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13.ただのコンビニです

 ジャックライダーの三人組は手を消毒した後、コンビニの店内へ入った。

 入ってすぐ横の日用品コーナーが気になったのだろう。彼らはそちらに向かっていく。


「ほう……これはなんだ? なにかの魔導具っぽいが」


「それは懐中電灯ですね」


「懐中電灯……?」


 見せたほうが早いか。その商品……ではなく店の備品にとして置いてある懐中電灯を持ってきた。


「こうやってボタンを押すと、明かりが付くんですよ」


「……! 明かりの魔導具だったのか!」


「いえ、魔導具ではないですね」


「そうなのか……?」


 手にしていた懐中電灯をデイヴィッドさんに手渡す。彼は明かりを付けたり消したりしながら、懐中電灯を確かめていた。


「確かに……魔導具ではなさそうか」


「にしてもすごいね。こんな高そうなものも売ってるんだ?」


「いえ1300ギールなので、そこまで高くはないかと……」


「え、これが1300ギール!? この性能なら5万ギールはいくでしょ!?」


 デイヴィッドさんとベルナールさんが揃って手元の懐中電灯をじっと見ていた。


「リーダー、これ安いし買ってみない? 許可はもらってるしさ。それに八層の暗黒森林地帯で使えそうだよ?」


「…………そうだな」


 二人は何やら相談して懐中電灯を買うことに決めたようだ。……許可とか暗黒森林とかよくわからないことを言っていたけど。


「ありがとうございます。ちなみにその懐中電灯は電池式なので、電池が切れたら入れ替えてください」


「電池……?」


 僕は懐中電灯は何で動くのかを説明したら、さらに二人は驚いていた。


「そっか、魔導具じゃないから魔力が切れたら魔法使いに充填してもらわなくていいんだね……!?」


「しかもこの電池とやら小さいから、携帯ができるぞ……!? 出先で切れてもすぐに入れ替えられるじゃないか……!」


 わぁわぁ二人して騒いでいた。そんなに驚くことなんだろうか?

 ……ちなみにカイオスさんは会話には参加してないけど、相槌を打つように何度も頷いていたから、彼も驚いているんだと思う。まるで赤ベコみたいだった。


「これ、他の商品も気にならない?」


「そうだな。……アキ、こちらの品はなんだろうか?」


「あぁ、それはライターですね。火が付けられますよ」


「……火起こしが楽になるじゃないか」


「アキくん、これは何?」


「それは絆創膏ですね。細かい傷口に貼るといいですよ。あ、探索者なら傷も結構負いますよね、少し大きい傷とかにはこのワンタッチパッドとかいいかもしれないですね」


「めっちゃ便利じゃん……。回復ポーションいるほどじゃない生傷の処理に最適すぎる……」


「……アキ」


「あぁ、それはマスクですね。感染予防にも使えますし、花粉症対策にも使えますよ」


「……花粉……八層のモンスター対策に使えそうだぞ、リーダー」


 ジャックライダーの三人組は次々と日用品コーナーからものを取ってはそれをカゴに入れていく。


「まさかこんなにもいい品があるなんて……しかも全部安いとは……」


「僕の世界ではこの値段で売っていましたので」


 正直、この世界用に価格設定をしたほうがいいのかもしれないが……こっちの世界の物の価値と価格がよく分かっていない。一先ずこのままで様子を見て、問題ありそうなら迷宮伯あたりから連絡が来るんじゃないかと思っている。


「なぁ、小さい虫に対する商品は何かあったりしないだろうか? 特に血や魔力を吸収するような虫がいてちょっと困っていて……」


「もしかして蚊みたいな奴ですかね? それなら……」


 この世界の蚊って血だけじゃなくて、魔力も吸収するんだ……。さすが異世界だ。


「蚊取り線香っていう煙で蚊を殺せるものがありますね。あとは虫よけスプレーもありますよ。直接なんとかしたいなら、この殺虫スプレーもいいかもしれませんね」


「そ、そんなに対策グッズがあるのか……!?」


 害虫対策用品は需要があるから当然コンビニにも一通りある。特に夏になってくるとこれらがないと暮らせない。あ、一応こっちの世界の虫に効くかどうかは分からないとは伝えておいたよ。


「ねぇ、リーダー。これさ……」


「あぁ、ちょっと想像以上だった……」


 デイヴィッドさんがカゴにいれた商品を見ながら頭を抱えていた。どうしたんだろう、一体……。


「あの……大丈夫ですか? 何か商品について分からないのであればもう一度説明しますが……」


「いや、大丈夫だ! 十分すぎるぐらいだ……!」


 デイヴィッドさんはそう言い切って、カゴをレジまで持っていった。カゴに入れた商品はすべて買ってくれるみたいだ。ちなみに日用品以外にも、食品なども買ってくれている。


「あ、リーダー! あとこれもよろしく!」


 と言ってベルナールさんがカゴに追加したそれは……グラビア雑誌だった。


「それは……戻してこい」


「えー、いるでしょ? ね、カイオスもそう思うよね?」


「……いらない」


「とにかく、今日はダメだ。戻してこい」


 それから三人はいるいらないと言い合いをしていた。

 ……なんだか仲良く悪ふざけする学生みたいで、微笑ましくもありちょっと羨ましくもあった。

 なにせ僕は元の世界では友達が少なかった。高校時代はバイトで必死だったし、大学生になってもあまり変わらなかった。

 大学に至ってはあのパンデミックが流行り始めた時期と被ってしまっていたし。お陰でリモート授業ばかりになり余計に同年代の人たちと距離感が生まれてしまった。

 そんなんだから就職に失敗したところもあるかも。

 ……まぁ一番の理由はばあちゃんが亡くなったからだけど。ちなみにばあちゃんは天寿を全うしただけだから安心してね。


「なぁ、アキくん! 君ならこの雑誌の良さが分かるだろ! あの朴念仁共に言ってやってよ!」


「え、いや僕は――」


「おい、アキを巻き込むな」


「店主、巻き込む。よくない……」


 ……なんか気付いたら巻き込まれてしまった。でもちょっとその輪に入れて楽しかったからいいかな。


「はいはーい、分かりましたよ」


 結局渋々といったようにベルナールさんが雑誌を戻しに行った。……まぁ、手に取ってしまう気持ちは分かるけども。


「それにしてもこのコンビニは品揃えが素晴らしいな。万能雑貨店と呼べるのではないか?」


「万能雑貨店? いやいや、うちはただのコンビニですよ」


 そう、売っている商品は何もかもが普通の、ごくありふれた商品たちに過ぎない。品揃えは確かにいいかもしれないが、万能ってほどではないと思う。店員の僕だって普通の人だしね。


「ありがとうございました〜、またのお越しをお待ちしております」


 色々と買ってくれたから、店側としてはありがたい限りだった。

 彼らは探索者だからこれから迷宮攻略に向かうのだろう。八層がどうのこうのと言っていたし、それくらい浅い層ならまだ初心者ぐらいの探索者なのかな?

 なんにせよ無事に帰って来て、またこのコンビニを利用して欲しいものだね。



浅い層(最前線)

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