43.非日常は新たな日常へ
突然スマストの店舗と共に異世界に飛ばされて四ヶ月目が経とうとしていた。
ロンダール迷宮は先日、第十層をクリアしたことにより、連日お祭り騒ぎだった。
この前は討伐隊の踏破記念の打ち上げパーティに誘われたので参加したりしていた。
第十層は綺麗な桜の大樹がある階層だった。その桜の下で、花見をしながら打ち上げパーティをしたんだ。
『アキが桜の木の下に何かあるかもって言ってくれただろ? それが本当にあったんだ!』
この桜の大樹こそがフロアボスとして探索者たちの行手を阻んでいた相手だ。
この話を聞いて桜の木の下には死体が埋まっているなんて話を思い出して、何気なく僕が口にした。
それをヒントに彼らは桜の攻撃を避けつつも、根元の地面を掘り返してみたんだって。
そして彼らは見つけたんだ……。死体――ではなく桜の木に寄生した虫を!
……そう、真のフロアボスはこの寄生虫だったわけだ。
その本体である寄生虫を倒し、彼ら無事に第十層を踏破したのだ。
まぁ、ここまでは別に良いんだけど……。
「こんにちは、店長様!」
その踏破に僕の話が一役買ったので、最近店舗を訪れる探索者たちならは羨望の眼差しを受けることが多くなった。
……いや、僕はちょっと助言をしただけですからね?
「納得をしていない顔をしているな、賢者殿」
「その呼び方、やめて下さい……アイリスさん」
からかってきたアイリスさんを僕は睨む。
一部の探索者たちは僕のことを賢者様だなんて呼ぶ。
……僕はただのしがないコンビニオーナーだよ!
確かに英雄や勇者と呼ばれてみたいなって思ってはいたけど! こんなことで賢者扱いされても恥ずかしいだけだって!
「アキさんの助言が的確だったので、仕方ないかと」
隣で業務連絡に来ていたハートンさんが苦笑していた。ちなみにハートンさんはまだ迷宮騎士を続けている。
『僕の盾が必要な人が……たくさんいるみたいですから』
ジャックライダーに戻ることも考えたそうだけど、迷宮騎士の仕事にもやり甲斐を見つけていて、続けたいと思ったらしい。だから必要とされた時だけ、パーティに戻ることにしたそうだ。
「僕が知っていた話が偶然、状況と当てはまっただけです。運がよかっただけですよ! それにこの話は僕の国では誰だって知ってますから!」
そう、偶然だ。たまたま、当てはまってしまっただけなんだ。日本人なら誰でも連想するような話だから、きっと日本人なら全員賢者になれるよ。
「……確かにハジメの知識は元の世界で培われたもの。あんたの世界ではそれらの知識は普通なのかもしれないわね」
いつの間にか、ココさんが来店していた。
ココさんは漫画などを通して、僕がいた世界を少し知っている。だから僕が言っていることにも理解してくれたようだ。
「そうですよ……だから僕は特別でも何でもない普通の人で――」
「でも、ここにいるのはあんたよ。他の誰でもなく、ハジメなの」
ずいっと、ココさんが僕に近づいて、下から見上げてくる。初めて会った時もこんな感じでジロジロ見られたけど、今は真っ直ぐにその気の強い桃色の瞳で僕を見ていた。
「それを特別と言わないで、なんて呼ぶのかしらね?」
「……そう言われましても」
「もう……運命に選ばれたとでも思って、胸を張りなさいな」
運命に選ばれたかぁ……。そういえば僕って、優秀なコンビニ店員だったから、選ばれたんだっけ?
まったくの無作為に選ばれた訳じゃないことを思い出した。
……そうだよな。僕って選ばれて来たんだった。もっと優秀で、天才な人は他にいただろうに、選ばれたのは僕だった。ハートンさんには偉そうにああ言ったのに……ちょっと恥ずかしくなった。
「……そうですね。運命に選ばれたと思っておきます。ありがとうございます、ココさん」
「ふん! このあたしが認めてやってるのよ。いつまでもそんな調子じゃ困るのよ」
ツンケンした態度でそっぽを向いたけど、僕のことは認めているらしい。
「認めるって……僕何かしましたっけ?」
「そうよ、そうだったわ! あのね、フジカの魔法の再現、出来たのよ!!」
「えっ、本当ですか!?」
「フロアボス戦であと一歩ってところまで来ていたのよ……それがついに完成したのよ!」
「すごいじゃないですか!」
「あたしがすごいのは当然よ! でも、あんたのおかげでもあるのよ……ほら、アドバイスをしてくれたから!」
腕を組んで自信満々に、ココさんはそう言った。
「あぁ、それはたまたま僕が覚えていただけですよ」
「……それでもきっかけをくれたのはあんたよ」
まったく……とココさんにため息をつかれてしまった。
……人間の意識ってなかなか変われるものじゃないよ。いきなり僕が、僕の手柄だ! 僕が居たおかげなんだ!って思う方がどうかしてるよ。
まぁでも、今までよりは受け入れられていると思うよ。
「じゃあ今度、僕が手伝ったその魔法を見せてくださいね。フジカ先輩の再現魔法は気になっていますし」
「……もちろんよ!」
僕の言葉に、ココさんは自信に満ちた笑みで応えてくれた。
「ココさんの魔法……フロアボス戦でも凄かったんですよ」
「当然よ。そういうハートンも、あの盾使いはなかなか良かったわよ」
「ほう……それは見てみたかったものだな」
アイリスさんの言葉に僕は同意した。
ココさんもハートンさんもフロアボス戦で活躍したらしい。討伐隊の中で飛び抜けて優秀だったのはココさんと、ハートンさんを含めたジャックライダーたちだったとの話だ。
そんなふうに四人で話していたら、入店音が鳴り響いた。
「アキー! 第十一層のことで相談がある!」
「アキくんいるかい? ちょっと冷たい飲み物ちょうだい! カイオスもいるだろ?」
「……ああ」
「アタシはアイスがいいわね〜」
そこには第十一層攻略に乗り出していたジャックライダーの面々がいて、さらには……。
「アキナイ様〜! 商品補充に来ました! あとソフトクリーム下さいにゃ〜!」
ロウシェさんまで続けて入ってきた。
僕は新たに入店した彼らに向かって、いつものように出迎えた。
「いらっしゃいませ! ようこそ、スマイルストアへ!」
十層クリアのここまでで一区切り、と言ったところです。
一先ずここまでお読みくださり、ありがとうございました! ブクマや評価、感想なども本当にありがとうございます! とても励みになりました!
またほのぼのとしたコンビニ日常に戻りつつ、更新は今後も続けていきますので、引き継ぎよろしくお願いします。




