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28.大遠征するらしい

「店長ー! 蚊取り線香切れたので補充お願いしますー!」


「栄養バーも尽きかけてますので、よろしくお願いします!」


「はーい、了解したよ!」


 デイヴィッドさんたち【ジャックライダー】が第八層を攻略してからしばらくは、またコンビニの店内は忙しなかった。

 三年も止まっていた第八層をようやく踏破したパーティが現れたのだ、それに続くように攻略を諦めていたパーティたちが動き出したのだ。

 今や連日第八層攻略に向けて準備をする探索者パーティがこのコンビニを訪れている。

 ちなみに攻略された後から商品の大量購入の制限に関して緩和された。


「ありがとうございます、迷宮証はお持ちですか?」


「はい、持ってます!」


 店員の言葉に、お客様の探索者は鉄製のカードを取り出してみせた。そのカードにバーコードリーダーをかざせば、カードに刻まれた探索者の情報を読み取りレジに映される。


 迷宮証と言うのは探索者の身分証のようなものだ。いわゆる冒険者にとってのギルドカードみたいなものだろうね。

 そのカードには持ち主の名前や所属するパーティ、踏破した迷宮の階層などが刻まれている。

 それは迷宮を出入りする際に提示してもらい、迷宮内にいる探索者の数を把握したりするのに使われるようだ。長期に戻らない探索者は行方不明者扱いになり、迷宮騎士団の捜索対象にされるのだとアイリスさんが教えてくれた。


 その迷宮証を……なんとレジは読み取ることができたのだ!

 元々電子カードを読み取ったりはできたけどまさかこっちの世界のカード情報まで読み取ることができるなんて思わなかったよ……。


 でもこのおかげでどの探索者がどんな商品を買って行ったか記録が残るようになった。最近はなくなりつつあった転売屋も、これのおかげで完全に一掃できそうだった。

 だから購入制限に関しても緩和できるようになったんだ。

 八層攻略に向けて大量買いが必要だったから、このタイミングでの規制緩和は探索者たちにとっては嬉しかったようだ。


「いや〜、繁盛してますね〜」


「ロウシェさん。いらっしゃいませ」


 バックヤードで補充を終わらせた時、店内にロウシェさんがいた。


「実は我々のほうも売り切れが続出しておりまして……追加の商品入荷をさせてもらってもいいですにゃ?」


 どうやらクローバー商会に任せている商品も片っ端から売り切れているらしい。いつもなら朝だけ商品を取りに来るのだけど、それだけだと足りなくなったようだ。


「もちろんですよ」


「ありがとうございますにゃ〜」


 猫の尻尾を振りながら、にっこり笑顔で礼を言うロウシェさん。……彼女は語尾に『にゃ』と付けるけど、常に付けているわけじゃない。

 今まで接した感じを見るに商談の話やお願い事をする時につけている。……自分の武器を分かって使っているんだと思う。つまりロウシェさんの『にゃ』はビジネス『にゃ』なんだ。実にあざとい。本当、商人として油断できない人だなぁ。


「いやはや、以前から探索者たちのやる気はこのコンビニのおかげで上がっているとは感じていましたけど、八層踏破の影響がここまで強いとは思いませんでしたよ〜」


「ああ、私たち騎士団にとっても予想以上だ。もしかしたら、大遠征の日程が早まるかもな」


「大遠征……?」


 聞き慣れない言葉に、僕は首を傾げた。まぁ、異世界に来てから聞き慣れない言葉なんていっぱいあるんだけど。


「大遠征とは我々迷宮騎士団が行う迷宮攻略だ。少し前から八層攻略に向けて準備をしていた」


「騎士団の皆さんも迷宮攻略するんですね?」


「当然だ。我々の使命は迷宮内の秩序と治安維持だ。第九層まで探索者たちの活動範囲が広がったなら、我々も赴かねばならない。探索者が道を切り拓く者たちなら、我々迷宮騎士団とはその切り拓かれた道を守るのが仕事だからな」


 探索者たちと違って、迷宮攻略をしないのが迷宮騎士団で、代わりに迷宮内の治安維持をする。

 確かに最下層付近で何か事件があった時に、騎士団が駆け付けられないというのはよくない。


「私も第一陣として大遠征に参加するんだ」


「そうなんですか……なら、しばらく会えなくなりますね」


 ジャックライダーが八層攻略に掛かった時間が三週間だ。だからアイリスさんともそれくらい会えなくなると思う。


「なに、すでに探索者たちが効率のいい攻略の仕方を編み出してくれた。だから一週間もあれば終わるはずだ」


 そっか、探索者たちの後追いになるから情報が出揃った状態で攻略ができるのか。


「すごいですね……探索者って……」


「いや……これもコンビニの商品のおかげなのもあるからな?」


「うんうん、この店は万能雑貨店ですにゃ」


 そうなんだろうか? 最近よく万能雑貨店と言われるけど僕にはいまいちピンと来ていない。

 だって僕の世界ではどれも身近にあった商品ばかりだから。まぁコンビニの商品に実はすごい効果があったとしても、普通の人である僕にできることは変わらない。

 いつもの通りに、接客をして、商品を売っていくだけだね。



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