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調査報告書:迷宮第一層に突如現れた謎の店について

 ――話は少し遡る。これは営業許可が出る前の話だ。


「やれやれ……コンビニというのは凄い店だったな」


「ええ、本当ですね……」


 ロンダール迷宮騎士団、団長のヨスと副団長トラヴィスは今し方出てきた店を振り返った。

 薄暗い森の中に明々と光り目立つ黄色い店。それはこの迷宮第一層に突如異世界から現れた【スマイルストア】という名のコンビニだった。


 娘であり騎士であるアイリスが見回りの帰り道で見つけたという報告を聞いた時は驚いたものだ。

 しかも、見慣れない袋に詰められた異世界の商品を証拠として提出されては、嘘でも冗談でもないと分かった。


 すぐ報告者のアイリスとその商品と共に、ロンダール迷宮伯に緊急連絡をすれば、その日のうちに迷宮伯とは会うことができた。

 こんな異変はこのロンダール迷宮が現れてから二十年と経つが起きたことがない。そもそも他の迷宮でも、世界全体として見ても前例がない。


 異世界というものはあるのではないかと、概念として実しやかに囁かれていたが、まさかその異世界からの店が実際に現れるとは誰も思わなかっただろう。

 いや、店だけでなく、人もこの世界に来ていたか。

 実態の分からない店とその店の店主を名乗る異世界人。あまりにも怪しく、そして警戒しなければならない存在だと、その時のヨスたちは思っていたのだが……。


『すごく興味深いですね。早速見に行きましょうか!』


『伯爵! 何を考えていらっしゃるのですか!』


 ウッキウキで今にも屋敷を飛び出して迷宮に向かいそうだった迷宮伯を、ヨスたちは全力で止めたのだった……。

 ああ、そういえばこの人はこういう人だった。と誰もが思った瞬間だった。

 なんとか迷宮伯を説得し(主にトラヴィスと迷宮伯の執事がしていた)迷宮騎士団のヨスたちが代わりに見てくることになったのだった。


「団長! ご無事でしたか!」


「おう、大丈夫だ」


 コンビニから離れた森林の向こう側に待機させていた部隊が、店を出てきたヨスたちを出迎えた。

 アイリスから報告があってからは探索者があの店に迷い込まないようにここら一帯を封鎖し、店の監視をさせていた。

 その間に怪しい動きはなく、ヨスたちに危険があれば突入するようにも指示をしていたが、そう言った事態にもならなかった。


「異世界から来たという時点で神の力が関与していると疑っていましたが……まさかあそこまでとは」


 トラヴィスはまだ驚きの尾が引いているのか、片手を眼鏡に添えながら、コンビニの方角を見ていた。


「〈博識の眼鏡〉で何か見えたか?」


 トラヴィスがかけている眼鏡は神器であった。迷宮から時たま手に入る、神からの贈り物。それが神器である。

 〈博識の眼鏡〉は様々な情報を眼鏡を通して見ることができる。魔法で言わせれば鑑定の魔法と同じ効果がある。


「それがうまく情報が出てこなくて……きっとこの世界の物ではなく、異世界の物だから情報がないのでしょう」


「そうだったか……」


 トラヴィスはあの店の商品や設備を眼鏡を通して見ていたが、出てくる情報は少なく、出てきたとしても異世界の用語が使われていたりと分からないものばかりだった。そのため、結局店主に説明を求めていた。


「ただあのコーヒーが眠気覚ましの苦薬であったように、共通する物に関しては少し情報がありましたが……」


 あとそれから……とトラヴィスは声を潜めて話し出す。


「……あのコーヒーを飲んだ私たちには睡眠無効の効果が付与されています」


「なにぃ……?」


 思わずヨスは瞠目した。眠気覚ましの苦薬では睡眠耐性が精々だが、まさかあのコーヒーには睡眠無効の効果があったとは。


「それからアイリスに攻撃力上昇や防御力上昇のバフがあります……」


「それってまさか……」


「ええ、あのおにぎりという食べ物のせいでしょう」


 ヨスは思わず娘のアイリスを見た。確かに今日はご機嫌で調子が良さそうに見えるが……。


「あの店、ただの店というには特殊過ぎますよ……」


「だな……」


 だが、これはもしかしたら僥倖なのかもしれない。

 二十年前に現れたこのロンダール迷宮だが、攻略した階層はまだ八層である。この規模の迷宮ならもっと下に続いてそうだが、難易度が高く進みが悪い。八層に到達してからもう三年の月日が経っていた。

 その八層までに得られる迷宮資源だけでも、このロンダール領は十分潤っているが、それでも探索者たちはその先を目指そうとしていた。


 もしかしたらあまりの攻略の遅さに焦れて、神が手を貸したのだろうか? ついそんなことを考えてしまう。


「とりあえず、これも迷宮伯に報告だな……」


「ええ、そうですね」


 部下たちには引き続き店の監視を言い渡して、ヨスたちは地上に戻っていく。

 きっとあの店の営業許可は出されるだろう。だがまだしばらくは、通常に営業することはできないはずだ。


「それにしても、ずいぶんと若い店主だったな」


「アキナイ様ですか? ……確かに成人しているのでしょうか?」


 鍛えていないのは目で見て分かるくらいに、ひょろりとした背丈の少年だった。もしかしたら十七歳のアイリスと同じ歳かもしれない。

 そんな年若い子供が親元を離されて、一人異世界に飛ばされてしまうとは……なんて可哀想なんだ。


「ハジメには優しくしてやろう……」


「ええ、そうですね……」


 つい親目線で話してしまうおじさんたちだった。


何も知らない春夏冬 始さん(24)

普通だと思っているのはアキくんだけです。

次回更新は少し飛んで25日からです。

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― 新着の感想 ―
コーヒーがあるならコーヒーゼリーもでしょうw ブラックスライムとか言われそうwww
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