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相性が抜群に悪い

 オーブンレンジの修理をお願いした三日後、給水タンクを外すと謎のネジが落ちてきてきた。すぐにスチーム機能を使わなかったので気づかなかった。ネジがあったと思われるところを指でさぐると、プラスチックの破片がボロボロと落ちてきた。

「これはわたしの使い方の問題ではないよな」

 修理業者の顔が浮かんだ。眼鏡をずらしてタブレットに映した解体部品図を見ながら操作する中年男性。並行して持つスマホの待ち受け画面に幼稚園生ぐらいの女の子が見えたので、妻子のいる安全なおじさん、結婚は遅めで仕事に堅実な人、アラフィフの老眼オヤジ、と勝手にプロファイリングした。

 オヤジがネジを外してプラスチックカバーを開けると内側と基盤の一部が汚れていた。

「お手入れできるところじゃないんで、気を付けて使っていただくしかないですね」という状況説明を兼ねたアドバイスをされた。ネジを外して初めて分かる部分、どうやって気を付けるのか聞きたいぐらいなのに、故障の原因は食べ物系の汚れで使う人に問題があったかのように聞こえた。

「リコール級に構想が悪いんじゃないの」とネットで得たネタで反論しそうになる自分を抑える。修理業者は開発者ではないのでこの人に文句言ってもしょうがない。

 すべてを「そうなんですか」に凝縮し、三年保証内無償修理なので黙って聞いていた。基盤を変えて直りさえすれば、この人とも二度と会うことがないのだから穏便に済ませようと思った。

 しかしネジが落ちてきた。

 老眼でよく見えてないのに、長年の勘だけを頼りに電動のドライバーで無理矢理ねじ込んでネジ穴の溝を壊したんじゃないかと、プラスチック片ができるまでの工程を想像して創造してしまう。

 ずしりと背中が重くなる。

「やっぱり、ダメか」

 このレンジは前のレンジが完全に壊れて急を要していた時にうちに来た。ハイスペックなのに型が古いから破格、そのお得感に懸念材料がありながら買ってしまった。

 自分の中でこじつけたジンクスだから使い続けて全く関係なかったと思える日が来ることを願っていたが、三年以内に「やっぱり、ダメか」という言葉が出てしまった。

 わたしはこのメーカーとの相性が抜群に悪いのだ。

 以前、このメーカーの洗濯機を買って三年保証内で壊れた。

 修理を頼んだがすぐに壊れた。直っていないというより余計壊れた。

 このまま洗濯したらタガが外れた樽みたいにバラバラになるんじゃないかと思うほど怪しげな機械音がするので再修理依頼の電話をした。一度目は店を通してだったか記憶が定かではないが、二度目は修理完了書にある問い合わせ先、メーカーに直接電話した。

 しかし話がなかなか通じない。ひと通り状況説すると、担当に代わると言われメーカーのⅭⅯソングを十分ぐらい聞かされた。長すぎる放置に苛立ちもしたがここで切ったらまたあの説明を最初からしなければならない。さっきの人はあんまり知識がないなりに担当者に説明して、担当者は即座に修理に伺えるようにと解決策を携えて電話に出る準備をしてるのだ。と良い方に想像して信じ、繰り返されるメロディを聴いていた。

 しかし、やっと出た担当者の第一声は「どうされましたか?」だった。まったくもって引き継がれておらず、わたしはまた最初から同じ説明をさせられた。

 そして二度目の修理は、その場では直せないようなので預かりとなった。

 修理業者は前回と同じ男性でボソボソと喋り、そこまで暑い日でもないのにやたら汗をかいていた。洗濯機を軽々と運ぶ姿は体力系で、新規の設置は得意だけど修理はそれほど請け負ってないのでは? と無駄なプロファイリングをした。

 代替品を置いて行かれたのでコインランドリーに行くという苦行は免れたが、なんとも言えない気持ちがこみあげてくる。そして、直ったと言って帰ってきた洗濯機はまたすぐ壊れた。時限爆弾のようで腹立たしい。設置してすぐに壊れてくれれば文句の言いようがあるのに。

 再びメーカーの問い合わせ先に電話すると「お求めになった家電量販店にお問い合わせください」を繰り返し、個人の客がここに直接電話するなと遠回しに言っている。以前ここに問い合わせたと言っても聞く耳を持たない。悪質クレーマーとしてブラックリストに入れられているんじゃないかという対応を受けた。

 あの汗かき男はどんな報告をして修理完了しているのだろうか。データとして残された修理報告はきちんと真実が伝わっているのだろうか。顧客情報として、何度も修理を依頼する頭のおかしな客にされてはいないだろうか。わたしがものすごいモンスターとして報告され、会社側も直接訴えられないように店を間に挟んで回避しようとしいてるのかもしれない。汗かき男だけが知っている本当の客は友達少なそうな地味な女。こんな小さな客の一人無視しても問題ないと思われたんだろう。もしかしたら、本当は修理できてないのにできましたと言って投げ出し、あの人はここを辞めてしまったのかもしれない。

 いろんな妄想が膨らんでしまい怒りが抑えられず、ネットに書き込んでメーカーに謝罪させようかと思ったが、やめた。粗大ごみに出し新しい洗濯機を買った。

 もう、そういうので無駄に傷つきたくないから。

 家電と人間って似てる。


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