9.ついに……!
ヨスさんたちが地上に戻ってから二日後。
【スマイルストア】ロンダール迷宮第一層店は無事に営業許可をもらうことができたっ!
ヨスさん曰く、トラヴィスさんとアイリスさんが頑張ってくれたようだ。
まぁ元々ロンダール迷宮伯は寛容な人らしく、コンビニに興味を抱いていたから、普通に報告しても大丈夫だったかもしれないとは言っていたけど。
「いらっしゃいませ、アイリスさん」
「おはよう、ハジメ殿」
今日は記念すべき営業開始の初日。その最初のお客様となったのは、朝早くからやってきたアイリスさんだった。
「営業許可をおめでとう、ハジメ殿」
「いえいえ! これもアイリスさんのおかげですよ!」
この異世界に来てからの初めてのお客様もアイリスさんだった。彼女が空腹で彷徨っていたおかげで、僕とこの店舗を見つけてくれた。
迷宮もコンビニも出られない僕に変わって、騎士団や迷宮伯に話を通してくれた。
それが迷宮騎士である彼女の仕事だからとはいえ、感謝するしかなかった。
「開店祝い……と言っていいか分からないが、今まで払っていなかったおにぎりの代金を払いに来たぞ」
「ちゃんと覚えていてくれたんですね、ありがとうございま……す?」
ドンッという音と共に、中身の詰まった麻袋を彼女はカウンターに置いた。
「あの……なんですか、この大金」
「なにって代金だが?」
いやいやいや。確かにアイリスさんはおにぎりを一杯食べていたけど全部合わせても、ツケはおにぎり五十個くらいですよ!?
こんな……100万も入ってそうな程の代金は必要ないって……!
「……全部で、7500ギールです」
「ハジメ殿、桁を間違えてないだろうか?」
「7500ギールです!!」
僕は大金の山からわずかなお金を取り、それでレジを通して、会計を終わらせた。
「待て、おかしいだろ! あんなにもうまいおにぎりが、こんな一個にも満たない代金の訳がないだろ!!」
「おにぎり一個は150ギールです!」
「ふざけるな! そんな安いわけないだろう!」
むしろこれでも昔に比べたら高くなったほうだし! なんだったら近々さらに値上げするみたいだったから、200円超えるとかちょっと高いなぁって思っていたくらいなんですけど!?
いやでも、これってこっちの世界の金銭感覚なだけで、異世界人にとっては違うのもしれないか?
いやー……やっぱりアイリスさんの反応からしてそれはないか。きっとこのおにぎりが高級品だと思っていただけだろう。この前のコーヒーの値段を聞いてトラヴィスさんが驚いていたのと同じで。
だとしても、100万も持ってこないでくださいよ!? どんだけおにぎり一個に価値を見出しているんですか!?
「ふざけてないです。真面目です。お支払い、ありがとうございました」
僕は努めてスマイルを浮かべて、頭を下げた。なんであれ、アイリスさんは約束通りに代金を払ってくれたお客様だ。礼儀を尽くす必要がある。
「では、本当に150ギールなのだな……?」
「はい、その通りです」
「じゃあ……もしかして、いっぱい買って、いっぱい食べられるのか……?」
アイリスさんがおにぎりコーナーに向かっていくと、なんとそこにあったおにぎりを根こそぎ取って、カウンターまで持ってきた!
「ハジメ殿! あの棚のおにぎりを全部買おう!」
「……か、買い占めはご遠慮ください!!」
……さすが、おにぎりに誓うだけある。アイリスさんはおにぎりの騎士になってしまったんだ。