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68.魔力風邪

「いやぁ、アキナイ様のおかげで順調に識字率が上がっていってますよ」


 朝のコンビニにて。トラヴィスさんがコーヒーを片手にやってきては、そんなお礼の言葉を言ってくれた。


「いえいえ、あの教科書の内容がよかったからですよ」


 トラヴィスさんが制作したあの文字学習の教科書は分かりやすく丁寧で基礎が学べるとして、騎士たちに評判だった。しかも評判を聞いた冒険者たちからも欲しいとの声が上がり、このコンビニの商品の一つとして提供することにもなった。


 異世界人である僕から見ても分かりやすいんだ。最近は休憩時間に待機中の騎士たちと共に文字を勉強するようになった。しかも先生としてアイリスさんが付くこともあった。


「ああ。私は教えるのが得意ではないんだが、この教本を見ながらなら教えられるからな」


 前にアイリスさんに剣を教えてもらった時も、口で教えるより体で教えられたっけ。そんなアイリスさんでも、このトラヴィスさんが作った教科書があれば人に教えられるようになった。


「今まであなたは剣以外を教えることは無理でしたのに……そうでしたか。……なら今度は計算の教科書でも作りましょう」


 アイリスさんでも先生になれると気付いたからか、トラヴィスさんは嬉しそうに次の本の内容を考えているようだったけど。


「あの、トラヴィスさん大丈夫ですか?」


 なんというか、今日のトラヴィスさんは元気がない。仕事漬けとか徹夜明けとかで疲れて元気がないのは見てきたけど、それとは違うものだ。


「あぁ……分かりますか? 実は娘が魔力風邪を引いてしまいまして……」


「魔力風邪?」


「魔力器官に異常が起こることで発熱や咳などの症状が出る病気の一種ですね……」


 この世界特有の病気みたいだ。聞いた感じは普通の風邪に近い症状みたいだけど。

 トラヴィスさんが元気がない理由がわかった。無理もない。幼い娘さんが風邪で苦しんでいるんだから、父親として心配なんだろう。


「薬はちゃんと飲ませたんだろう?」


「それが苦いから嫌だとまったく飲んでくれなくて……」


 実に子供らしい理由だ……。ちなみに病気の類に関しては魔法が効かないらしい。


「そうだ、アキナイ様! このコンビニにも薬がありましたよね! 子供でも飲みやすい薬はありませんか!!」


「そんな都合のいい薬、流石にコンビニにもないだろ……」


「そうですよね……」


「いえ、一応あるにはありますけど」


「あるのか!?」


「あるんですか!!」


 アイリスさんは驚きながら、トラヴィスさんは縋るように僕を見てくる。


「普通の風邪薬ならありますよ。魔力風邪に効くかどうかは分かりませんが」


 コンビニでも風邪薬は買える。だけどそれは登録販売者がいる場合のみだ。

 僕はちゃんと資格を持っている。店舗管理者にもなっているから、一人で販売することが可能だ。

 元々ヤマさん……月見里(やまなし)さんが登録販売者の資格持ちだったんだよね。後に店長のモモさんが取って、僕もフリーターになったのを機に取ったんだよね。


「ただ薬なので副作用など考えるとあまり売れないものですし、販売もしてはいけない決まりだったずですが……」


「――この店の商品チェック、誰がやったとお思いで? 私たちですよ。ちゃんと薬に関してもチェック済みですよ! それに販売に関しても私なら大丈夫ですから!」


 そうだった。書籍の検閲を始め、一度全ての商品は迷宮騎士団にチェックされていた。その指揮をとっていたのは他でもないトラヴィスさんだ。

 そしてトラヴィスさんは迷宮騎士団の副団長。

 他でもないトラヴィスさんが大丈夫だと言うので、僕は倉庫から風邪薬を取り出してきた。


「これは子供用の風邪薬です。子供でも飲みやすいシロップのものですね」


「チェックの時に一度見たことがありますね……これがそうでしたか」


 チェック品目が多すぎてトラヴィスさんはちょっと覚えてなかったらしい。まぁ、うちで扱っている品数は三千を余裕で超えるから仕方ない。僕だって全部の商品を完璧に覚えているかと聞かれると怪しいし。しかも、毎日のように新商品が来る。


「さっきも言ったように魔力風邪に効くかは分からないですよ?」


「いえ、この店の商品なら効くはずですよ。なんたってコンビニの商品ですから!」


「コンビニに対して全幅の信頼を置き過ぎではないですか!?」


 本当、過度な期待はしないでくれ……。巷では万能雑貨店とか言われてるけどさぁ……。


「というか、やっぱり元の薬を飲ませた方がいいと思うので、これ使ってください!」


「これは……ゼリーですか?」


「これは薬を飲みやすくするための服薬ゼリーですね」


「そ、そんなものがあるのですか!?」


「どこの世界でも、子供に薬を飲ませるのに苦労しているということですよ」


「あぁ……」


 納得したようにトラヴィスさんは頷いた。

 ちなみにこれだけ子供用の医薬品が充実しているのはヤマさんのおかげだ。ヤマさんには息子さんが居てまだ小さかった頃はよく風邪とか引いていたんだ。


 ヤマさんが近くに住んでいたのもあって、このコンビニにあれば便利だということで、それらの商品が充実していった。結果的に、夜中に駆け込んでくるママさんたちも救っていたから、あれで正解だった。


 現に今も、異世界を超えて一人の親を救っている。ありがとう、ヤマさん……。


『や〜ねぇ、アキちゃんったら大袈裟よ〜。おほほほ! でも嬉しいから飴ちゃんあげるわね〜』


 ……つい思い出したヤマさんならこう言うんだろうな。にしてもなんでおばちゃんってみんな飴ちゃんを持っているんだろ? 僕の婆ちゃんもよくくれたんだけど。べっこう飴とか黒飴とか。


 結局、トラヴィスさんはその服薬ゼリーを買っていくことにした。風邪ならばと、他にもレトルトのお粥や、スポーツドリンクに栄養ゼリーを紹介した。コンビニの食べ物をこっちの世界の人たちが食べると調子がいいらしいから効くと思うんだ。


 それから、おでこに貼る冷却シートも紹介した。発熱があるって言うし、これで少しは楽になってくれると思う。


 トラヴィスさんは追加でプリンを買って行った。

 娘さんの大好物らしく、いつも店によると買っていくんだよね。


「何から何までありがとうございました!」


 そう言ってトラヴィスさんは地上に戻って行った。職場に行く前に家に寄って買った物を渡してくるそうだ。


 トラヴィスさんの娘さん、早く元気になるといいな……。

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