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11.出会いと別れは突然に

「本当に消えたわ……!」


 落ち込むココさんが見ていれなかったので、僕は誰でも手軽に転移魔法を体験できるものを教えた。

 それはもちろん、ゴミ箱だ!

 ちょうどゴミがあったので、ココさんに代わりに捨ててもらった。


「一体どうなっているの? これ入ったらあたしも転移するのかしら?」


 ココさんがゴミ箱に躊躇なく頭を突っ込んで行った。……そうか、側から見たらこんな感じになっていたのか。僕がやった時は一人でよかったなぁ……。


「うーん、転移しないわね? やっぱり人間は識別してるのかしら……あっちょっと、なんで抜けないの!」


 何やら引っかかった様子で、ゴミ箱から上手く頭を出せないらしい。身体をくねくね揺らしながら、なんとか抜け出ようとしていた。

 ……これ僕が手を貸しても大丈夫なやつですか? 正直色んな意味で見ていられないんだけど! 助けて、アイリスさん!!


「ハジメ、何してるのよ! さっさと助けなさい!」


「……は、はい!」


 当然アイリスさんは居ないので、仕方なく僕がゴミ箱に喰われかけていたココさんを救出しておいた。……このゴミ箱は要注意だな。二度も人間を飲み込んでいるのだから。


「いつまで触ってんのよ!」


「すみませ――ぐっ!」


 鳩尾に肘を喰らった。不可抗力! ちょっと後ろから抱き上げただけで、僕は誓って何もしてませんって!!


「ねぇ……今見たこと忘れてよね?」


「は、はい」


 ……できれば文句を言いたかったけど、ココさんの指先がバチリと光ったのでやめておいた。

 こう見えて優秀な魔法使いらしいし、怒らせたくはない。……本当に優秀か疑わしくなってきたけど。でも同じゴミ箱に飲み込まれた同志だしなぁ……。


 そのまま彼女はまたコンビニを見て回った。……早く調査が終わって欲しい。何事もなく。


「ここって本当に色々あるわね……ねぇ、これは何?」


「それは漫画ですね」


 ココさんが気になっていたのは雑誌コーナーの横に置かれた漫画の新刊コーナーだ。

 本屋ほど充実はしてないけど、話題作の新刊を数冊取り扱っていた。僕がこの前読んでいた漫画もある。


「マンガってのはよく分からないけど、異世界の書物は気になるわね」


 ココさんは適当に漫画の一冊を手に取ってパラパラと中身を見ていた。……立ち読みは基本的にダメなんだけど、まぁいいか。

 それよりココさんは日本語分かるのだろうか? 絵が主体とはいえ、セリフとかは当然日本語で書かれている。


「え、なにこれ……見たことない魔法使ってる……」


「魔法少女ものですからね」


 ココさんが読んでいるのは魔法少女マイという漫画だった。主人公のマイが魔法少女となり、悪魔たちから人々を守るというわりと王道の漫画だ。


「あんたの世界にはこんな魔法があるの!?」


「いや、そういうの一切ないですけど」


「嘘でしょ!? じゃあなんなのよ、この魔導書は!」


「ま、魔導書?」


 ココさんは漫画を開いた。今回の最新刊の目玉、主人公マイが新たな力に目覚め、必殺技を撃っている見開きのページだった。


「難解な魔法をイラストで分かりやすく説明しているだけでなく、飽きないようにストーリー性を持たせたことで楽しく魔法を学ぶことができる……これが魔導書じゃないって言うならなんだって言うのよ!!」


「なんだって言われても……漫画です、としか言えないんですけど」


 なるほど……異世界人にとっては、漫画はそういう風に映るんだ……。


「さっきも言ったように僕の世界に魔法とか一切存在しません。なのでここに書かれているのはすべて作者が作り上げた空想のものなのですが…………」


「これが全部空想だって言うの!? すごく魔法について詳しく描かれているのに!!?」


 彼女はもう一度、今度は最初からゆっくりと漫画を読み始めた。……それにしても、日本語読めるんだ? いやもしかしたら商品にも翻訳魔法がかかっているのかもしれない。


「ええっと、じっくり読む場合は買って頂けるとありがたいのですが……」


「買うわ。それからこの魔導書……いえマンガね。このマンガの前巻もあるかしら? そっちも全部買うわ!!」


 即決だった。ちなみに最新刊は七巻なので、僕はすぐに六巻までを発注した。発注してすぐに転移魔法で届けてくれるから、お客様を待たせることがなくていいね。

 ココさんは七巻まで買うとイートインの席に座ってすぐに読み始めた。


 ――そして二時間後。


「うう……七巻のマイがかっこよすぎぃ……あの見開きの覚醒シーンに過去の想いが詰め込まれていたなんてぇ……!」


 そこには立派な限界オタクと化したココさんの姿があった……!


「すごく分かる。僕もあの覚醒シーンは最高だなって思ってたんだよね!」


「ハジメ……あんたもこのマンガを読んでいたのね」


 そして僕たちは熱い握手を交わした。もうココさんは同じ魔法少女マイファンのオタク仲間と言っていいだろう。


 ……というか、最新刊の七巻読んでから誰かに語りたかったんだよぉ!


 ここにはネットもないからSNSで一人語り散らすこともできなければ、他人の熱い感想を見ることもできなかった。まさに生き地獄だ。最高の作品を読むことができたのに、誰とも語り合えないなんて!

 そう、僕は飢えていたのだ。同じ漫画を語り合えるオタクの同志に!


 僕たちはそれから一時間ほど、魔法少女マイについて語り合った。もう最高だった。


「だから僕の推しはマイ一択なんだよね。素直で明るくて、人々のために一生懸命に頑張る彼女がすごく好きなんだ」


「分かるわ! 私もそう思うわよ。でも、あたしの一番はやっぱりフジカね」


 フジカとはマイと同じく魔法少女で彼女の仲間キャラだ。クール系のお姉さんで、先輩キャラとしてマイを導いてくれる。


「フジカがかっこ良くて……特に五巻の彼女が最高だった!」


「五巻からフジカ推しになった人が結構いたらしいからね」


「はぁ……もっとフジカの活躍が見たい。ねぇ、次の巻はまだ出ていないの?」


「最新刊が出たばかりだから、まだ当分は出ないと思うよ」


「そう……残念ね」


「まぁ、まったくないわけじゃないけど……」


「何それ! 勿体ぶらずに教えなさい!!」


 ココさんが僕の胸ぐらを掴んで激しく揺らした。

 そ、そんなに推しのフジカ先輩が見たいのか……。


「魔法少女マイは週刊誌に載ってる。週刊連載されているから……」


 僕は席を立って再び雑誌コーナーに戻った。

 あった、今週号。僕は目当ての週刊誌を手にした。


「そこに! そこに話の続きが乗ってるのね、よこしなさい!」


「あ、ちょっと!」


 ココさんがお金と引き換えに雑誌を奪い取っていった。まだ説明してないんだけど!


「それ今週号だから単行本より話数が進んでるよ! 読むならそこからじゃなくてバックナンバーから――」


「嘘でしょ……」


「え、どうしたの?」


 ページを開いて読んでいてココさんが震えながら固まっていた。


「フジカ、死んじゃった……」


 ココさんは涙目でこの世の終わりを見てきたかのような表情で、僕を見上げてきた。


「………………そうかぁ」


 僕もまた顔を覆った。

 僕は本誌派じゃなくて単行本派なんですけど……がっつり本誌のネタバレ食らっちゃったんですけど……!! ええっ、フジカ先輩死ぬの!? まじで!?!?


 それから僕たちは週刊誌のバックナンバーを取り寄せ、最新話に至るまでの過程を読んでから、フジカ先輩の葬式を開始した。


 僕のダメージはそこまでだったけど、ココさんのダメージがひどかった。

 何せ今日推しに出会えたかと思ったら、すぐに推しの死を見る羽目になってしまったのだから。


「悲しい……すごく悲しいけど、フジカは最後までカッコよがっだああぁぁあああー!!」


「うん、そうだね……」


 それからココさんの慟哭を聞いてあげた。

 だってこんな話をこの世界でできるのはきっと僕だけだったから。

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