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元カレ、洗濯機男

 大学時代、バイト先で出会った彼は洗濯機みたいな男だった。

 清潔感漂う似非さわやかイケメン。自分の与えられた仕事以外しないのに全て自分がやってますという顔をするタイプだった。まあ、洗濯機が干して畳んで仕舞うまでやったら怖いけど。

 すでに社会人として自立していて大人。大学から上京してきて一人暮らし歴も長く生活もきちんとしている。金持ちってわけじゃないけど「男が女を守らなければならない」と思い込んでいる人で大事にされた。デートで割り勘なんかしたことなかったし、程よくツボ得たプレゼントもしてくれるので、大学生のわたしにとっては自慢の彼氏だった。

 けど彼の家族の話を聞いた時、都市伝説かと思うほどあからさまな男尊女卑にぞっとし、彼との将来をリアルに考えたくない自分に気づき、就職を理由に別れを告げた。

 彼は自分が育った環境、家族に疑問を持ったことがない。

 やたら男女の役割を明確にして、女性を自分の都合のいい家政婦として扱っている男性をおかしいと思わない。それが女の幸せだと疑わないということが分かった。

 いろんなことを彼に教わった幼い彼女だったが、わたしだって成長する。娘が自分に従順な可愛い時代で止まってしまっている父親みたいに彼は変わっていくわたしを認めない。自分が稼いでいるから家庭はうまく回っていると思っているダメ親父、他の視点で家族の生活を想像することもできない。

 もし結婚したらわたしはこの人の妻ではなく、無償の家政婦、保育士、娼婦にされる気がした。逃げ出したくても経済的に自立する道を最初に絶たれてしまい養われて生きていくしかない。実際はそんなに無能ではないのに、支配下で能力を過小評価され続けて自立できないと思い込まされる。

 別れ話を切り出した時、自立した一人の女性として向き合いたいと言えば、わたしが遠慮していると受け取った。

 こちらもバカな女のふりをし続けていたなと反省し、言葉をかみ砕いて言うと「やっぱり女性は能力的に劣っているから男性が導いてあげるべき」と諭し出す。頭にきて反論したら「女性は感情論で物を言う。もっと楽に生きていいんだよ」と男に肩を並べて髪振り乱している女性を憐れむかのように笑った。

 男に対抗意識なんか燃やしていない。

 同等に意見を述べているだけなのに、男女の役割の違いを理解しない可哀想な女だなと憐れまれた。

 見栄っ張りのモラハラ男は従わない女は平気で捨てるのだろう。もっと逆恨みされてストーカーみたいになったらどうしようと思っていたが、案外あっさり別れられた。

 むしろ関係のない人間に傷つけられた。

 似非さわやかな彼の見た目と経済力だけを見た周り人たちは、わたしを愚か者だと罵った。あんないい人もう現れない。もったいない。

 親や友達にも理解されないのでモラハラ男から逃げた自分の雄姿を讃えて欲しい気持ちでネットに書きこんだ。わたしの文章力、表現力が乏しかったのだろうか、讃えるんじゃなくて叩かれた。

 結婚できない人、離婚したい人、経済的に苦しい人、何かしらの事情で家から出られない人、全方向から真面目に非難が来た。すごい長文で罵られたのは「きちんと一人の人間として愛されていたのに贅沢だ」という意見だった。

 わたしは今時珍しいくらいまともな恋愛をして、まともな別れ方をしたんだと知った。それなのにフェミニズムかじって正義感振りかざして社会の一員として戦っている悲劇のヒロインぶっていると説教されてしまった。

 世の中には女どころか人間扱いされない女性がいる。最初から体目当ての都合のいい関係、性欲処理の道具にしかされない女性の体験談を前にするとわたしの頭の中はお花畑だ。恋人として大事にされ、周りに羨ましがられ幸せな時間は確かにあった。それは贅沢なことだと。

 わたしの悩みは「世間知らずの若い子の自慢」と解釈された。

 恵まれた人が嫌だと声を上げることは自慢にしかならないので言ってはいけないようだ。

 そして自慢する人は無条件に攻撃していいらしい。

 言葉では共感しましたと味方のように接してくる人もいるけど、結局自分語りが始まる。わたしに寄り添うのではなく、似たような経験をした自分の話を聞いてほしいだけ。わたしはその思い出スイッチの役割にされただけで、その人と同じ気持ちになんかなってない。それは共感と呼ばない。誰かの自尊心を満たす投影の対象として使われるのも、性処理の道具として扱われる女と一緒ではないのかと思えてくる。

 だから洗濯機は捨てた。



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