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結婚しても片思い。余命宣告されたので、旦那様と離縁します  作者: りょう


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 目を開けると、ディート様の顔が目に入った。

 あれから、ずっと付いていてくださったの……?

 切なくて胸が苦しくて、堪らなくなる。

「ローズ! 大丈夫か? 痛みは?」

 心配そうに声をかけられ、小さな声で「大丈夫です」と返す。

 今はもう痛みを感じない。

 死の恐怖を思い出すと、体が震えてしまいそうだけれど……


「医者によると、『体調も戻ってないのに、無理をしたせいだ』と言われた」

 それを聞いて、ほっとする。

 良かった……

 まだ病気は知られていないみたい。

「……迷惑をかけて、すみません」

「迷惑だなんて……」

 もう、あまり時間がないのかもしれない。

 のんびりしている場合ではなくなった。

 仕方ない……


✳✳


 体調が戻り、手紙を二つ書いてから、最低限の荷物を鞄に詰め込んだ。

 隣国へ行ってみよう。

 少し調べてみたが──

 可能性の低い手術らしいが、同じ病気で助かった人もいるらしい。

 代金は生家から持ってきた宝石類をお金に変えればなんとかなるけれど、手術ができる医師(せんせい)自体少ない事、成功率が低いからか、断られる事も多いと聞いた。病院を渡り歩いて、交渉するしかない。

 それまで体が()ってくれるといいけれど……


【親愛なるディート様。このように勝手に屋敷を出る事をお許しください。離縁同意書を同封致しましたので、提出をお願い致します。短い間でしたが、お世話になりました。私に仕えていた専属メイドや侍従、護衛騎士がその後、仕事に困らないよう、配慮して頂けましたら、助かります。あなたの幸せを願っています。ローズ=ルミナス】

 一つは離婚同意書に私のサインを入れたものを添え、封をした。


 もう一つは肌身離さず持ち歩き、万が一、私が事切れた時、ディート様に渡るよう、綴っておこう。

『ディート=ルミナス様。この手紙を見る頃、私はもう、心臓の病に倒れ、この世にはいないでしょう。最後の瞬間まで、同情されたくなかった為、『ディート様へ知らせないでほしい』とオードリー先生に頼んだのは、私です。罰したりする事のないよう、お願い致します。あなたをお慕いしておりました。どうか、私の事は忘れ、幸せになってください。ローズ=アンティル】

 こちらは離縁が成立しているはずだから、名前を書き換えておく。

 『アンティル』は生家の家門名。この短い間で、

 何度も何度も書き直したディート様宛の手紙を読み返す。


✳✳


 決行の日── 

 決心が鈍らないよう、ディート様の仕事の日にした。

 お義父様は隣町で商談、お義母様とメルは明日の茶会の準備の為、朝早くから出掛けている。メイドや侍従達も掃除や準備でバタバタしていた。


 最初から決めていた。

 最後の日は、ディート様の色を(まと)って、お別れをしようと──

 私には不似合いかもしれない。シンプルなAライン。腰のサイドにリボンが付いているだけの大人っぽいデザイン。栗色のワンピースに袖を通し、彼の瞳と同じ色のアクセサリーを身に着ける。

 昔はサファイアやエメラルド、華やかな宝石が好きだった。今では一番のお気に入りのブラウンクオーツのイヤリングを耳に付ける。

 ディート様に見せるのは、初めて……

 青白い顔をメイクで隠してもらい、見送りの為、玄関ホールへ向かった。


「その服、似合ってる。イヤリングもネックレスも……」

「ありがとうございます」

 ディート様は私を見て、かなり驚いているようだった。それでもお世辞を言ってくれ、苦笑いをする。

「まだ本調子ではないから、見送りなんか良かったのに」

「もう問題ありません」

 私を気遣う言葉に、微笑みを返す。

「……今日は早く帰ってくる。その……一緒に食事しないか?」

 ディート様から初めて直接誘われて、一瞬心が揺れた。

 最後に一度だけ……

 思い出が欲しい。

 出ていくのは、明日でもいい……?


 でも次に倒れたら──

 今度は誤魔化せないかもしれない。精密検査を受けさせられたりしたら、病気の事がバレてしまう。

 事実が明るみになれば、きっと根が優しいディート様は私を切り捨てる事も突き放す事もできなくなる。足枷になりたくないから、早々に計画をしたのを思い出す。

 感極まって、目が潤んでくる。喉が苦しくて、声が出ない。

 落ち着いて……

 今、泣いたりしたら、おかしく思われる。

「……ローズ?」

 ほとんど呼ばれなかった私の名前。

 人生って酷いのね……

 頑張っていた時には、何一つ叶わなかったのに……

 全てを諦めてから、こんなに次々と……

 ゆっくり深呼吸してから顔を上げる。

 

「今日はどうしてもやらなくてはいけないことがあるんです」

 真っ直ぐ目を見つめて伝えると、目を逸らされてしまった。

「じゃあ、明日にでも……」

 気まずそうにディート様が告げる。


 ごめんなさい。明日、私はここにいません。

 心で謝ってから、顔に出さないよう気を付ける。嘘はつきたくなかったから、何も答えずに。

「旦那様。お時間です」

 見かねた家令が間に入ってきた。


 家令がドアを開けると、風が入ってきた。ディート様の髪がさらりと揺れる。

 一度も触った事がなかったな……

 陽の光が当たると、落ち着いたダークブラウンの髪がいつもよりキラキラして見える。

 ()んだブラウンクォーツの瞳。

 何度見ても、宝石みたい……

 この国で茶色は普通に溢れている色だが、私にとって特別な色だった。  

 ディート様の瞳と同じ色のネックレスに触れる。

「行ってらっしゃいませ」

「……行ってくる」

 これが最後の見送りになる。目頭(めがしら)が熱くなり、誤魔化すように、笑顔を作った。



 淑女は街を独り歩きしてはいけない。貴族の可笑(おか)しなルール。生家の男爵家にいた時ですらした事はない。まして侯爵家の嫁ともなれば、共を付けずに出掛けるなど、言語道断。

 ベランダのカーテンを開け、部屋を抜け出し、下を見つめる。

 この時の為に、朝の散歩の時間に木の剪定用の梯子(はしご)をこっそりベランダの手すりにかけておいた。

「結構高いわね……」

 恐る恐る梯子がズレたり、動いたりしないか、確かめる。

 怖い。でも次にいつチャンスが訪れるか、分からない。

 大丈夫。昔は木登りが得意だったし……

 玄関ホールから出たら、買い物だと誤魔化しても、すぐに護衛を付けられてしまう。

 誰にも気付かれず、家を出る為には頑張るしかない。

 

 ヒヤヒヤしながら、梯子を使い、庭の方へ降りる。なんとか下まで降り、ほっと息をついた。

 ベランダを見上げたら、込み上げてくるものがあった。

 

 思えばルミナス家の人は皆、優しかった。

 ご両親もメルもメイド達も……

 今までありがとう……

 溢れる涙を拭ってから、背を向けた。

 

✳✳


 船のチケットを買い、荷物を預ける。

 国を出るのは、初めて……

 生家も今、商会が大変で、踏ん張りどころのはず。

 家族、誰にも頼れない……

 寂しい気持ちで、海を眺める。


 その時、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「ローズ!」

 そこにはいるはずのないディート様の姿があった。私に気付いている様子はなく、キョロキョロしながら走っている。

 なんで、ここに? 仕事中のはずでは……?

 あまりの必死な形相に周りは皆、一歩引いていた。

 もしかしたらメイドの誰かが気付いた? もう手紙を見たのかしら……

 まさか、ここまで探しに来てくれた……?

 それでも──

 駆け寄りたい気持ちを抑え、背を向け歩き出す。

 人がたくさんいるから、大丈夫。船にさえ、乗ってしまえば……

「ローズ! お願いだ、応えてくれ! ローズ!!」

 必死な声が聞こえ、振り向きそうになった。乗船客に紛れ、急いで船に乗り込む。

「ローズ!!」

 周りを振り向きながら、下で走るディート様をそっと見つめる。


 ありがとう、探しに来てくれて……

 最後に、ディート様のお姿を見る事ができて良かった。

 ごめんなさい。

 妻として、不甲斐なくて……

 どうか、いつまでもお元気で。

 さよなら、ディート様……

 柱に隠れ、止まらない涙を拭う。


「間もなく船は出発致します」

 出発を知らせる音が鳴ると、甲板に立っていた男の人が急に走り出した。

「旦那様! 奥様はこちらにいます!」

 その声を聞いて驚く。

 いつもは隊服を着ていたから、普段着は初めて見た。しかも帽子を被っていて、特徴である黒髪を隠している。

 そこにはなぜか私付きの護衛騎士がいた。

 

「まだ船を出さないでくれ! 妻を迎えに来たんだ!」

 考える間もなく、ディート様は船へ飛び乗った。乗務員に札束を渡し、こちらへ向かってくる。まさかの事態に隠れそびれてしまった。

 ど……どうすれば?


「申し訳ございません、奥様。心配した旦那様からのお申し付けで、護衛も兼ね、同行させて頂いておりました」

 いつの間にか横にいた護衛騎士に頭を下げられ、混乱してしまう。

 つまり付けられていた? 船のチケットを買ったから、ディート様に報告した……?


「なんだなんだ?」

「旦那が奥さんを迎えに来たんだって」

「家出?」

「さぁ?」

 乗船客は好きに盛り上がっている。

 なんで、こんな事に……


「ローズ」

「ディート様……」

「とりあえず降りよう。船が出発できないから」

 手を引かれ、仕方なくディート様に付いていく。

 触れた手が温かい……

 ……わざわざ私を探しに来てくれた。

 もうそれだけで十分だ。

 目頭が熱くなり、涙が零れないよう、上を向く。


「何、何。どうしたの?」

「結婚が嫌で逃げ出したんじゃない?」

「きっと旦那が酷い人なのよ」

「え……でも、あの人って、もしかしたらルミナス家の……」

 降りた先でも、注目の的だった。

 こんな騒ぎにするつもりはなかったのに──

「あの……手を離してください」

 これ以上目立ちたくない。罪悪感で伝えれば、ディート様は悲しそうな表情を見せた。


「どこにも行かないでくれ」

 不意に抱きしめられ、驚く。

 周りもざわざわしていて、混乱してしまう。

 抱きしめられたのも、そんな風に言われるのも、初めて……

 全ての現実に目を逸らして、本当はディート様の背中に手を回して、『嬉しい』と言いたかった。

 でも、できるはずがない……! 

 時間は刻一刻と迫っている。私は侯爵家には戻れないのだから。

 グッと唇を噛み、なんとか涙を(こら)える。

「ディート様……」

「全部……全部、話すから」

 ディート様は見た事がない位、辛そうな顔をしている。

 全部……?

「旦那様、馬車をご準備致しました」

 護衛騎士だけではなく、侍従もいたようだ。侍従から告げられ振り向くと、ルミナス家の馬車が止まっていた。


 馬車に乗り込むと、隣に座られ、驚く。距離も近くて緊張してしまう。ドキドキしていると、ディート様は口を開いた。

「……結婚しなければ良かった」

「すみません……」

 二度目の言葉に、今度は笑顔を返した。

 侯爵家から家出をしようとした妻を迎えに行くのは、面倒だったはず。

 途端に落ち込んで、目線を落とした。

「見てるだけだったら、きっとこんなに辛くなかった……頑張る君を見るのは、痛々しくて……」

「え……?」

 ディート様の苦しげな様子を見て、戸惑う。

 予想外の言葉に間の抜けた返事をしてしまった。

 私がディート様に尽くしているのを痛々しいと思っていたという事?

 気持ちに応えられないから……?


「『俺の為に無理しないで』俺にはどうしても言えなかった……君も知ってたなんて……」

「何を……」

 繋がらない話に思わず口を挟んでしまった。しかしディート様はなかなか答えてくれない。やや間があって、手を握られた。その手は震えていて、言い(よう)のない不安に駆られる。

「……………君の病気の事を知ってる」

 その言葉に衝撃を受けた。

 完璧に隠せたと思っていたのに……

「い、いつから……」

「結婚前から」

 その時、ルミナス夫人(お義母様)からの依頼で健康かどうか、お医者様に診て頂いた事を思い出す。

 私が事実を知るより前から、ディート様は知っていたという事!?

 だったら、どうして……

「なんで!? なんで、私なんかと結婚したんです!?」

「……君が好きだから」

 真っ直ぐに見つめられ、言葉を失う。

 好き……?

 ディート様が私を……?

「う……嘘よ!」

「嘘じゃない」

「だっ……て……ディート様は私の事なんて……それに、どこにも……」

 言っていて、気が付く。

 ディート様は私の体調を心配して、出かけたりするのを断っていた……?

 そうだ。全部……

『風邪が流行っているから』

『疲れるだろ?』

 もしかしたら初夜だって体の負担になると思って……?

 あの言葉の数々が無関心ではなく、心配によるものだったとしたら……


「ごめん。ずっと黙っていて……」

 ディート様も涙目になっていて、(こら)えきれなくなる。

「一緒に……出かけて……くれなかったのは、病気の……せいですか?」

 泣きながら話すと、ディート様が頬を撫でてきた。

「そうだ。あとは文献を調べたり、医者を探したり、専門家に話を聞いたり……隣国で手術をすれば治る可能性もあると言う情報を手に入れて、医者に会いに行き、直接頼みに行って、度々家を空けていた」

「そう……だったんですね……」

 私の為にそこまでしてくれるなんて……

「職場に来てくれた時のは──ただの嫉妬だ。皆が君を『可愛い』と褒めるから……君が好きだから、誰にも見せたくなくて……」

 ずっとディート様は私に無関心だと思っていた。

 本当に……?

 私が好きだから……?

 まさか、あの言動がヤキモチだなんて想像もしなかった。

 涙がボロボロと溢れると、ディート様は優しくハンカチで拭ってくれた。

「君が俺を避けるようになって、話を聞かれたかもしれないと気付いて……君に離縁を切り出されてから頭が真っ白に……何も手に付かなくなったんだ……でも君に病気の事を話したりしたら、ショックを受けると思って……ごめん。俺は医者に話を取り付ける事ばかりで君と向き合えていなかった……」

 ディート様の言葉を聞いて、首を振る。


 もし婚約前に病気を知っていたなら──

「……ご両親は結婚に反対したでしょう?」

「『ローズと結婚できないなら、一生独身でいる』そう伝えた。両親には申し訳なかったけど……」

 そんな風に思ってくれていたなんて……

 結婚する前もした後も、お義父様とお義母様は優しかったし、病気や体調について、何かを言われた事はない。

 『ディートをよろしく』

 笑顔で伝えてくださっただけ……

 その思いやりにも胸が詰まる。


「パーティーで、よく俺の事を見てただろ?」

「き……気が付いていたんですか?」

「目が合うと赤くなって……可愛いと思ってた……いつも控えめで……でも友人と話す時は零れそうな笑顔で……いつからか、目が離せなくなっていた」

 ディート様も私を見てくれていたなんて──

「お茶会の日に、ドレスに飲み物を零した時、チャンスだと思ったんだ。メルディ相手だと、よく笑って……妹に妬いた位。しかもお礼に手作りのクッキーを渡してくれるなんて……刺繍入りのハンカチは今でも俺の宝物。実は、婚約の打診が来た日に求婚状を作っていたんだ。正直、運命を感じた」

 初めて聞くディート様の本音を泣きながら聞く。


「離縁の話を聞いてすぐだ。君の主治医から相談を受けたんだ。『自分は心臓の専門でなく、知識も浅いので、もっと効果の高い治療もしくは手術を受けられないか』と。その時、初めて、君も病気を知っていた事に気付いたんだ。ただ、その時点では、医者との確約が取れていなくて……」

 秘密だと頼んだのに、オードリー先生が独断で、そんな相談をしていたなんて……

「できれば『治る可能性がある』と言ってあげたかった。でも──もし約束が取り付けられなかったら……? 期待を持たせて、『やっぱり無理だった』と言えそうにない。迷っているうちに、ローズが出て行ってしまった」

「ごめん……なさい……」

 ディート様に躊躇いがちに引き寄せられた。その温かい体に抱きしめられ、今までの気持ちが一気に溢れてくる。

「船での長旅は体に負担がかかる。きちんと約束をしてから一緒に隣国へ行こう。もう少しだけ待ってくれないか? 必ず医者に手術をしてもらうよう、取り付けてみせる」

 力強く言われ、小さく頷く。

 勿論、手術の事は調べた。隣国での成功率はそう高くない。かと言って、放っておけば、死を待つだけ。

 ディート様は成功率の低さを一言も口にしなかった。

 今までの思いと重なり、また涙が溢れてきた。


「……離縁も待ってほしい。病気が治ったら──一緒にアクセサリーを作りに行ったり、観劇を見に行こう。畑仕事や料理も二人でやってみたい。パーティーにもたくさん連れて行く。世界で一番優しくて頼りになる旦那になってみせるから──」

 泣きながら今度は目を見て頷くと、ディート様が私の唇をなぞった。

 キスは結婚式で、一度しただけ……

 そっと唇が触れる。

 二度目のキスは幸せで目が眩みそうだった。

 

 私、生きたい……


 ディート様と一緒に……

 初めて強く生を意識した。


✳✳


 あの後、お医者様から手紙が届いた。手術の約束ができ、すぐ隣国へ向かった。仕事中毒のディート様も長期休暇を取り、当然のように付いてきてくれ、涙が出た。

 体力がなければ、手術が成功しても、その後で憔悴したり、感染症に(かか)り、命を落とす人も少なくない。しっかり食べ、よく眠り、その日の為に、体調を整えた。何度も何度も検査を受け、手術の説明を受ける。

 ──そして手術当日。

 ディート様は私より緊張しているようだった。

 

「心配する事ない。きっと、あっという間だ」

 無理して作った笑顔が痛々しい。

 ディート様は昨日、寝ていないのかもしれない。目の下の(くま)が不眠を物語っている。

「ディート様。頑張る為に、キスしてほしいです」

 迎えに来てくれたあの日から、私達は何度もキスをした。キス以上はしていないけれど、毎日、同じベッドで眠っている。

 ディート様も私の事が好き。

 あなたが包み隠さず、自分の気持ちを伝えてくれ、私は少しだけ自信が持てるようになった。

「……せ、医師(せんせい)が見てる」

「駄目ですか?」

 上目遣いで見ると、ディート様はかなり焦っている。キュンとしてディート様の手を握った。

 「や……でも……その……」

 赤くなっているディート様は格好良いのに、少し可愛い。

「お願い」

「……ちょ、ちょっと待ってくれ」

 愛しい気持ちが溢れ、手を握ると、ディート様の動揺が伝わった。


「どうぞ」

 折れたのは、医師(せんせい)で、ささっと後ろを向かれた。

 じっと見つめると、ディート様の頬が更に赤くなる。

 ディート様は少し困った顔で、それでもキスをしてくれた。

 幸せ……

「嬉しいです。私、頑張れそう」

「そ……それは良かった」

「無事に手術を終えたら、またしてくれますか?」

「勿論!」

 握り返してくれたディート様の手は温かかった。


「……では、そろそろお時間です」

 医師(せんせい)に言われ、頭を下げる。 

「よろしくお願い致します」

「ローズ。『必ず元気になる』って約束して」

 祈るように言われ、力いっぱい頷く。

「はい。治ったら抱いてください」

 こんな事を伝えたのは初めてだ。

 ディート様はしばらく固まった状態で動かなかった。

「ディート様?」

 声をかけると、息をするのを忘れていたかのように、咳き込んでいる。

「ぐっ……ゴホッゴホッ! こ、こんな所でなんて事を……」

「約束してくださらないんですか?」

 眉を下げれば、ディート様はすぐに陥落した。

「約束する! 俺の愛を伝えるから!!」

「ふふ。嬉しいです。行ってきますね」

 まるで街へ買い物にでも行くように話す。

 

 不思議と恐れはなかった。

 あれから毎日、ディート様は愛を伝えてくれ、『元気になったら……』『──をしよう』『──に行こう』なんて楽しい話ばかりするから。

 『可愛い』や『好き』の言葉も私に力をくれた。


「手術前にこんなに落ち着いている方は初めてです。死と向き合うのは恐ろしいでしょう。でも全力を尽くすと約束します。あなたが旦那さんともう一度笑えるように」

「まぁ、心強いです」

 麻酔を打つ前に医師(せんせい)に言われ、笑顔を返す。

 だって、ディート様が苦労して、見つけてくださった医師(せんせい)ですもの。


 運命なんて誰にも分からない。

 それでも強く願う。


 大好きなディート様とこれからも一緒にいられますように……


【THE END】


最後まで、お読みくださり、ありがとうございました。

よろしければ、下の方にある星の評価をお願い致します。

是非、お気軽にコメント等もください。

泣いて喜びます!

もし、ご希望があれば、後日談をUPします。

感謝を込めて。

2025.11.23


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BLで小説を出しています。

コミカライズして頂いたものもあるので、ご興味のある方はXマイページをご覧ください。

『魔性のα』でも検索できると思います。

よろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
ディード様不器用過ぎるよ!!と怒りつつ、ギリギリですれ違いが解けて良かったです(^^) 手術成功しますように。
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