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67.地道な布教活動

 本日もいつも通りにコンビニ【スマイルストア】は営業中。

 先日、二号店ことロンダール迷宮第十一層店では巨大蟹大量発生という騒動があった。

 すで騒動はすっかり収まっている。騒動を抑えられたのは探索者たちの他に、迷宮の治安を守る迷宮騎士団の力あってのことだ。


 ロンダール迷宮騎士団の騎士たちは普段からコンビニの警備もしてくれている。二十四時間毎日居てくれるわけだから、安心と共に僕はすっかり彼らと顔見知りになり、仲良くなった。


 そんな迷宮騎士たちの間で、最近流行っていることがあった。


「アキナイさん、この漫画に書いてある"気"とは魔力のことでいいんですか? ここに書いてある通りに修行すれば俺も手からエネルギー波を撃てるようになりますかね?」


「ど、どうでしょうね……あくまでその漫画の設定なので同じようなことが出来るとは限りませんが……」


「ならこっちに書いてあるような忍者の影分身はどうですか! アキナイさんもできるんですよね?」


「僕は忍者ではないのでできません!」


 若い騎士二人が漫画を片手に朝から僕のところにやってきたかと思えば、聞いてきたのはそんなことだった。


 そう、迷宮騎士たちの中で今流行っているものとは漫画のことだ!


 漫画を含めた書籍に関しては今まで検閲の関係で一般に出回ることはなかった。それが最近、少しだけ制限を緩めようということになったのだ。

 そこでまずは試験的に迷宮騎士団の騎士たちに対して、書籍の一部や漫画など読んでいいことになったそうだ。


 そんな事情もあり、現在騎士団の中では空前の漫画ブームが巻き起こったわけだ。ちなみに一番読まれているのが少年漫画である。


 騎士たちの多くが男性だからというのもあるのだろうけど、戦闘描写があるのが好まれているようだ。

 騎士という職業柄か、戦闘に関して気になるようで、漫画で描かれる修行シーンから戦闘で使われた技などに対して分からないことがあると僕に聞いてくる。

 正直僕は作者でもない一読者に過ぎないので、当たり障りのないことしか言えてないけど。それにここ、異世界なので……。


「完全に同じことはできなくても、似たようなことは魔法とかでできると思いますが……」


「確かにこのエネルギー波は魔法と呼べなくないですね……光線を放つ魔法が近いでしょうか?」


「こっちの影分身も魔法にあった気がする」


 やっぱり。似たようなことは魔法でできるらしい。

 あのココさんが魔法少女マイに登場するフジカ先輩の技を再現していたくらいだし。


「ここのセリフってなんで読むんですか?」


「ああ、ここは『ここは俺に任せて先に行け』ですね」


 どうやらこの二人は文字が読めないらしい。僕は日本語が読めるからか、異世界語で書かれた本であっても店内にいれば翻訳され、読むことができる。


 この店の漫画や本はレジを通された時点で異世界の言語に翻訳される。だから日本語が読めなくても、異世界の文字が読めるなら漫画を読むことが出来る。


 しかし、彼らは異世界の文字を習っていないようで、翻訳された漫画本であっても読めないのだ。

 多少の簡単な文字なら読めるそうで、それでなんとか漫画を読み進めたらしい。何より漫画は絵がある。セリフが読めなくても絵で何をしているかある程度は読み取れる。

 それでも分からないところは、こうやって僕のところに聞きに来る……というのも最近増えたことだ。


「あなたたち、何をしているんですか。そろそろ仕事に戻りなさい」


「ふ、副団長! 申し訳ありませんでした!」


 コンビニの入口からやってきたのは副団長のトラヴィスさんだった。朝のこの時間帯はよく副団長のトラヴィスさんがドリップコーヒーを求めてやってくる。仕事が忙しいと見かけないので、今日は比較的忙しくない日なのだろう。


「すみません、ご迷惑をお掛けしております……」


「いえいえ、これくらい迷惑でもなんでもないですよ。それに好きな漫画の話をできるのは楽しいですから」


 淹れたてのコーヒーを片手に謝るトラヴィスさんに、僕はなんでもないように答える。

 今までこう言う話ができるのはココさんだけだったから、漫画の話し相手が増えたことは素直に嬉しい。


「ありがとうございます。……まぁ、こうして熱中するあまり、職務怠慢になるのは頂けませんが」


「あはは、確かにそうですね」


「こう悪いことばかりではないのですが。最近は漫画のストーリーが気になって、文字を覚えようとやる気を出すものが増えてくれましたので。……ココ様が仰っていた通りになりましたね」


 そういえば、以前ココさんが言っていたな。

 漫画の布教のために、識字率を上げたいと。漫画に興味が出れば、文字を覚えようともするだろうと。

 こうして漫画の規制が緩まったのも、彼女の地道な努力の成果だろう。着実に布教活動の基盤を築いている。


「それはよかったじゃないですか。識字率が上がればトラヴィスさんの仕事も軽減されそうですし」


 トラヴィスさんは迷宮騎士団の事務仕事をほぼ全てを担っている。文字が読める騎士が増えればその負担も軽くなるだろう。


「ええ。ですが、今度は文字を教えることが大変で……。みなさんが教えを乞いに来てくれるようになったのはありがたいんですが、人数が多くて多くて……」


 漫画ブームになったせいか、一気に文字を覚えたい騎士が増えた。しかし、文字を教えられる人は騎士団の中でも限られている。


「文字の学習用の本があるにはありますが、あれは高価で冊数が少なく……かと言って複製して増やすのは今は出来なくなってしまいましたからね」


 トラヴィスさんは困ったように嘆息した。著作権法が迷宮条約に課せられた今、そう言った本のコピーも難しい。


「なのでとりあえず簡単な手本を私が作って、それを複製し、教材にしようと思っているところです」


「なるほど……それならただのコピーじゃなくて、冊子印刷のほうがいいかもしれませんね」


「えっ……冊子印刷? まさか、本が作れるのですか!?」


「はい、簡単なコピー本ですが」


 確かに一枚一枚コピーしたものをまとめ、後から本にすることはできる。でも、そんなことしなくてもきちんと本としてまとまった形で印刷してくれる機能が、マルチコピー機にはある。


「ただちょっとPDFデータに……こちらの技術を使うので原本が出来たら一度持ってきてもらっていいですか?」


「分かりました!」


 というわけで数日後に、トラヴィスさんが持ってきてもらった簡単な文字学習の原本を、マルチコピー機で読み取り、ノートパソコンでPDFデータにした。


 冊子印刷に使うPDFデータは便利なテンプレートがスマイルストアから配布されている。

 公式ページからダウンロードできるけど、ここは異世界だからネットには繋がっていない。だけどこのテンプレートはすでにパソコンに入っていた。


 店の業務に関係するからかな? ちなみに本来はここまでお客様が事前にやることだ。だけどパソコンを持っていない異世界人にそんなことはできないので、特別対応として僕がやっておいた。そこそこ聞かれることが多くて、説明のためにもやり方を覚えたんだよな。


 そうそう、冊子印刷で同人誌を作っていた人がいたなぁ。明日イベントなんで、なんとか間に合ってよかったーっていいながら深夜に印刷していたっけ……。あの同人誌にかける熱量はすごかったよ。


 印刷できたら、半分に折って真ん中をホチキスで綴じるだけ。自動でページが揃って印刷されるから並び替える必要もない。


「はい、できましたよ」


「すごいです……こ、こんな簡単に本ができてしまうなんて……!」


 トラヴィスさんはとても感動した様子だ。この世界では本が貴重だから、そんな反応にもなるのだろう。

 まぁ、きちんとした印刷会社のものに比べればクオリティは落ちるけど、安くて手軽に冊子印刷ができる。失敗してもやり直しやすいし。20Pのものを50部、白黒印刷なら五千円ほどだし。


 トラヴィスさんはとりあえず30部ほど刷って行った。


「もし足りなくなったら言ってください。なんなら必要な騎士が居たらその場で刷ることできますよ」


 PDFデータはこっちにあるからね。すぐにデータから印刷し、その場で本にして渡すこともできる。騎士の多くはこのコンビニの警備で居ることが多いし、寝泊まりをここですることもある。ここで文字学習の本を配れば効率がいい。


「何から何まで本当にありがとうございます……!」


「いえいえ……これも布教のためなので!」


 どうして僕がこんなに協力的だったのか。

 それはもちろん、ココさんと同じく、漫画の布教活動のためだ!

 作品をより理解するためには、やはり文字は読めなくてはならない。もちろん、ココさんに手伝うと約束していたのもある。


 あとは……僕もこの世界の文字を覚えたかったんだよね。実は一冊、お礼としてもらったんだ。

 店内にいる限りは店舗チートで翻訳してくれるけど、ここは異世界だ。何があるかわからないし、やっぱり覚えておいたほうがいいだろうからね。


ちょっとマルチコピー機くんの出番が多いけど、一応コンビニにあるものだから許して欲しい……。

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