69.迷宮街オルウェイ
「アキナイ様! あなたのおかげで娘の魔力風邪が治りましたよ! あなたは娘の命の恩人です!!」
「いえいえ。無事に治ったようでよかったですよ」
二日後の昼に現れたトラヴィスさんからそんな嬉しい報告をしてくれた。異世界の病気にどこまでコンビニの商品が効くのか分からなかったから心配だったけど、どうやらきちんと効果があったようだ。
「あの服薬ゼリーはすごいですね。あのゼリーのおかげで娘が薬を飲んでくれましたよ。ただ、ゼリーが美味しすぎたのか、もっと頂戴と言われてしまい困りましたが」
困ったように笑うもトラヴィスさんの顔色は明るい。本当に娘さんが快復してよかった。
「俺からも礼を言っておく。うちの団員の家族を助けてくれてありがとな」
「いえ、当然のことをしただけですよ。ヨスさん」
そんなトラヴィスさんの隣には珍しくヨスさんがいた。ヨスさんは迷宮騎士団の団長だ。たまに店舗に現れるけど、普段は騎士団長として忙しくしているから、姿を見るのは久しぶりだ。
「で、ちょっと話は変わるんだがな。……ロンダール迷宮伯と面会ができそうだ」
「……本当ですか!」
ロンダール迷宮伯。名前だけはこの異世界に来た時から知っている人だ。このロンダール迷宮を治める領主である人とついに会えるらしい。
その後、詳しい日程の話などをヨスさんたちとした。面会の日程は明後日に決まった。
ロンダール迷宮伯、一体どんな人なんだろう?
この得体の知れないコンビニに営業許可をくれたばかりか、迷宮騎士団に指示して安全を守ってくれた。聞いた話だといの一番にコンビニに来ようとしたけど止められたとか。それだけ行動派な割に商品の安全性のチェックや書籍の検閲、タバコや酒の規制など慎重な所もある。
なんにせよ……相手は偉い人だ。この街と迷宮の統治者だ。機嫌を損ねるようなことはしたくないな……。
「あの、迷宮伯に会う時に気を付けたほうがいいことってありますか?」
「いや……特にないな」
「いやいや、あるでしょう! 相手は貴族ですよ!」
「それ言ったら俺らだって貴族ではあるな」
「そうですね」
……そうだった。今まで普通に接していたけど二人とも次男以降とはいえ貴族だったなぁ!
「ま、ハジメなら大丈夫だ!」
「ええ、アキナイ様ならご心配入りません。普段通りで大丈夫ですよ」
「ええぇ……本当ですかぁ?」
ヨスさんはともかく、トラヴィスさんにまで大丈夫と言われた。……とりあえず、菓子折りは持っていこう。
そんなわけで、当日になったわけなんだけど。
「なんですか、この護衛の数は!」
「ハジメ殿が地上に行くんだから当然だろう?」
騎士団最強とされるアイリスさんがいるのはまだいい。それ以外に五十人もの騎士たちがコンビニの前に勢揃いしていた。
なんだか街に行くだけで大事になってしまった……。まるで偉い人を護送する警察のようになってないか? いや、実際そうなのか?
ちなみに移動方法は当然僕は移動販売車に乗る。異世界の言葉はまだ覚えている最中でまともに話せないので車からの翻訳機能に頼ることになる。
迷宮街オルウェイには馬車が通れるように道が整備されているから移動販売車も通れるそうだ。
「では出発しようか。先導の馬に続いてくれ」
「はい、分かりました」
僕らは街に向けて走り出した。走るって言ってもスピードは出していない。時速10キロもない、ノロノロとした速さだ。
「よっ! 待ってたぜ!」
迷宮の入口でヨスさんとトラヴィスさんと合流した。
「団長と副団長まで出向いてくるんですか! ちょっと大袈裟な……」
「大袈裟にもなる。ほら、あれを見てみろよ」
ヨスさんが迷宮の入口の外を指し示した。
「おい、あれはなんだ? 迷宮で見つかった新しい神器か?」
「探索者が言ってた『コンビニ』って奴じゃないか?」
「あれが『コンビニ』なのか!?」
出入りする探索者たちとは別の、一般市民らしい通りすがりの人たちがこちらを見ていた。見たこともない車で、さらにスマストカラーの黄色の販売車なのでとても目立つから、遠くからでも気づくだろう。
どうやらコンビニの噂は街の住人たちにも広まっていたらしい。この車が『コンビニ』とわかると、さらに野次馬が集まってきた。近くで見ようとする野次馬もいたけどすでに入口前に待機していた騎士たちに押し留められていた。
「これを見て大袈裟ではないと言うか?」
「……いえ!」
そうだ。探索者たちはもうすっかりコンビニは見慣れたものだから忘れていたけど、地上の人たちにとっては違ったね!
……出来ることなら彼らにも商品を売りたいけど、ここでは商売が出来ない。実は迷宮内での販売許可はもらっているけど、地上の街ではまだもらってないんだ。
だから、コンビニの商品を買えるのも、迷宮に入れる探索者たちだけだ。ただ買った商品なら街に持ち込んでもいいらしいから、店は見たことがなくても、商品なら見たことがあるかもしれないね。
そんな風に人の視線に晒されながら、大通りを進んでいく。迷宮都市というだけあって、街並みも綺麗だ。街並みは西洋風に近いかな?
二十年前にここにあった村は迷宮ができた時の大穴に飲み込まれて消えてしまったらしいから、今ある街は新しく作り直されたから綺麗なんだろう。
迷宮の入口である大穴を中心とし、この街は発展しているらしく、上から見るとドーナツのような形をしているらしい。実際、カーナビの地図で見た時そんな形だった。迷宮の大穴は直径3kmもあるみたい。
この迷宮の大穴を囲うように壁が作られていて、四方に門がある。僕たちは北門から出てきた。
入口では騎士たちが迷宮に入る探索者たちをチェックしていた。迷宮証の提示を求め、それで迷宮の出入管理をしているようだ。
壁をよじ登れば勝手に入れそうって思うかもしれないけど、実は壁の上には結界があり、上空からの侵入を防いでいるそうだ。
この結界には〈転移石〉の転移妨害の効果もあるらしい。神様の力である転移魔法を妨害できるのか? という点についてはこの結界自体も神器によるもの。つまりは神様由来の力なので問題ないらしい。
元々は迷宮に稀に現れる転移禁止のトラップ部屋から入手できる神器とのこと。そういうの、やっぱりあるんだ……。実際に遭遇したら死を覚悟するやつだ。
なので、迷宮内ならいくらでも転移はできるけど街から迷宮へはできないらしい。門前がギリ。不正な侵入を許さない徹底ぶりだ。
唯一の例外として、コンビニから転移で地上の牢屋に入った万引き犯とかいるけど。あの強制転移はさらに強い力みたいだ。
そんな風に街を見ながら、野次馬を引き連れて走ること数十分。迷宮街オルウェイ北区にあるロンダール迷宮伯の邸館にやってきた。




