第7話:変化の兆しと、すれ違いの予感
翼と澪が初めて協力に向けて踏み出す一方、その姿を見た風間が誤解を抱き始める回です。
友情と信頼が少しずつ揺らぎ始めます。
人気のない公園のベンチに、翼と澪が並んで座っていた。
澪はタブレットを膝に置き、静かに空を見上げている。翼は何度も口を開こうとしては、すぐに閉じていた。
「……あのさ」
ようやく絞り出すように声を発した翼に、澪がゆっくりと視線を向けた。
「俺……ちょっと、おかしなことが起きてるんだ」
「……知ってるわ」
「え?」
澪はふっと笑った。
「“違和感”は前からあったもの。あなたが変わり始めたって、何となく分かってた。でも、まさか……異能、だったなんて」
翼は目を丸くしたあと、少しだけほっとしたように笑う。
「そっか……ばれてたか。じゃあ、もう隠す意味ないよな」
翼はポケットから小さなUSBメモリを取り出した。
「試したんだ、いろいろ。ゴミ捨て場にあったブラウン管テレビ、壊れたミニコンポ、あとは……このメモリ。全部、触れたら消えて、金が出てきた」
「“価格分のお金よね?」
翼は驚いて澪を見た。
「……なんでそれを?」
「予測よ。あなたの行動と、わずかな偏差から読み取った結果。でも確信はなかった。いまのあなたの言葉で、つながった」
澪の目は真剣だった。翼は、その目にどこか安心を感じた。
「この力、ヤバいのはわかってる。でも俺、本当に困ってて……最初はつい、ゴミを触って。そしたらお金になって。止まれなかった」
「……止まらなくていいと思う」
澪の言葉に、翼は驚いた表情を浮かべた。
「あなたが無差別に人を傷つけるような力だったら、私は止めた。でもその力は、社会的には“異常”でも、人間的には“善悪”のどちらとも言えない」
「それでも、俺は不安で……」
「だから、共有してくれたんでしょ? 私は、あなたが話してくれたことが嬉しい」
澪の穏やかな微笑みが、夕日を背に浮かび上がる。
この瞬間、翼はほんの少しだけ、自分の異能と“向き合う”ことを選んだ気がした。
翌日の放課後。翼は昇降口で澪と待ち合わせていた。
澪からの提案はシンプルだった。
「あなたの力、もう少しちゃんと調べてみない?」
「……まあ、正直俺も気になってたとこだ」
澪が差し出したノートには、『異能使用の条件』『クールタイム』『変化の兆し』など、異能について整理したメモがびっしりと書かれている。
「思ったより本気だな……」
「当然でしょ。中途半端が一番危ない」
澪の言葉は冷静だが、その瞳には真剣な熱があった。
———
その様子を、少し離れた廊下から偶然風間が見ていた。
(え、なんだあれ……?)
見間違えるはずもない。あれは、間違いなく翼とクラスメイトの御影 澪だ。
ふたりは並んで資料を覗き込み、何やら真剣に話し込んでいる。
(まさか、付き合ってるのか……?)
風間の胸に小さな違和感が残る。翼からは何も聞いてない。友達なのに。
———
「最近、お前と澪って仲いいの?」
帰り道、風間が軽く探りを入れてきた。翼は少し焦りつつ、曖昧に返す。
「いや、ちょっと勉強教えてもらっただけだよ」
「ふーん……なんだ、俺に隠してることでもあるのかと思ったわ」
「バカ、そんなんじゃねえよ」
翼はそう言って笑ったが、風間の笑いは少しぎこちなかった。
———
自宅に戻った翼は、ベッドに倒れ込んでため息を吐いた。
「なんか、めんどくさくなってきたな……」
澪の存在は心強い。でも、風間には隠し事をしている。
その事実が、じわじわと胸の中で膨らんでいた。
日常が、静かに軋みはじめていた。
お読みいただきありがとうございました!
翼と澪が協力に踏み出す一方で、風間との友情にも小さなすれ違いが生まれ始めました。
次回以降、それぞれの関係がどのように動いていくのか、楽しみにしていてください。