旅立ち
無事門を通ることができたのだろうか。
昨夜よりも明るく輝く月の光が森の木々を照らす中、薄暗い道から待ち人が現れるのを待っているが不安で仕方ない。
私は侵入時と同じ手段でロープを使い無事脱出できたが、身体が大きいアイザックさんにその方法では脱出できなかった。だからこそ別々に脱出してここで落ち合うことにしたのだが……。
もしアイザックさんが途中で見つかっていたら?
その場で斬り殺されていたら……。
暗闇が不安を増幅させ、嫌な想像ばかりしてしまう。
そわそわと辺りを見回していると、月明かりが届かない木々の闇にふと目をとめた。
木々の深い闇からアイツがまた現れたら?
そんなことを想像してしまったら最後、至るところから目線を感じるような気がしてゾワゾワする。
木の葉の掠れる音にも一々身を縮ませる始末だ。
風に揺れる木々や草花の影。
茂みに潜む動物の目。
木から鳥が飛び立つ音。
わずかな動きや音にすら過敏になる。
怪しまれても一緒に脱出したほうがよかったのでは……あまりの心細さに後悔しはじめた時、金属音がこちらに近づいてくるのがわかった。
咄嗟に身を隠すがガシャンガシャンという音はどんどん大きくなってくる。
まさか追っ手が?と不安が膨らんできたところで音が止まった。するとカチカチという音に後に重い荷物をおろした時に出すような声が聞こえてきた。聞き覚えのある声に安堵しほっと息をつき人物の前に進み出た。
「わりい、遅くなったな」
見張りから剥ぎ取った鎧を身につけたアイザックさんは、脱いだばかりの兜と大きな武器や袋を手に持っている。
「アイザックさん、よかったです!無事に脱出できたんですね!」
「ああ、こいつのおかげで難なく抜け出せたんだけどよ、旅に出る前にこれだけはと思って家に寄ったら遅くなっちまった」
そう言いながら次々に脱いだ鎧を地面に放り投げていく。
すっかり身軽になったアイザックさんはコキコキと首を鳴らして肩を回すと私に改まったように身体を向ける。
「改めてお礼を言わせてくれ。助けてくれてありがとう」
アイザックさんはそういうと私に向かって勢いよく頭を下げた。
「い、いえ顔を上げてくださいアイザックさん!!」
「……」
だがアイザックさんはなかなか顔を上げようとしない。
「あの、アイザックさん、私こそお礼を言わせてください」
「?なんで俺に?」
心底不思議そうな面持ちのアイザックさんと目が合う。
「私の、仲間になってくれるんですよね?」
「ああ、そりゃもちろん」
「だからです。私、昨日大切な家族を失って1人になって、これからどうしようって、すごく、すごく心細かったんです。アイザックさんを待っている間も、ほんの僅かな時間のはずなのに……」
嫌というほど孤独を感じて怖くて仕方がなかった。お母さんを失ったという現実を改めて思い知って動けなくなりそうだった。
「だからアイザックさん、私こそありがとうございます。仲間になってくれて」
「それを言うなら俺もだ。俺も大切な家族を皆失っちまった。その家族の仇がどんなやつか、お前がいなきゃ何もわからないまま俺は明日死ぬはずだったんだ。レイラ、助けてくれてありがとう。必ずお互いの仇を討とう」
目の前に大きな手を差し出される。
「はい、アイザックさん、これからよろしくお願いします」
私達の家族を奪った仇を討つ。
決意を込めて握り返したアイザックさんの手は想像以上にゴツゴツしていた。
「お前の武器はその弓なんだな?」
「はい、そうです。アイザックさんのその武器はファルシオンですか?」
「ああ、俺の相棒だ」
ファルシオンは剣先が太くなっている刀剣だ。
「じゃあとりあえずここを離れるか。そろそろ脱獄に気づいて追ってくるかもしれねえしな」
「そうですね」
「道すがら、どうやってあの見張りを伸したのか詳しく聞かせてもらうとするか」
アイザックさんは意地悪そうに左の口角を上げてニヤリと笑う。
「そんな大したことはしていないんですけど……」
この時の私は、目的を果たす前に必ず直面する問題に気がついていなかった。




