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47.幕間:白猫と契約ドライブ①

「ふぁ〜。二度寝した……」


 大きなあくびをしながら僕はのそのそとベッドから起きる。

 二度寝したけど大丈夫。なぜなら今日は休みの日だから。

 このスマストに定休日はないけど、クローバー商会から派遣されて来た販売員たちのおかげで僕の休みが確保できるようになったんだよね。


 さて、せっかくの休みだけど何をしようかなぁ。


「アキナイ様〜! いらっしゃいますか〜?」


 その時僕の部屋の扉がノックされ、そんな声が聞こえてきた。店内に繋がる扉ではなく、裏手の外に繋がる扉からだ。


「ロウシェさんじゃないですか、どうしたんですか?」


 扉を開けば白猫の少女ロウシェさんがいた。

 何か業務に関してだろうか?


「まさか忘れちゃったんですか? この前契約した通りに、車に乗せてくださいにゃ!」


 ロウシェさんが契約書をひらひらと見せながらそう言った。


 契約……そういえばそうだった!

 車に乗せるって約束をしていたね。


「そうでしたね。もちろんいいですよ」


「わーい! ありがとうございます!」


 よほど嬉しいのか、ロウシェさんの白い尻尾が揺れていた。


 よし、今日は久々にドライブの日だ!

 休日は結構ドライブをしていたのに、最近はご無沙汰だったからすっかり忘れていたよ。


「そうそう、アキナイ様。契約の通りにうちの言うことも聞いてもらいますからね?」


「分かりまし……ん?」


 ……契約の通り? えっ、ちょっと待って。そんなこと書いてあったっけ?


「あの、契約書をよく見せ――」


「ええ〜? ちゃんと見て契約したんじゃないんですか〜?」


「ちゃんと見ましたよ。でも、もう一度確認くらいはしてもいいですよね?」


「ちゃんと見たなら確認は必要ないはずだよね、ハジメお兄ちゃん?」


「そんなことは……ってお兄ちゃん?」


「うん! 今日一日、うちのお兄ちゃんになってもらおうかなって思ってたんだけど……ダメかにゃ?」


 青い瞳をうるうるとさせながら、上目遣いでおねがいをしてきた。

 ……正直、可愛いが過ぎる。僕に妹がいたらこんな風におねがいしてくるのかなって思ってしまった。

 喋り方だって普段の丁寧なものではなく、年相応なものになっているし。


「えっと……それくらいなら別にいいんですけど――」


「やったー! ならさっそく行こ、お兄ちゃん!」


「ちょっ、ちょっと待って!? せめて着替えさせて!!」


 気が早いロウシェさんをなんとか説得してから、僕は素早く着替えた。

 それからアイリスさんに外に出ることを伝えた。迷宮騎士団は僕の護衛も任されているんだ。無断で居なくなったら騒ぎになる。


「ロウシェ殿が共に行くなら問題ない。だが、五層より下は十層以外行かないようにな」


 護衛としてアイリスさんも付いてくるなんて言うかと思ったけど、ロウシェさんがいるなら大丈夫らしい。

 ロウシェさんも最前線の階層まで潜れる人だから、並の探索者より強いみたいだ。


「にゃはー! 車内はこんなふうになっていたんだね!」


 移動販売車の助手席に乗せると、ロウシェさんはさっそくはしゃいでいた。


「どこか行きたいところはありますか? 日帰りで帰れる距離ならどこでも行けますよ」


「なら五層に行かない? 湖の側を走るのはきっと楽しいよ!」


 湖か、確かにいいな。五層に行った時に少し湖を見たけど、綺麗な湖だったんだよね。


「分かりました。では五層の湖までドライブしましょう」


 五層まで行くには転移ポータルを経由すればすぐに到着できる。

 僕はアクセルを踏み、車を発進させた。


「すごい、速い! こんなにスピードが出るんだね!」


「危ないですから窓からあまり頭を出さないでください」


「はーい!」


 ロウシェさんは窓開けて風を楽しんでいた。

 この速さは怖くないみたいだし、車酔いもなさそうだ。


 そのまま車を走らせること一時間程で、五層の湖に到着した。


「あっという間に着いちゃった! 本当にすごいね!」


 そのまま湖の周囲をぐるりと一周した。きらきらと輝く水面を見ながら走るのは、やっぱりいいものだったよ。


「そろそろ休憩しましょうか」


 そして、湖の畔の中で、眺めのいい場所を見つけてそこに停車した。


「ふぅ〜! 風が涼しいですね」


 ドライブ中に凝り固まった体を伸ばして解しながら、風を感じた。水面を吹き抜けてくるから、涼しい風だった。


「ねぇ、お兄ちゃん。その堅苦しい話し方やめない?」


「えっ、でも……」


「休日だしうちも今は取引相手じゃないからね? はい、これは命令だよ?」


 確か契約書の通りなら今日一日はロウシェさんの言うことを聞かないといけないんだっけ。


「……分かったよ」


 別にこんなことしなくてもいいんだけど、と少し思いながらも僕は彼女の言う通りにした。


 さてせっかくここまで来たので、湖の畔でピクニックをすることにした。


「このレジャーシート、便利だよね〜。作りはしっかりしていて、防水性が高い! 探索者たちの間でも人気だよ〜」


 ピクニックなのでもちろん地面にレジャーシートを敷いてある。このレジャーシートもコンビニで売っているから、探索者たちが買っていってくれる。

 彼らの場合はピクニックではなく、野営の場面で活躍してそうだけど。


「ロウシェさ……ロウシェは何が食べたい? 店にあるものなら大体出せるよ」


 何せここにはコンビニの移動販売車がある!

 ピクニックバスケットにしては万能すぎるものがそこにあった。


「お兄ちゃんのおすすめが食べたい!」


「僕のおすすめ?」


 やっぱりピクニックと言ったらサンドイッチ系かな? 三角のもいいけど今日のメインはこっちにしよう。


「じゃあ、バケットサンドはどうかな? 今週の新商品でもあるんだ」


 僕はレタス、トマト、生ハム、玉ねぎ、モッツァレラチーズを挟み、バジルソースで和えたバケットサンドを出した。


「お〜彩り豊かでおいしそう!」


 確かに彩りがいい。だからこれを選んだところがある。レタスの緑やトマトの赤、そしてモッツァレラチーズの白。トリコロールカラーは鮮やかで綺麗で、そして食欲をそそる。


 ……玉ねぎと生ハムは猫にとっては本来は食べたらダメなものだけど、ロウシェさんは半獣人だから平気だ。


 飲み物はチルドカップから僕はカフェオレを。ロウシェさんはミルクティーを選んだ。


「ん〜! おいしい〜!」


 おいしそうにバケットサンドを食べるロウシェさん。そんな様子を微笑ましく見ながら、僕も一口。

 うん、おいしい! 何より綺麗な湖の景色を眺めながら食べるのも最高だった。


「おいしかった! でもちょっと物足りない……」


「なら、デザートにフルーツサンドはどう?」


「フルーツサンド! いいね、食べたい!」


 甘い生クリームといちご、みかん、パイナップルなどが挟まれたミックスフルーツサンドをデザートに頂いた。

 やっぱり甘いものが一番好きらしい。ロウシェさんはさっきより満足そうに食べていた。


「果物をパンに挟むなんて考えもしなかったけど、おいしいにゃ〜」


 そういえばフルーツサンドって日本発祥だったね。こっちの世界でもサンドイッチのような物はあるけど、フルーツサンドはなかったみたいだ。


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