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19.品揃えは完璧に

「いらっしゃいませ! ようこそ、スマイルストアへ!」


 黄色いスマイルストアの制服に身を包んだ四人がそれぞれ声を出して、お客様を出迎えていた。

 うんうん、見た感じ僕が教えた通りに上手く働いてくれているね。

 彼ら四人はクローバー商会から派遣されてきた販売員たちだ。研修と称して今はスマストで働いてもらっている。


 クローバー商会と業務提携し販路を拡大したおかげで、思った通りこの店の客足は少なくなった。

 だけどそれでも毎日店に溢れるくらいのお客様は来るから、クローバー商会からの人員がいなかったら、この店はパンクしていたかもしれない。


 さすが販売員と言うべきか、接客は特に教えなくても完璧だった。僕が教えたのはレジの使い方と、よく売れる商品の説明くらいだ。

 他の商品に関しては、僕が実際にお客様に説明する傍らで学んでいってもらっている。今も二人がレジを捌いており、一人は商品説明をお客様にしており、もう一人は僕の接客を見ながら商品の詳細や使い方を覚えていた。


「よぉ、アキ! 繁盛しているな!」


「やっほー、アキくん!」


「あ、いらっしゃいませ。デイヴィッドさん、ベルナールさん。それからカイオスさんも」


 そこにはこの前来てくれたジャックライダーの四人がいた。……あれ、一人多い?


「まぁ! ここがデイちゃんたちが言っていたお店なのね!」


 白い神官みたいな服を着た、背が高くてムキムキな男の人が一人増えていた。……そう男性だ。髪が長くて化粧もしていて女性っぽい話し方もしているけど、その人は男性だった。つまり、この人はオネエさんだ!


「アキ、紹介しよう。彼女(・・)は俺たちの仲間の一人、デリカだ」


神官(ヒーラー)のデリカよ〜! よろしくね〜」


「春夏冬 始です。どうぞよろしくお願いします」


 デリカさんと僕は握手をした。やっぱり力強かった……筋肉は飾りじゃないみたい。


「やだ、アキちゃんって聞いていた通りに可愛いわね〜」


「アキはこれでも成人済みらしいからな?」


「うっそ? マジで!?」


 デイヴィッドさんの言葉にベルナールさんが声をあげて驚いていた。デリカさんとカイオスさんも驚いている。

 僕がアイリスさんに年齢を言って以来、それが騎士団の中に広まり、そして探索者まで広がった。

 デイヴィッドさんもその噂を聞いていた様子で、前回子供扱いしたことを謝ってくれた。……そんなに子供扱いされていたかな? まぁいいか。


 ちなみに前回デリカさんが来なかったのは、単なる寝坊らしい。


「こんな店だって聞いてたら、アタシだって来ていたのに! なんでちゃんと起こしてくれなかったのよ、もう!」


「寝ているお前を起こせるような奴は勇者くらいしかいないだろうな……」


 デイヴィッドさんの言葉にベルナールさんとカイオスさんが頷いていた。……どうやらデリカさんを起こすことは魔王を倒すこと並に難しいらしい。

 実際、神官にしては筋肉がすごい。武器だって鈍器の重そうなメイスだ。後衛で待機しているようなタイプではなく、前衛で殴り倒すタイプの神官みたい。


「あら、これが噂の異世界の聖水ね? すご〜い、ちゃんと浄化してくれているわ〜!」


 ……消毒液、神官からも聖水扱いされてしまった。もう異世界の聖水ってことで売り出して行こうと思う。説明が面倒だし。


「そういえば、品揃えが少し変わったな?」


「ええ、お客様が探索者しかいないので、探索者向けの商品に少し入れ替えました」


 置けなくなった雑誌コーナーは今はクローバー商会から入荷した矢やポーションなど、この世界特有の商品棚に変わっている。

 僕はここを現地商品コーナーと呼んでいる。あとは電子カードとかあったスペースを詰めて、衣服や探索者が使えそうな品物を増やした。


「ほう、これはランタンか?」


「ええ。ちゃんと電池式のLEDランタンですよ」


「これって紙の皿とコップ? しかもフォークやスプーンまで大量にある……」


「それらは使い捨ての食器ですね」


「洗う必要がない食器とか便利じゃん」


「ねぇ、アキちゃん。これって何?」


「除菌ウェットティッシュですね。……まぁ簡単に言えば聖水を染み込ませたティッシュです」


「やだ! 手軽に浄化できちゃうの!? アタシの立場なくなっちゃうじゃない〜!」


 立場がなくなると言う割には嬉しそうな黄色い声をあげているデリカさん。……ずいぶんと野太い声だけど。


「リーダー、これは全部買うべきだ……」


「そうだな、カイオス」


 前回と同じように、買い物カゴに次々と商品を入れていくジャックライダーの皆さんだった。

 さらに大量の水と、カップ麺、レトルト食品、缶詰など長期保存が可能な食品ばかりを入れていく。

 まるで防災対策するかのようだ。


「えっと……どうして非常食ばかり入れているのですか?」


「ああ、実はこれから八層を完全攻略しに行こうと思ってな」


 話には聞いていた。彼らジャックライダーは最前線で活躍する攻略組の探索者パーティだと。

 現在このロンダール迷宮の最深層は第八層だ。そこまで行くのに二週間もかかるらしい。第五層の地上との直通転移ポータルを使ってもそれなのだ。

 ただ、彼らは〈転移石〉があるからすぐに八層に行けるという。でも、そこから八層攻略だけを見ても一ヶ月はかかる見込みらしいよ。

 探索者たちが長期で迷宮に潜るということは、こういうことなんだね。


「それなら栄養バーとエネルギーゼリーもあってもいいかもしれないですね」


「ほう、そんなものもあるのか」


 カップ麺やレトルト食品では失いがちな栄養をこれで補給できるだろう。


「あとはプロテインもありますよ。筋肉を作るのに最適な栄養を補給できます」


「筋肉ですって! まぁ素晴らしいじゃない! カイちゃんもそう思うわよね!」


「……ああ」


 プロテインの話をしたらデリカさんとカイオスさんの目が輝いた。……二人とも筋トレがご趣味ですか?


「なら、それも買うとしよう」


「えー……これ以上あの二人に筋肉付いたら嫌なんだけど。特にデリカに」


「やだ、ベルちゃん! 筋肉は美しいのよ? 美しさは磨いていないと衰えていくだけなのよ!」


 デイヴィッドさんも、不満を言っているベルナールさんでさえ、体格はしっかりとしているから、探索者というのは総じてそうらしい。

 ……ちょっと僕も筋トレしようかな。せめてゴブリンは倒せるくらいに。


 他にも乾パンや羊羹、ミックスナッツやドライフルーツなども教えておいた。


 ちなみに僕が商品説明をしている傍らではもちろんクローバー商会の販売員さんが熱心にメモを取っていた。……そのメモ帳とボールペンはうちの商品だったものだ。

 ロウシェさんはめざとくて、日用品コーナーにあった筆記用具や事務用品を買っていったよ。さすが商人だ。あとトラヴィスさんもその辺りを買っていたかな。


「普通の食品でもすごいなって思ってたけど、保存食にもこんなに選択肢があるなんて……」


「アキの世界の人たちも、長期間遠征することがよくあるのか……?」


「いや……単純に技術の発展の結果かと」


 ここまで至るまでに二度の世界大戦があったりだとか、度重なる大災害で必要になったりだとか色々と重なって現代の保存食に繋がっているのだと思う。中には宇宙食にもなっているものもあるし。

 現代においては冷蔵庫があり生鮮食品でもある程度保存は効くし、冷凍食品だってある。

 ただいざという時、それらは非常食にはならないことをよく知っているから、保存食をローリングストックしている家庭も多いことだろうね。僕も非常食はストックしていたよ。

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