56.お湯を求めて
さて、デイヴィッドさんたちがステマをしてくれている間に、僕がしなければならないことをしよう。
体臭問題を解決するには風呂に入るのが一番だ。そして風呂文化を広めるためにはお湯がいる。
しかし、元の世界のように給湯器があるわけでもない。当然だが、コンビニでは扱っていない。あるのは電気ポットのお湯くらいだ。
だがここは異世界だ。異世界なりの解決方法がある!
簡単にお湯が手に入る手段として、僕が目を付けたのは――マジックスクロールだ!
前回、電子レンジ代わりとして温めのスクロールを作ってもらった。その時から思っていたんだよね、これを使えばお湯を沸かすこともできるだろうって。
その時は電気ポットの代わりくらいの利用で考えていたけど、もう少し調整すれば、お風呂を沸かす給湯器代わりにだってなるだろう。
「……なるほど、確かに出来ない訳じゃないわ」
話をしたらココさんが肯定してくれた。魔法といえば魔法使いのココさんだと思って、相談を持ちかけたのだ。
「できるんですね! ならお湯を沸かせるスクロールを作ってもらってもいいですか?」
「そうしたいのだけど、あたしはマジックスクロール作りは専門じゃないのよ。あたしが作れるのだってこの雷撃のスクロールくらいでね」
そう言って前回誤って大量印刷した雷撃のスクロールを見せてきた。……ちなみにどれくらい刷ったかというと二百枚だ。その内の百枚は迷惑をかけたからと言って、僕にくれた。
もらったはいいけど、僕には使い道がないので、とりあえず商品として店に置いた。
一応十枚ほどは僕が普段使いにしている〈魔法鞄〉に突っ込んでおいたけど……今のところ日の目を見たことはない。
迷宮を爆走した時だってなかった。車に乗っていたのもあるけど、護衛のアイリスさんが全部片付けてくれたからね。
「そうでしたか……。なら、今回もクローバー商会を頼ることになりそうですね」
「ええ、我が商会と契約しているスクロール職人をご紹介しましょう! きっと今回もアキナイ様がご所望するものを作ってくれますよ!」
頼もしい言葉をロウシェさんが言ってくれた。前回の温めのスクロールも、ロウシェさんの商会を通じて用意してもらったんだよね。
「今回は職人と会えませんか? 結構細かい調整が必要そうなので」
温めのスクロールの時も、火力が強すぎて容器が溶けたりと問題点があり、調整が必要で二回くらい作り直してもらったんだ。
その時はロウシェさんを通じて要望を言っていたけど……それなら直接会ったほうが手間もかからないだろう。
「分かりました。では、前回担当してくれた方に事情を話して連れて来ますね!」
「ありがとうございます」
「ねぇ、あたしも同席してもいいかしら?」
「構いませんよ。……何か気になることがあるんですか?」
「ちょっと、作者が気になるのよ」
「温めのスクロールの作者が、ですか?」
ココさんは二枚目のスクロールを手にしていた。温めのスクロールだ。
これは現在、商品としても売り出しているから、出先で探索者たちが使っている。
消耗品とはいえ、マルチコピー機で低コストで量産できるので安価で販売している。
ちなみに一万枚くらいは一日で刷れるから、価格も控えめで一枚50ギールにしてある。ほとんど印刷代をそのままもらっているような形だ。
「簡易なスクロールにしてはずいぶんと魔術式の処理が綺麗なのよ。スクロール職人としてだいぶ腕がいいし、なにより……なんか見たことある気がするのよね」
ココさんはこのスクロールが気になるらしい。……正直僕にはココさんが描いたスクロールとどう違うのかよく分からない。……確かに温めのスクロールのほうが線が綺麗な感じはするけどね。
そんなわけで後日、この温めのスクロールを作ってくれた人と会えることになった。
少し楽しみだし、会えたらこれを作ってくれたお礼もしたいところだ。




