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53.夏のビーチとかき氷

「よっ! 元気そうだな!」


「いらっしゃいませ。ヨスさんもお元気そうで」


 今日も第十一層にある二号店の店先に出ていたら、転移陣のほうからヨス団長が現れた。二号店の立地は第十層に続く転移陣に近い。その為、実は一号店より地上と行き来がしやすかったりする。


 ヨスさんは海水パンツにアロハシャツを羽織り、サングラスを掛けていた。……しっかり暑さと紫外線対策していていいんだけど、サングラスのせいで強面になっていた。

 どこの組の人ですか……? って言いたくなる。この人は立派な公務員の騎士なんだけど……。


「団長、お疲れ様だ。何かあっただろうか?」


「いや、ちょっと現場を見に来ただけだ」


 隣にいたアイリスさんがヨスさんに敬礼した。

 ヨスさんはアイリスさんの養父でもあるけど、同時に上司の騎士団長だ。だからヨスさんのことは基本的に団長と呼んでいる。

 ちなみにアイリスさんも水着を着ているけど、この前と違うのはラッシュガードのパーカーを羽織っていた。


『さすがにその格好は薄着すぎないか……?』


 まるで娘のスカート丈が気になるお父さんみたいだった。

 そんなヨスさんの指摘で、アイリスさんはパーカーを羽織っている。本人はちょっとパーカーが鬱陶しそうだったけど。

 ……僕のせいで申し訳ないと謝ったら、アイリスさんはいつもあんな感じだから気にするなと言われた。普段も騎士としての正装をしていなければ、薄着を好むのだとか。

 防御力云々も騎士団の部下を気にしてだとか。本人は実力があるせいか、軽装のほうがいいらしい。


「二号店の調子はどうだ?」


「暑さに負けた探索者たちが度々来る程度ですよ」


 第十一層に到達した探索者たちは少しずつ人は増えている。初めてやってきた探索者たちは総じてこの暑さにまず負けて、すぐコンビニに駆け込んでくる。

 そしてここで対策グッズを買って、再探索に向かっていく。人気があるのは水着はもちろん、凍らせて使えるネッククーラーとかだ。


「はは。この暑さじゃ探索者の奴らでもダメか。……この前はうちの奴らも世話になったな」


「困った時はお互い様ですから」


 普段は僕が騎士団の人たちに守られているからね。それにこの辺りの見回りをしてくれたのだって、コンビニ周辺に危険なモンスターがいないかを確認してくれたからだ。

 今のところ海岸沿いに危険なモンスターはいないらしい。それでも見回りは継続中だ。……稀に暑さで倒れている探索者を見つけるからという理由もあるけど。


「あ、団長! お疲れ様です!」


「おう、ハートンか」


 噂をすれば、ちょうどハートンさんを含めた騎士たちが見回りから帰ってきた。図体が大きいのに相変わらず猫背なせいか、丸く見えるハートンさん。そんな彼も水着にアロハシャツ、それから麦わら帽子と、夏満載な格好だ。いつもと同じなのは大きな盾を背負っていることくらい。


 ハートンさんが手短に二人に見回りの報告をしたのを確認してから、僕は店内のほうに戻る。

 見回りが終わった騎士たちはいつも店内で冷たいアイスなどを買っていってくれるのだ。この暑い中、歩き回っていたのだから当然だ。


「ほう、いいな。俺も何か一つ買おう。おすすめはあるか、ハジメ?」


 その様子を見ていたヨスさんも冷たいものが欲しくなった様子だ。


「ならかき氷はどうです? 砕いた氷に甘いシロップをかけたものですよ。あと、似たようなもので、飲み物のフラッペもあります」


「冷たくておいしいぞ。私はいちごのかき氷が好きだ」


「なら、アイリスと同じものを買おう」


 そう言ってアイリスさんと一緒に、いちごのかき氷を買っていった。カップ型のかき氷で、プラスチックのスプーンも付けておいたから、蓋を開ければすぐに食べられる。


 二人は外に設えたテーブルに座った。……雰囲気出るかと思って、パラソル付きのテーブルとチェアを店の前に出しておいたんだよね。


「うん、うまい! 氷のザクザク感がいいな!」


 さっそく一口食べたヨスさんは、かき氷が気に入った様子だ。でも、そんなバクバク食べたら――。


「うぉっ! 頭が痛くなってきた……!」


「そんなに急いで食べるからだ。……まぁ、私も同じことをしたが」


 頭がキーンとなったヨスさんを、アイリスさんが苦笑していた。

 確かにアイリスさんも最初、かき氷を食べた時は同じように頭を押さえていた。


「団長たち、楽しそうですね」


「そうだね」


 親子水入らずのところを邪魔してはいけないと、僕はハートンさんと共に少し離れた場所で二人を見守っていた。

 ちなみにハートンさんはヨーグルトフラッペを。僕はコーヒーフラッペを飲んでいる。


 この暑い中、冷たくて甘いかき氷や、フラッペを食べるのは実にいい。夏にしかできないことだ。……もっともここは迷宮で、この階層は常夏だからいつでも楽しめるけど。


「どこに行ったかと思えば……やっぱりここに居ましたか……」


「トラヴィスさん」


 鎧姿のトラヴィスさんが僕たちのところにやってきた。


「団長を探しに?」


「ええ。書類仕事をして欲しかったのですが……全然戻って来ないものですから」


 最近、ココさんがトラヴィスさんの書類仕事を手伝っているらしく、トラヴィスさんの仕事量は軽減されたようだ。でも重要な書類とかは団長の承認が必要なので、それだけはヨスさんが見ないといけないらしい。


「まぁ……あと五分くらいならいいでしょう」


 楽しそうな二人を見て、あのトラヴィスさんでも話しかけるのを遠慮していた。

 ……二人とも騎士団の仕事がそれぞれ忙しいせいか、あまり親子の時間が取れていないようだからね。


「とりあえず……トラヴィスさんもどうです? コーヒーフラッペ、おいしいですよ?」


「そうですね。せっかく来たのでいただきましょう」


 コーヒーが好きなトラヴィスさんはコーヒーフラッペも気に入ってくれた。


 その五分後にヨスさんたちは地上に戻って行ったんだけど……。


「団長、お疲れ様です!」


「おう、お前らも頑張れよ」


 厳つく屈強な騎士たちに見送られる、グラサンの団長姿は……一体どこの組の送迎かと思った。

 心なしかトラヴィスさんまでインテリヤクザに見えてしまった。


 それを見た探索者たちだってびっくりしていたから、僕の感覚はおかしくないと思うんだ。


 ……いや、彼らはこの迷宮の治安を守る立派な騎士団の方々ですけどね!


 ちなみにこれは後日談だけど。

 ヨスさん、日焼け止めを塗り忘れちゃったみたいで……しっかりサングラス焼けしちゃったらしい。目の周りだけが白い、パンダみたいになってしまったんだってさ。

コンビニ豆知識:セブンイレブン日本第一号店で初めて売れた商品は「サングラス」。元々アメリカのセブンの売れ筋商品の一つだったそうです。

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