達はお互いのことをよく知るために今までの思い出を語り合っていた。アイザックさんの過去を知るほど、大切な家族を死に追いやった"成り変わり"を許せなくなったし、私の思い出話を聞いてくれたアイザックさんも同じ気持ちだったようだ。
そして現在。
感情移入し過ぎてしまい2人ともぐったりしたところで、手紙にあったネックレスの話題になったのだが…。
「いいや、これは狐だ!!」
「いいえ、これは狼です!!」
私達は夜の森で、パチパチと音を鳴らしながら燃え上がる炎の灯に照らされながら、一つのネックレスを前に言い合いをしていた。
「どう見たって狐だ!!金色だろ?耳もピンと立ってるし、尻尾もふさふさだろ?」
アイザックさんは鼻息荒く確信に満ちた表情で私の手にあるネックレスを指差す。
「いいえ、これは狼です!!狐より耳が小さいですし、この体格は狼です!!」
「確かに耳の大きさが…じゃあ犬だ!金色の狼なんて見たことも聞いたこともねえだろ?!」
「あります!!」
「そうだろ!?……ん?」
「聞いたことがあります!!お母さんから、母から聞いたんです。金狼の話を」
金狼は金色の毛並みを持つ伝説の狼だ。
他の狼との毛色の違いから群れをつくらず孤高に生きる幻の狼。
「聞いたことねえな……。金狼…うーん。ちょっと貸してもらえるか?」
「はい」
アイザックさんは手渡したネックレスを隅々まで確認すると、ある箇所を指差した。
「これ、アンバーだな」
「えっそうなんですか?」
「ああ。アンバーの瞳か……それならこいつは本当に狼かもしれねえな」
瞳にアンバー(琥珀)が埋め込まれていたのか。
自分のアンバー色の瞳と共通点があるように感じて、なんともいえない嬉しさが込み上げる。
「これがレイラの父親を探す手掛かりになるんだもんな。金狼のネックレスか……レイラ、それここぞっていうときまで他人に見せない方がいいかもしれねえ」
「ここぞというときですか?どうして」
「うーん……なんとなくだがな、厄介な事に巻き込まれそうな、こう、モヤモヤーっと嫌な予感がするんだよなあ」
そう言われてネックレスに視線を落とすと金狼は焚き火の炎に照らされ妖しく光っていた。
「いざというときって、どういうときなんですか?」
「これだっていうときだ」
「それじゃわからないですよ」
「俺もわからねえ」
……この人は何を言っているのだろうか。
しばし沈黙が流れる。
「…まあとにかくだ、当分そいつは隠しておいたほうがいい。そのネックレスを見せなくても情報は聞き出せるからな」
「なるほど…確かに、"ネックレスを生涯の伴侶に渡す故郷"が父の故郷なんですもんね。そういう地方はそんなに多くはないでしょうから、そこまではネックレスを見せなくてもなんとかなる……かも?」
「そういうことだ。ほら、わかったらもう寝るぞ。明日は久々に大勢人がいる街に入るんだからな」




