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40.迷宮ドライブRTA③

 その後カーナビの案内の元、隠し通路を抜けて第七層へ。

 ここも雨が降る階層だった。しかもどんどんと暗くなって不気味になっていく。この階層には飛び回る鳥のモンスターが居て、攻撃が当てづらくて面倒らしい。


 まぁ僕らは極力モンスターとの戦闘はしないで突っ走っているから、どれだけ大変なのかも分からないんだけどね。これができるのも、モンスターと出会っても時速100kmで逃げられるからだ。


 そう、例えば大型の怪鳥に追いかけられてもだ!


『この先、怪鳥の縄張りです。ご注意ください』


「……は?」


 そんな『この先、踏切があります』みたいな感じで言われても!!


 カーナビから音声案内が聞こえたと思ったら、次の瞬間には怪鳥が飛んできていたんだ。


「ハジメ殿、ここは私が――」


「いえ、このまま振り切ります。ダメそうならアイリスさんに任せますので……」


「……分かった」


 アイリスさんの返事を聞いてから、僕はアクセルを踏み込んだ。


 移動販売車は普通こんなことはしないだろう。何せ荷台に乗せた商品に影響を与えてしまうかもしれないから。

 でも今は荷台には商品は載せていない。空の状態だ。少しでもスピードが出るように倉庫に移したんだ。


 だから遠慮なく、スピードを出せるんだ。


「揺れますからちゃんと掴まっててくださいね!」


 怪鳥とのカーチェイスなんて、スリリングだった。

 危うく鉤爪で軽トラごと持ち上げられそうになったけど、なんとかその前に逃げ切れた。攻撃は効かないけど拘束とかは効くからね……危なかった。


 こんなふうに車を走らせたのは初めてだったけど、意外となんとかなるものだね。


「まさか怪鳥をあんな簡単に振り切るなんて……ハジメ殿はこの車とやらの運転が上手いのだな?」


「そうですか? わりと普通だと思いますよ」


 プロのドライバーとかではない、ただのしがないフリーターだったんだ。運転は確かに自信はあるけど、普通だと思う。


「ハジメ殿の普通は当てにならない気がするんだが?」


「そっくりそのまま返しますよ」


 そういうアイリスさんの普通も当てにならない時がある気がするよ……。


 だってアイリスさんが怪鳥相手に一人で立ち向うつもりみたいだったし。絶対あれ、一人で倒すようなモンスターじゃないって……。


 今回は出来るだけ先を急いでいるから、戦わない選択をしてもらった。


「それにしても、なんだったんですか、あれ」


「このフロアにいる主だ。あいつが厄介な存在で、長らく七層の攻略を邪魔していた」


 ちなみにあの怪鳥を初めて倒したのはココさんなんだって。ココさん、やっぱり優秀な魔法使いだったんだね。


 あの怪鳥はフロアボスのようなものではなく、ただ単純に強いだけのモンスターらしい。

 パーティによっては出会えば全滅間違いなしとすら言われているそうだ。縄張りに入らなければ襲われないことが今では分かっているから、遠回りすれば安全だ。


 ……僕たちは最短ルートを突っ走ったから襲われたんだけどね。いや、最初から知っていたら突っ込まなかったよ。

 カーナビの案内の通りに進んだら縄張りに突っ込んでしまったんだ。便利な案内だと思っていたらとんだ罠を踏まされたよ……。


 それでも怪鳥の縄張りを通り抜け、ついにあの第八層にたどり着いた。噂通り、虫だらけの階層だった。


 対策はすでにあるし、車に乗って通れば問題ないから……実は特に苦労はしなかった。

 転移陣の前にいたやたらと硬いカブトムシみたいなモンスターが少し厄介だったくらい?


 車で跳ね飛ばして強行突破した。……うん、この頃にはもうモンスターを跳ね飛ばすのが、当たり前のようになっていた。安全運転なんてしていたら、こっちが危険に晒されるよ。


「なぁ、ハジメ殿。やはり普通ではないよな?」


「……うん。僕もちょっとそう思ってきた」


 第九層に着いた時に道中を振り返ってみた。

 ……やっぱり普通じゃなかったかもしれない。


 そして僕らは第十層に続く転移陣の近く、現在の攻略前線基地に到着した。テントが設営されているだけの、仮設の基地だ。


「な、なんだあれ!?」


「新種のモンスターか!」


「待て、おいあれって……コンビニの店長じゃないか!?」


 到着した僕らを出迎えてくれた討伐隊の探索者たちにはまず警戒され、武器を構えられた。

 でもすぐに運転席に座る僕達の姿に気づいた瞬間、驚いた表情をしていた。


「アキー!」


「ハジメ!!」


「あ、デイヴィッドさん、それにココさんも」


 デイヴィッドさんとココさんが慌てた様子で駆け寄ってきた。もちろんその後ろからジャックライダーの他のメンバーも来ていた。


 見たところ、疲れ切っている様子だったけど、特に怪我とかはしてない様子だ。


「どうしてアキがここにいるんだ? それにその乗り物はなんだ?」


「もしかして"車"ってやつ? マンガで見たことがあるわ! まさか実物が見られるなんて!!」


 困惑するデイヴィッドさんに対して、ココさんは目をキラキラさせながら移動販売車を見ていた。……なんだか僕がこの世界で初めてゴブリンや魔法を見た時のような反応をしている。


 ココさんはマンガを読んでいるから、僕の世界の情報のことが少しわかるんだよね。時々、これはなんなのかとマンガを手に聞きに来ることもあったし。


「この車でアイリスさんと一緒に来たんですよ。新鮮な食品を届けるために」


 僕は荷台の商品棚を広げ、パソコンを操作して商品を陳列していく。数秒で店内と変わらない品揃えの商品たちが、棚に並んだ。


「いらっしゃいませ。ようこそ、出張スマイルストアへ!」


 ロンダール迷宮第一層を出発してから一週間。

 僕は第九層にて、いつものようにお客様を笑顔で出迎えた。


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