表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/66

51.新人研修②

「あらー? デイちゃんたちじゃない〜」


「デリカにカイオス、お前たちも来ていたんだな」


 店内にはパーティメンバーのデリカさんとカイオスさんが居た。今日は休息日みたいだけど、二人もそれぞれの目的のためにコンビニを訪れていたんだ。


「可愛い子たちね、新人さんかしら?」


「は、はい、そうです!」


「すごっ……【絶影】のカイオスさんに【戦乙女】のデリカさんだ……」


【ジャックライダー】のパーティメンバーが勢揃いしていた。新人探索者の子供たちは尊敬のこもった視線をカイオスさんやデリカさんにも向けていた。


「あら、その二つ名で呼んでくれるなんて嬉しいわ〜!」


「最初は【戦鬼】って呼ばれていたのに――」


「ベルちゃーん? 何か言ったかしら?」


「……いや、なんでもない!! 【戦乙女】以外あり得ないよなぁ……!」


 デリカさんの殺気を感じ取ったのか、ベルナールさんは即座に訂正していた……。余計なこと言うから……。


 デリカさんは神官(ヒーラー)だけど、メイスをぶん回して敵を倒すことが多いせいか、完全なアタッカーに見られることがよくあるんだって。


「あの、デリカさん! 私、デリカさんみたいに綺麗になりたいんです! 美しさの秘密を教えてくれませんか!」


「あらまぁ! ありがとう、嬉しいわ! いいわよ、お姉さんが教えてあげる!」


 確かにデリカさんは綺麗なオネエ様だ。初めて会った時より、より綺麗になったと思う。それには一つ、理由があった。


 デリカさんはニコニコしながら、綺麗になりたいと言った少女をあるコーナーの前に連れていく。


「美しさの秘密……それはこの異世界の化粧品よ!」


 当然、このコンビニでは化粧品も扱っている。

 商品棚の一角に作られた化粧品コーナーには、化粧水から化粧下地、ファンデーション、チーク、口紅、アイシャドウなどがずらっと並んでいた。


「わぁ……!」


「すごいでしょう? 異世界の化粧品って種類がたくさんあるのよ? これでも一部なんですって」


 専門店には及ばないけど、基本的なものなら揃っている。しかも最近流行りの化粧品は押さえてあるつもりだ。


『もうちょっと品揃え変えないっすか? これじゃあ女子高生のウケが悪いっすよ〜』


 現役高校生アルバイトのワタさんのアドバイスを受けながら、前オーナーのモモさんと共に化粧品コーナーを変えたっけなぁ……。実際それで売り上げが良くなったんだよね。


 今はワタさんは居ないから、僕がなんとかするしかなくて、ファッション誌などを見ながらやっている。


 まぁ元の世界の流行がそのまま通じるとは限らないとは思うけどね。今のところは日焼け止めや、汗に強い化粧品が好まれている。


「最近、探索者のお姉さんたちが綺麗だなって思っていたんですけど、これのおかげなんですね!」


「うふふ、そうよ〜」


 最初こそ探索に必要ない物だったから、売り上げは良くなかった。でもデリカさんが化粧品に目を付けて、使い始めてからは口コミでどんどん広がっていったんだ。


 デリカさんには僕から化粧品を教えていたんだけど、今では僕より化粧品について詳しい気がする。


「私も化粧したい! ……けどまだお金が……」


 彼女はまだ探索者になりたての新米探索者だ。だから、化粧品を買う余裕はないみたいだ。


「大丈夫ですよ。この商品は基本的に売り切れることはありませんから。お金が貯まったら、また買いに来てください」


 僕は思わず声をかけた。彼女はまだ新米探索者だけど、お客様としてこれから長い付き合いになるかもしれない。だからこそ、安心してまた来てもらいたいからね。


「あ、あ、あの! もしかして店長様……ですか!?」


「はい、そうですけど……」


「ひ、あ、買えなくてすみません! えっと、店長様の言う通りに、お金が貯まったら絶対に来ます〜!!」


 優しく話しかけたはずなのに、なぜか青い顔をされてしまった。彼女は逃げるように仲間の少年たちのほうに戻って行った。


 ……えっ? なんで?


「やだ、アキちゃん。何かしたの?」


「してない、何もしてないですって!」


 一体どうしてこんなことになったんだ……? 原因を探るように新人たちの方を見た。


「わ、私、失礼なことしてないかな? で、出禁にされないかな??」


「大丈夫だって! た、たぶん!」


「店長様は怒らせてはいけない……。怒らせたら最後、二度とコンビニを利用できなくなるって言ってたもんね……」


 新人三人からはそんな会話が聞こえてきた。


「……ちょっとあれ、誰が吹き込んだんですか?」


「アタシじゃないわよ〜? まさか、デイちゃん?」


「いや、俺でもない。ベルナールの奴じゃないか?」


 僕たち四人(カイオスさん含む)の視線がベルナールさんに向かった。


「あっいや、その……アキくんに無礼を働いたらダメだぞ? って教えただけなんだけど……前に牢屋送りにされた探索者の実例も含めて、ね?」


 確かにこの店で乱暴を働きそうになった人は、大体騎士団に捕まったり、直接転移で牢屋送りにされているし、酷ければ出禁にもしたけども……!


「にしては脅しすぎですよ……。他にどんなこと言ったんですか?」


「出禁にされたら最後、探索者としては終わるかもって……」


「それは言い過ぎですよっ! ねぇ、デイヴィッドさん」


「いや、言い方はどうあれ、この迷宮の探索者として一番気を付けなければならないことではあるな」


「確かにこの店が利用できないって考えたら、探索活動に支障が出るわね〜」


「そんなまさか……えっ、嘘じゃないんですか……?」


 カイオスさんまで同意するように頷いているっ!?


 確かに探索者の態度は良くなったなとは思っていたけど、ゴミの分別もできるようになってたし……。


 でもそれって、出禁にされることを恐れていたからなんですか!?

 探索者でしょう? もっと恐ろしいモンスターと日々戦っているのに出禁の方が怖いんですか!?


「いや、普通に接してくれれば、大丈夫なんですけど……?」


 どうかもう少し気軽にコンビニに来て欲しい……。大丈夫、コンビニ怖くないよ……。


 その後、新米探索者の三人は今日のお昼ご飯を買っていってくれた。


 ちょうどいいので、こちらも新人店員に彼らの会計を任せた。……僕が出ると変に緊張させてしまいそうだったし。


 でも、互いにいい新人研修になったようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ