12.探索者のお客様
「よし」
日課の店内掃除を終わらせて、最終確認をする。まぁお客様があまり来てないからそこまで汚れてはいないけど。
昨日はココさんが来てくれたとはいえ、一人増えた程度ではあまり変わらないよね。ちなみにココさんは思う存分に泣いてからコンビニを立ち去った。
『この雑誌は次はいつ入荷するの?』
『週刊誌なので毎週水曜日発売ですね。なので来週に新しいのが入荷されますよ』
『来週の清流の日ね。わかったわ』
推しのフジカ先輩が死んでしまったとはいえ、話の続きは気になる様子で、また来週に来てくれるそうだ。ちなみに僕は本誌を読んでしまったとはいえ、単行本派なのは変わらないから、次からは本誌のネタバレをしないように言っておいた。
『……わ、悪かったわね! あの時はつい驚いちゃって……』
ネタバレをしてしまったことは謝ってくれた。まぁ、誰だって推しが死んだら取り乱すよね……仕方ないね。
そんなことがあった翌日の今日もコンビニを営業する。どんな人がいつ来てもいいように、しっかりと準備しておかないとね。
入口横の消毒液だって完璧に補充して置いてある。あの世界的なパンデミックが残していった爪痕のそれは、もうすっかり日常の一部になっていた。
僕としては色んな所に常設されるようになって、出先でもすぐに消毒できるようになった世の中は、ちょっと便利になったと思っていた。すごい潔癖症ってわけじゃないんだけどね。
異世界に来てしまった身として、異世界のウイルスはよく分からないし、気をつけておいて損はないだろうし、いつものように、入口には消毒液を置いておくことにした。
「いらっしゃいませ。ようこそ、スマイルストアへ」
入店音が鳴ったので条件反射的に、僕はいらっしゃいませと言う。……これはもう職業病なんだ。別店舗にお客様として買い物に行った時も同じように叫んでしまったことがあって、恥ずかしかったことがあるくらいに。
「お〜、ここがコンビニって店か……」
「すごいっすね、リーダー」
「うむ……」
……なんてこった。新しいお客様が三人も来てくださった!
今回は男性の三人組だ。年齢的には僕とそれほど変わらなさそうな、青年たち。ただそれぞれ剣だったり、弓だったりを装備しているから普通とはいい難いけど。
いや、ここは迷宮で、お客様として来るようなのは探索者たちしか来ないのだから武装しているのが普通か?
「こんにちは……えっと君が店主で合ってるよな?」
「はい、僕がオーナー兼店長の春夏冬 始です」
この店には制服を着た僕一人しかいないから分かりやすいはずなのに、責任者だと言うとなぜかみんな不思議そうな顔をする。
……もしかして未成年者だとか思われている? 確かに僕は年齢のわりには童顔だと言われるけど……そんなことはないよね?
「俺は【ジャックライダー】のリーダー、デイヴィッドだ。どうぞよろしく!」
なんというか、気の良い好青年みたいな人だ。握手を求められたので応じる。……ちょっと痛かったのは、握力が強い人だからなのかな? 探索者って職業をしているなら納得だ。
「アキナイさんだったか? なんだか変わった名前だな?」
「呼びにくいならアキって略してもいいですよ」
「そんな風に呼んでいいのか……君の家名だろう?」
「ええっと…… 向こうではそう呼ばれていたので、全然構いませんが」
どうやらこの世界では、貴族や権力者など特別な地位にいる者しか家名を持たないし、名乗らないらしい。……つまりアイリスさんたちや、ココさんはそういう人たちだったんだね。
「本人がいいって言ってるからいいんじゃない? ということでオレはアキくんって呼ぶよ!」
「まぁ……それでいいなら俺もそう呼ばれてもらおうか」
隣にいたちょっと軽薄そうな人が僕をそう呼んだので、デイヴィッドさんが少し苦笑しながらも頷いた。
ちなみに【ジャックライダー】というのがパーティ名らしい。
デイヴィッドさんがリーダーで小盾を持った剣士。
デイヴィッドさんよりもさらに明るい、軽薄そうな人が斥候のベルナールさん。対して二人と比べて寡黙そうな弓士がカイオスさんだそうだ。
「ここは雑貨店だと聞いてきたが……食品が多いんだな」
「そうですね。商品の殆どは食品ばかりですね」
「なるほど、食料雑貨店と思えばわりと普通か」
おにぎりや弁当を始め、お茶などの飲料、お菓子や冷凍食品、カップ麺からホットスナックなど店内で扱う商品の七割が飲食品だ。日用品や書籍などが残りの三割に入る。
あっちでも食料雑貨店とも呼ばれていたから間違いではないね。
「少し店内を見て回っても構わないだろうか?」
「ええ、もちろんですよ! お好きに見て回ってください!」
どうやら今回のお客様は調査でもなんでもない、純粋なお客様のようだ! しかも探索者のお客様だ!
何か粗相があってはいけない。僕は地上に上がれないのだ、宣伝をすることも難しい。
だから今はコンビニを利用してもらったお客様の口コミに頼ることになるだろう。
彼らは噂を聞き付けて物珍しさで来てくれたに違いない。出来れば満足して帰ってもらい、口コミを広げてもらうのはもちろん、リピーターにもなって欲しいところだ。
『あなたに笑顔を、スマイルストア』のキャッチコピーを思い出しながら、僕は彼らの接客をすることにした。
「あ、そこに消毒液があるので良ければ使ってくださいね〜」
「消毒……?」
……あれ、もしかしてこの世界の衛生概念のレベルって低いのでは?
僕はちょっとだけデイヴィッドさんたちから離れた。いや、これは自己防衛だからね?
とりあえず消毒についてデイヴィッドさんたちに教えてみたんだけど……。
「それって聖水じゃないのか?」
「説明的に聖水だよね。カイオスもそう思うっしょ?」
「……ああ。聖水だ」
……消毒液が聖水扱いされてしまった。
「病原菌を殺菌するだけなんですが……」
「穢れを浄化するのだろ? ならやはり聖水だな」
確かに言い方を変えればそうなりますけどぉ! なんか納得できないよ!
「さすが神の加護を持つ店だ……聖水で清めてから入らなければならないのだな」
逆に向こうはなぜか納得してるし。
……まぁ互いの衛生状態が清潔に保てるから、別にいいか。




