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34.説得した結果

「うわっ、えっ、なんで!?」


 扉を開けた瞬間、ハートンさんが慌て、姿を隠すように置いてあったテーブルの下に逃げた。……そんなことしても遅いし、その巨体は隠せてないですよ……。


「すみません、今大丈夫でしたか?」


「問題ない。引き継ぎなら今終わったところだ」


 アイリスさんがちらりとデイヴィッドさんたちを見て、心得たように頷いた。

 デイヴィッドさんもアイリスさんに会釈を返してから、ハートンさんの所に向かった。


「ハートン、久しぶりだな」


「あ、はい、リーダー……じゃない、デイヴィッド……お久しぶり、です……」


「おいおい、堅苦しいな。俺たちは幼馴染だろ?」


 デイヴィッドさんは目線を合わせるように片膝をついていた。……まるで巣穴から怯えて出てこない獣を相手にしているみたいだ。


「今日は頼みがあって来たんだ。……盾役(タンク)のお前の力が必要なんだ、パーティに戻って来てくれないか?」


「い、今更、僕の力なんて必要ですか……? 声、聞こえてましたよ。九層クリアおめでとうございます……。僕がいなくても九層をこんなに早く、クリア出来るんですから、必要ないんじゃないですか?」


「……まぁ、確かに九層では必要なかったんだが」


 あ、今言葉の刃がハートンさんの心に刺さった音がした気がした!

 ハートンさんがさらに落ち込むように床を向いてしまった! 何やってんの、デイヴィッドさん!!


「ちょっとデイちゃん!」


「あっ、悪い」


「いいんです、デリカ姉さん……。だって本当のことなんでしょう?」


「……そうよ。でも言っておくとね、実はハーちゃんが居なくて大変だったのよ?」


「……えっ?」


「だってハーちゃんが居れば防げていた怪我を、アタシが治してたのよ? なんだったらハーちゃんが戻ってきたら、アタシのほうが必要なくなっちゃうわね〜? だってハーちゃんが全部守っちゃうもの」


 デリカさんが少し戯けるように笑っていた。


「そうそう。ハートンが居れば楽だった場面は今まで何度もあったんだよ」


「……いたほうが、よかった」


 ベルナールさんの言葉にカイオスさんが頷いて。


「次はフロアボスに挑みに行く。……何が起こるか分からないから、盾役(タンク)のお前にも一緒に来て欲しいんだ」


 デイヴィッドさんたちの言葉に、ハートンさんが少し顔を上げた。


「あと八層も九層もクリアできたのは、殆どコンビニ商品とアキのおかげだぞ」


「あはは、確かに、この店の商品とアキさんは凄いですからね……」


「いや……僕は違いますから」


 僕は凄くないですからね? 僕は何の能力もない、至って普通の一般人ですからね?

 なのに何故かデイヴィッドさんとハートンさんは揃って頷いているし……。


「あの、部外者の僕が言うのも何ですが。ハートンさん、あなたの力は認められているから、今勧誘されているのだと思いますよ。考えてみてください、九層をクリアするほどの彼らが必要としているんです。……それは幼馴染だからとかそういう理由ではないと思います」


「アキさん……」


 アイリスさんに聞いたのだけど、八層に実力が足りない探索者たちが行き着いてしまったらしい。

 コンビニ商品は便利だけど、そういう人たちの実力にも、下駄を履かせてしまったみたいだ。

 ちなみに現在は六層を自力で突破できるような探索者じゃないとその先はコンビニ商品があっても難しいというのが、探索者たちの共通の認識になりつつあるから、事故率は下がっているという。


 実力がなければどんな道具があろうと、結局はどこかで躓いて頭打ちになるわけだね。

 対してデイヴィッドさんたち【ジャック・ライダー】はそうではない。きちんとした実力を持ちながら、コンビニ商品をうまく使っている。鬼に金棒とはこのことだろう。


 そんな彼らが、ハートンさんを必要としている。

 実力がなければ便利な道具があってもダメな迷宮の、最奥の攻略に誘っているわけだ。

 ハートンさん自身の実力がなければ、そんな勧誘なんてしないだろう。


「ハジメ殿の言う通りだ。ハートン、お前なら大丈夫だ」


 アイリスさんが同意するように力強く頷いてくれた。僕は探索者じゃないから実力差をよくわかってないから不安だったけど、アイリスさんが頷いてくれたから間違っていなかったみたいだ。


「おい、ハートン! あの騎士団最強の騎士がああ言ってるんだぜ?」


「……お前の実力は認められている」


「う、うん……」


 ベルナールさんとカイオスさんにもそう言われて、やっとハートンさんが机の下から出て来た。


「わ、分かりました。僕、行きますよ」


「ハートン、本当にありがとう! お前が戻って来てくれて嬉しいよ!」


 良かった……。実はハートンさんのこと少し気にしていたんだよね。パーティに戻れなくても、わだかまりを解消できたら……と思っていたけど、これなら大丈夫そうかな。


「それにしても、アイリスさんって……最強の騎士なんですか?」


「いや? 周りが勝手に言っているだけだが……」


「アキ、鵜呑みにはしてはいけないよ。アイリスさんは六層までソロ踏破しているんだ。今のところ探索者でもそれが出来るのは少ないほうなんだ」


 ……やっぱり、とんでもない実力者じゃないですか!?

 ちなみにデイヴィッドさんたちもソロ踏破出来るらしい。……さっき六層を自力で突破できるパーティ云々って言ってたけど、最前線の攻略組はさらにその上を行くらしい。


「出来ればアイリスさんにも次の討伐隊に来て欲しいんのだが……」


「悪いが私は探索者ではない。迷宮攻略をするのはお前たちの役目だ。私は迷宮騎士として治安を守るのが役目で、それを信条としている」


「……そうだったな。すまない」


 残念そうにはしていたけど、デイヴィッドさんはすぐに下がった。アイリスさんは騎士としての役目を信条としているようだ。だから探索者とは、はっきりと線引きをしていた。


「あ、どうしよう! 僕も迷宮騎士だから迷宮攻略はできないんだった……」


「……ハートン、お前は今度休暇を取れ。休みの日だ、プライベートで何をしようが問題はないだろ?」


「え、あっ……確かに、そうですね?」


 ……その割にはアイリスさんはこういう機転が効く人だ。融通が全く効かない人ではないみたい。僕もそれで助かったわけだけど。


 その後、デイヴィッドさんたちと勤務が終わったハートンさんは一緒に地上まで帰っていった。久々に幼馴染が揃ったからか、楽しそうにしていたよ。


「討伐隊、うまく行くといいですね」


「……あぁ、そうだな」


 ……アイリスさんが少し不安そうな顔をしていた。

 アイリスさんは騎士として攻略に参加することはしない選択をしたけど、やっぱり不安みたいだった。

 僕も不安がないわけじゃない。

 ……ただ僕に出来ることはもっと少なくて、いつものように、コンビニ商品を売ることしか出来ないんだよね。

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