39.迷宮ドライブRTA②
翌朝、再び僕たちは車に乗り込み、第六層に向かった。
第六層から迷宮の難易度は跳ね上がるらしい。
また樹海のような森が広がっていたけど、出てくるモンスターは比べ物にならないほどに強そうだった。
例えば、道中では大型の鶏を見かけた。そいつはコカトリスだったんだ。
コカトリス……こいつには嫌な思い出しかない。別にくちばしで突かれて石化したわけじゃない。
こいつの卵に苦しめられたんだ!
ある探索者がコカトリスの卵を、電子レンジに入れやがったんだ。
そう、電子レンジの中に卵を、だ。ゆで卵を作りたかったらしい。
――案の定、コカトリスの卵は大爆発した。
幸い電子レンジは壊れなかったけど(多分魔導具になったから耐久性が向上している)、卵の処理が大変だった。爆発の影響で電子レンジの蓋が空いて、卵の大爆発が外まで飛び散ったのだ。
コカトリスの卵は両手で抱えられるほどだ。ダチョウの卵より大きい。そんな卵が大爆発してみなよ? コンビニの一角が黄身だらけになったよ。もはや黄身の大洪水。掃除がクソ大変だった……。
そういうこともあって僕は電子レンジの常設もやめたんだ。もっとヤバいものを入れられたら怖かったし……。
まぁ、コカトリスの卵もおいしかったからゆで卵にして食べたかった探索者の気持ちも理解したけどさ……。
コカトリスの卵を使ってチャーハンをしてみたんだよね。商品にあるパックご飯とチャーハンの素を使って。焚き火で作るのはなかなか難しかったけど、おいしくできた。
アイリスさんもおいしいと言ってくれたんだけど……。
「やはり、この形で食べるのが一番おいしいな」
最終的におにぎりチャーハンにして食べていた。……確かにおにぎりの一つとして、おにぎりチャーハンは売っていますけども!
おにぎりに対してのこだわりが垣間見えた……。さすがおにぎりの騎士と言うべきなのかな……?
そんな第六層には隠し通路があったので大幅に移動時間をカットできた。
「こんな道、私は知らないんだが」
「そうなんですか? カーナビのルートとして載っているんですが……」
「いや、待て。思い出した。確かに第六層にはそういう噂があったな……」
つまり噂の存在だった隠し通路が、カーナビにまで載っていたのか……。
「探索者たちもこの道は知らない……?」
「それは分からないな。自らの利益の為に知っていて秘匿する探索者もいる。この道も誰かがすでに見つけていたかもしれない。それに出所がなければ噂なんてものも、たたないだろう?」
「確かに、それもそうですね……」
地図というものは基本的に人が記録するものだ。元の世界のカーナビだって人が情報収集したものを映している。
このカーナビに映る迷宮の地図はクローバー商会が販売している案内図とそこまで変わらない。だから、もしかしたら探索者たちが見つけた情報が反映されているのかなと思う。
なにせ、第八層や第九層の地図には一部見えない場所もある。きっと誰も踏み入れていないから、地図に載ってないんだろうね。
「待て、車を止めてくれ!」
アイリスさんが急にそう言ったので、僕は慌ててブレーキを踏んで車を止めた。
「どうしたんですか、アイリスさん?」
アイリスさんは車の外に出た。僕も彼女の後に続いて外に出る。アイリスさんは来た道を戻るように少し歩くと、ある木の洞を覗き込んでいた。僕も覗き込んでみたんだけど、そこにあったのは……。
「アイリスさん……これって」
「ああ、探索者の遺骨だ」
そこにあったのは人の骸骨だった。衣服は探索者が着ているようなもので近くには武器もある。でも、どちらも朽ちていた。
「迷宮探索中にこの隠し通路に入り込んで、ここで力尽きたのだろうな。装備の劣化具合からして数年前か……」
やっぱり、僕の予想は合っていたみたい。でも、まさかここで発見者が力尽きているなんて思わなかった。隠し通路だから、今まで誰にも見つけてもらえなかったんだろう。
「すまない、少し迷宮騎士としての仕事をしていいか?」
「もちろんですよ」
アイリスさんは遺骨を回収していた。身元が分かるものとして迷宮証を見つけたから、この人の身元は後で分かりそうだ。
「なぁ、この遠征が終わった後でいいんだが、このカーナビとやらに載っている地図を我が騎士団に共有して欲しい。他の階層にもこうした隠し通路や隠し部屋があると思うんだが、そこに今回みたいな行方不明者がいるかもしれないから」
「ええ、構いませんよ」
たぶんこういうケースの行方不明者は他にもいそうだからね。
「はぁ……肉体が残っていたら、蘇生ができたのだがな」
この世界、実は蘇生魔法がある。だから病気などではない外的要因による怪我などで死んだ場合は、蘇生魔法で生き返ることができるんだ。
だから迷宮騎士団は行方不明者が出ると捜索に動く。死んでいても、まだ助かる見込みがあるかもしれないから。
「魔法ってすごいですね。僕の世界じゃ蘇生なんてできないので……」
「そうなのか? お前の世界の技術は進んでいるからできると思っていたが……」
「死ぬ前ならなんとかできないこともないですが、一度死んでしまうとどうしようもないですね」
医学の発展で平均寿命は伸びたとはいえ、さすがに死んだ者が生き返ることはない。
「凍結箱があるからてっきりできると……」
「待ってください。なんでそこで冷凍庫が出てくるんですか?」
「あれは遺体運搬用に発展した技術だ。お前の世界ではそうではないのか?」
「いや……たぶん、違いますね……」
確かに冷凍庫による冷凍保存がいいけれども、それは魚や肉の保存のためであって、けして人間用ではなかったはずだ……!
「あっ、もしかして稀に棺桶を背負っている探索者を見たんですけど……」
「遺体回収屋だな。私たちよりも専門に遺体回収を請け負っている。担いでいる棺桶は遺体保存用の凍結箱だ」
マジかっ! ゲームでよく見る棺桶を引きずっているみたいなものだとかって思ってたけど、そういうことだったの!?
でも、そうか。確かに理にかなっている。遺体が腐敗しないように冷凍保存できる棺桶型の冷凍庫……いや凍結箱が広まったんだろう。あと凍結箱って神器ではない、普通の魔導具みたいだね。
遺体は〈魔法鞄〉には収容できないからこの方法が一番いいらしい。
これはモンスターも同じらしく、切り分ければ入るけど、蘇生はできなくなるそうだ。
ちなみに遺骨は入るからさっき回収していた探索者の遺骨はアイリスさんの〈魔法鞄〉に仕舞われている。
また一つ僕はこの世界について知ることができた。
……出来ればその世話にはなりたくないけど。




