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60.深夜営業①

 スクロールの件はとりあえず片付いた。

 お湯のスクロールに関しても、エイブラハムさんに任せることになった。


 ……まぁスクロールの登録作業が終わるまで待って欲しいと言われたので、まだ少しかかりそうだった。忙しそうだし、仕方ないね。


 僕のほうも、コンビニ『スマイルストア』の業務に戻らないと。実は新しい試みをしたかったんだよね。


 立地が悪いにも関わらず、相変わらず一号店には探索者たちが来てくれる。それこそ朝早くの開店から閉店ギリギリの時間まで。

 閉店時間になり、がっかりしながら帰っていく探索者を何度も見送った……このままではいけない。


 スマイルストアのキャッチコピーは『あなたの日々に笑顔を、スマイルストア』だ! 帰って行く時はやはり笑顔でないと!


 そこで僕は……深夜営業を開始することにした!


 正規の従業員を雇い始めたから、やっと深夜営業も開始できそうだったんだ。

 いきなり従業員たちに任せない。昼間を従業員たちに任せて、深夜に僕一人で店番をする。


 実験的な意味もある。試しにしばらく深夜営業をしてみて、需要がありそうなら今後も続けてみるつもりだ。なかったら営業時間を延ばすだけにする。


 そんなわけで僕は久々に深夜シフトに入り、一人で店番をしている。……防犯とか色んな面で一人は良くないんだけど、厳密には一人じゃないから良いかなって。


 だってここは元から二十四時間、迷宮騎士団の皆さんに守られてますからね!!


 コンビニの入口を見れば、警備の迷宮騎士が立っている姿が見える。


 ……なんて心強いんだ。もう元の世界のように深夜に一人で店番する恐怖を味わわなくていいんだ……。


 夜中にやってくる暴走族の集団を相手したり、誰も居ないのに開く自動ドアやトイレの音に悩まされることもない!


 でも、今の店舗には強固な結界があったり、万引きや危険人物を検出したら、店の外に転移させてしまう。


 だから騎士団の人が守らなくてもここは安全では?……と言ったら、アイリスさんには否定された。


『万が一の可能性があってはならない。それにこれは迷宮伯からの命令でもある。何が起ころうと絶対に店とハジメ殿を守れとな』


 ……ずいぶんと過保護な気がしないわけじゃない。ただ、コンビニの影響力を考えるとここまでして守るのは正しいのかもしれない。


 なんにせよ、迷宮伯の命令なら仕方ないのでこれ以上は言わないことにした。こっちにデメリットがあるわけじゃないからね。


 ただ、コンビニに警備を割いていて、迷宮内の警備とかは大丈夫なのだろうかと、少し思う。


 騎士団最強と噂されるアイリスさんだって、今はほとんどコンビニにいるし……。今日はいない日だけど。


 まぁ必要があれば大遠征の時みたいに召集がかかるから、いいのかな。


 そんなことを考えながらも、僕は深夜営業をしていた。お客様の入りは十時くらいまでは結構あったけど零時に近づくたびに少なくなっていった。


 探索者は基本的に日中に動き、夜は休むという。これは夜になると視界が悪くなり、さらに危険なモンスターが迷宮内を徘徊し始めるからだ。


 だから夜中に動く探索者というのは、よっぽどの手練れか命知らずくらいだろうと、デイヴィッドさんが教えてくれた。


 ……深夜営業、実はいらなかったかもしれない?

 まぁまだ一日目だし。とりあえず一週間くらいは様子見してみるけど……。


「……! い、いらっしゃいませ! ようこそ、スマイルストアへ!」


 二時を過ぎたあたりでやっと入店音が鳴り響いた。僕は眠りかけていた目を覚まして、入口を見る。


「えっ?」


 そこにいたのは、大きな黒い塊だった。

 いや、よく見ればそれはただの黒い外套を着た人だ。だけどあまりにも背丈も図体も大きかった。

 ハートンさんよりも大きい……二メートルは余裕で超えている。入口を通る時に屈んでいたほどだ。


「……おい」


「は、はい!」


 あまりの異様さに驚いて固まっていたところで、低く唸るような声で話しかけられた。


 すごい威圧感を感じるんだけど! なにこの人怖いんだけど!?


 恐る恐る見上げると、フードの下から白い毛が見えていた。……髭? いや獣の毛ぽい?

 よく観察すれば手足も白い毛に覆われた獣のそれだった。なるけど、獣人だったみたいだ。


「解毒薬はあるか? 出来れば上級がいい」


「それならそこの棚にありますよ」


「コレか」


 入口から入って右手にある探索者用コーナーにある解毒薬。クローバー商会から仕入れているそれは、初級から上級まで揃えてある。


 黒マントの獣人さんは棚から上級の解毒薬を引っ掴むと――いきなり封を開けて飲みだした!


「あの、支払いを先に――うわっとと」


 支払いを言ったら、代金の硬貨を投げ寄越された。

 僕は慌てながらも、なんとか硬貨を受けとった。


「……悪い、毒を受けていてな」


「あぁ、そうだったのですね」


 だからすぐに解毒薬が必要だったんですね……。

 よく見れば腕のあたりの袖に斬られた痕があった。怪我の処理はした様子だけど、体内に入り込んだ毒だけはどうしようもなかったらしい。


 てっきりマナーのなっていないお客様かと思ったけど、そういう人ではなかった。

 解毒薬を飲んで落ち着いたからか、威圧感も無くなっていた。


「なぜこんな時間に店を開けていた? いつもは閉まっているだろ?」


「今日から深夜営業をしていまして、それで開けていました」


「そうか。……助かった」


 ……深夜営業、しておいてよかった理由があった。

 こういう緊急時に対応できるのだから。


「……噂通りだな。色々とある」


 黒マントの獣人さんは店内が気になるのか、周囲を見渡していた。

 そこで気付いたけど、この人は棺桶を背負っていた。……回収屋なのかな?


 回収屋は迷宮で死んでしまった人の遺体を回収する業者だ。この世界には蘇生魔法があるから、遺体さえ回収できれば生き返ることができるんだよね。


「店舗に来るのは初めてですか?」


「……ああ」


 クローバー商会を通して迷宮内の各地で一部の商品を扱っているから、実店舗には来たことがない人なのかもしれない。


 実際、僕もこの人を見るのは初めてだった。

 

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